十二.
対して、香取は肩をすくめた。
「まぁ、あたしゃ名誉とかは別にどうでも良いですわ。ただまぁ――」
首筋に浮かぶ車輪状の鬼印に指を這わせ、香取はスッと目を細めた。
鋭いまなざしは、河内の背中を見下ろしている。
「……年下に使われる、ってのがねぇ」
「香取……?」
河内の声がどこか不安げに響いた。
香取はふっと息を吐くと、再び印を結んだ。そしてそれで、一文字に空を切る。
「――解」
カシャン、と小さな音が響いた。
同時に霊気の鎖が砕け散り、河内がよろよろと起き上がる。
「ひどい目に遭った……軍式鬼道とか反則でしょ」
「あーしないと聞かなかったでしょう? それより屯所に帰りますよ、始末書です」
「えぇーっ!」
「えーじゃねーよ。……えーじゃありませんよ」
丁寧な口調で言い直すと、香取は三笠達に向き直った。
軍帽を取り、深々と頭を下げる。
「このたびはウチの者が失礼しました……と。とりあえずこの件は黙っててくれません?」
「しっかたねぇなぁ」
敷島が唇をへの字にして、頭を掻く。
香取は軍帽を被り直すと、「そういえば」と軽く手を上げた。
「今日は原宿に何しにきたんですか? 神宮参拝ですかね」
「ん、違う。姉に会いに来たんだ」
「……朝日さんですかね?」
「ああいや、違う。朝日姉さんとは今連絡が取れないんだ」
「へ? なんで?」
三笠が首を振ると、河内が目を見開いた。
敷島が困ったように頭を掻く。
「朝日の奴、急にいなくなっちまってよぉ……心配だから探してんだ」
「……それ、大変だね」
河内はやや悲しげな表情になり、肩を落とした。
対して、香取はハッと小さく笑った。
「どーなんですかね。あの人のことだから、またろくでもないことやらかしてるかもしれませんよ……あの万魔の剣を盗み出した、とか」
「万魔の剣……?」
聞き覚えのない名前に、三笠は眉をひそめた。
するとスワロフが口を開く。
「……聞いた事があるわ。かつて魔女によってサバトの場で打ち上げられた、妖魔を操る魔剣だとか。数年前に、どこかのコレクターが入手したと聞いたけど」
「それが強奪されたんですよ。……ちょうど八日前にね」
「……八日前?」
香取の言葉に三笠はやや目を見開いた。
それはちょうど、朝日の行方がわからなくなった日だ。
「所有者の話じゃ小柄な女が襲ってきたとかなんとか……まぁ、朝日さんと関係がなけりゃ良いんですがね」
「お前、そんな――!」
「もー! なんでそんなこと言うの香取は!」
敷島の怒鳴り声を遮り、河内が香取をしかりつけた。
「可能性の話ですわ。――じゃ、あたしらはこれで」
「あ、ちょっと! もー、香取ったら!」
手をひらつかせ、香取は三笠達に背を向けて歩き出す。
河内はその背中を睨んでいたが、やがて申し訳なさそうに三笠達に向き直った。
「香取がごめんね。とりあえず、朝日さんのことでなにかわかった事があったら教えるよ」
「それは助かるな。……だが、忙しいのにいいのか?」
警邏隊の仕事量を思い出しつつ、三笠がたずねた。
すると河内はにっと笑った。
「さっきのお詫びだよ! アリョール人のお姉さんにも迷惑かけたし」
「……別に」
腕組みをしたスワロフがそっぽを向く。
河内は笑うと、「それじゃ!」と手を振って香取の元へと駆けだした。




