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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
参.死人に口無し
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二十一.

「眠れないんでしょう? 悪い夢ばっかり見てるって顔をしてるわ」

「そんなことはない……」

「うそだわ。少しやつれてるもの」

 細い指先が再び顔の輪郭をするりとなぞり、ゆっくりと首筋へと滑り落ちていく。

 その冷たさに、三笠は体を震わせた。

「……ッ、姉さん……」

「……まぁ、昔よりはずっとましな顔をしているとわたしは思うわ。八島の言ってたことは一部は正しくて、一部はまちがい」

 とん、と初瀬は三笠の胸に指先を置いた。

『惰性で生きているだけ』――八島の言葉を思い出した三笠は、やや表情をゆがめた。

「三笠は生きる事に戸惑っているのよ。そうでしょう?」

「……どう、かな」

 はっきりと否定することができなかった。

 苦い表情で小さな姉を見下ろすと、彼女は当然といわんばかりに肩をすくめた。

「あなたは月のない夜の迷子だわ。だから朝日姉の関わっている案件に絡んだら、どんどん真っ暗な方に引きずり込まれてしまう」

「……その朝日とやらは今は何をしているの?」

「ないしょ」

 鋭いまなざしのスワロフに対し、初瀬は人差し指を唇に当ててみせる。

 三笠はやんわりと彼女の手を握った。

「それは困る。初瀬姉さんの話だと、朝日姉さんが危険にさらされているようじゃないか。そのためにも私と敷島姉さんとで――」

「……だから、ないしょ。言ったら絶対に首を突っ込むから」

 細い指先がするりと手の中から抜けた。

 初瀬はできの悪い子供を見るような目で幽かに笑って、三笠の唇に触れた。

「それにさっきも言ったけれど、わたしもそんなに詳しくは知らないの。ただね、朝日姉は自分の意思で動いていることは確かよ」

「……やはり、か。あの屋敷には、どこにも争ったような形跡はなかった。」

 三笠はうなずく。

 初瀬は三笠の顔をそっと撫でながら、肩をすくめた。

「朝日姉はね、大丈夫。三笠よりもしっかりとした意思を持って戦っているから」

「……何と戦っているんだ?」

「あら……」

 しまったといった様子で、初瀬は眼帯に隠された左目を手で覆った。

 三笠はたたみかけるようにたずねる。

「朝日姉さんは、何と戦っている?」

 その問いに初瀬は左目を隠したまま、探るようなまなざしで見上げてきた。

 三笠は彼女の細い肩に手を置き、じっとその目を見つめる。

 やがて、初瀬は目を伏せた。

「……これだけは言えるわ。この帝都は、どんどん危機に呑まれていってるの」

「帝都が?」

「えぇ。覚えがあるんじゃない?」

 三笠の脳裏に、敷島の話が蘇った。

 徐々に増えている妖魔――それは摂理に従ったものだとスワロフは言っていたが、彼女はそれに対し違和感を感じていた。

「朝日姉はね、その危機を食い止めるためにいなくなったの」

「たった一人で、私達に何も言わずに?」

「えぇ。誰にも迷惑をかけないようにね――ただ」

 初瀬は紅茶を一口飲み、物憂げな様子でため息を吐く。

「わたしは、三笠にはこの話に関わってほしくない。でも……もしかしたら、あなたの助けが必要な時が来るかもしれないわね」


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