五.
肌を切り裂くような冷たい風が吹きすさび、三笠はとっさに顔をかばった。
無数の氷片が闇に生み出され、きらきらと冷たく輝いた。
「喰らえぇえええッ!」
怒鳴り声とともに女がサーベルを振るう。
途端、氷の弾丸と化した氷片が機巧妖魔めがけて殺到した。
機巧妖魔はとっさに装甲に覆われた両腕で胴体を守る。しかし露出した肩や首は氷弾にえぐられ、黒い液体を噴き出した。
「こんなところで遊んでいる暇はないの! とどめを……ぐっ」
突然、女が体勢を崩した。煌々と輝いていた瞳の輝きが急激に弱まる。
その隙を突き、機巧妖魔が地を蹴った。
鋼鉄の鉤爪が地面を深々とえぐりつつ、すくい上げるようにして銀髪の女を狙う。
「くっ――!」
「そうはさせん!」
ひるむ女の前に、腰だめに刀を構えつつ三笠は割り込んだ。
閃光が走った。黒い液体をまき散らしながら、機巧妖魔の腕が宙を舞う。
機巧妖魔が悲鳴を上げて、大きく後退した。ばっさりと切断された左の肩口からは黒いオイルと共に、血管めいた無数のケーブルが火花を散らしている。
「余計なことを……!」
地面に膝をついた女が舌打ちした。
三笠はやや呆れた気持ちで、彼女にちらりと視線を向けた。
「そう言っている場合じゃない。……もう動けないんだろう? スワロフ」
「黙りなさい! 私はそんな軟弱者では……うっ、く!」
銀髪の女――クニャージ=スワロフは立ち上がろうとしたものの、うめき声と共に座り込む。
「いいから、大人しくしていろ。あとは私が片付ける」
三笠はため息をつきながら、地を蹴った。
機巧妖魔が金切り声を上げ、めちゃくちゃに右腕を振るう。
三笠はたやすくその乱打をよけ、機巧妖魔の懐にするりと潜り込んだ。
鋭い目で切間を見抜き、軽やかな足取りで距離をはかる。
「とどめだ、行くぞ」
三笠の手中から閃光が迸った。
その瞬間――機巧妖魔の体がガクンと大きく震え、停止した。輝く目がチカチカと瞬き、肩のパイプから不規則に黒煙が噴き上がった。
三笠は軽くステップを踏み、機巧妖魔から距離をとった。
直後、轟音を立てて機巧妖魔が倒れる。その胴体は斜めに真っ二つになっていた。
「今日はやたらと妖魔に出くわす日だな。……おい、スワロフ。君は一体――」
「魄炉解放ッ!」
スワロフの叫びが三笠の言葉をかき消した。
三笠はハッと振り返る。スワロフがサーベルをまっすぐに向けていた。
青い瞳が燃えるように烈しく輝いている。