二.
「――三笠?」
不意に手元が陰り、三笠は我に返った。いつの間にか窓辺から離れたスワロフが側に立ち、戸惑ったように自分を見下ろしていた。
「ん……あぁ、すまん。少しぼうっとしていた」
「キサマ、もう酔ったの?」
スワロフはやや眉を寄せつつも三笠の隣に座り、自分の盃を取った。
「少しくらいならまだ問題ない。――ともかく、アレクサンドルの事については安心してくれ。敷島姉さんが手を尽くしてくれる」
「フン……まぁ、ニコライに付き添いを頼んだし」
スワロフは一息に酒を飲み干すと、三笠の前に盃をずいっと押し出した。
「おかわり」
「……もう少し味わえ」
三笠は唇をへの字にしつつ、その盃にまた冷酒を注いでやった。
スワロフは鼻を鳴らし、盃に口をつける。
「サーシャの話が気になっているようね」
「当然だ。アレクサンドルと朝日姉さんはどうも一緒に行動していたようだからな。朝日姉さんは今一体何をやっているのか……」
「……朝日がサーシャの主、という可能性は?」
「ない、と思いたいな。……だが、今はまだ何とも言えない」
三笠は微妙な表情で酒を飲み干した。
朝日は我が主――アレクサンドルの言葉を思い出す。だが、その言葉の真意はアレクサンドルの意識が戻らない限りわからない。
歯がゆさを感じつつも、三笠は盃にやや多めに酒を注いだ。
「……それにしても、あれはなんだったのかしらね」
「あれ、とは?」
「忘れたの? 鳳仙花よ。あの機巧妖魔、一瞬何かが光った後で壊れたじゃない。なんだったのかしら、あの光は」
「あぁ……それはこいつだな。鳳仙花がいた場所に落ちていた」
三笠は近くの小さな箪笥から、銀色に輝く鉄針を取り出した。およそ人差し指ほどの長さで、錐くらいの太さがある。
「針……?」
「あぁ、それもただの針じゃない。特殊な鋼で作られた強靱なものだ。それに――見てごらん」
三笠は別の引き出しから小さな釘をいくつか取り出し、卓の上に転がした。鉄針をそれらに近づけると、釘はどんどん鉄針に吸い付いていく。
「磁気を帯びているの?」
「あぁ。恐らく磁力によって撃ち出されたこの針が、鳳仙花の機関部を貫通。機能停止に追い込んだ――というところだな」




