二.
「主を失い、祖国を失い、さらに信頼していた仲間達までも失った。……恐らくスワロフの精神はぼろぼろだ。私を憎んで彼女の気が済むのなら、それでいい」
「だ、だけどいいのか? 下手すりゃ殺されかねないぞ」
「大丈夫だ」
三笠はそう言って、敷島から離れた。
そのときは、そのときだ。――聞こえないよう、小さく呟く。
そしてなおももの言いたげな敷島を無視して、三笠はスワロフに声をかけた。
「スワロフ! とりあえず今夜はもういがみ合うのはやめよう」
「み、三笠……」
スワロフはひどくうろたえた様子で三笠の名を呼ぶ。
三笠はそんな彼女に対し、子供に言い聞かせるように静かにゆっくりと語りかけた。
「十分に戦える、とか言ったな。……嘘をつけ、さっきから若干右肩をかばっているだろう。実際はまだ完全に治っていないな?」
「いいえ、ワタシは――っ」
「完治したらいくらでも相手をしてやる。――だから、今は大人しくするんだ」
スワロフはしばらく沈黙した。
青い瞳が迷うように、三笠と敷島とを交互に見つめる。
やがて小さくため息をつくと、スワロフはゆっくりとサーベルの切っ先を下げた。
「……仕方がないわね」
「助かる」
スワロフがサーベルを鞘に納めるのを見て、三笠はほっと胸をなで下ろした。
正直、もう少し食いついてくると思っていた。
だがあんな話を聞かされた後では仕方がないだろう。先ほどの話をさらに詳しく聞くまでは、三笠と一緒に行動した方が良いと考えたのだろうか。
しかし、何も語るつもりはない。三笠はそっと自分の唇に触れ、赤い瞳を細めた。
「お、おい三笠?」
「……ん、あぁ」
戸惑ったように話しかけてくる敷島に、三笠は向き直った。
「……いろいろごたついていてすまなかった。とりあえず、朝日姉さんの家に行こう」
「お、おう……いやちょっと待て、あいつどうするんだ?」
敷島が、スワロフの方を顎でしゃくる。
そっぽを向いている彼女にやや苦笑しつつ、三笠は答えた。
「スワロフか? 連れていくよ」
「……マジか?」
「マジだ。彼女はいちおう怪我人だし、どこかで倒れられても困る。……それに、決裂したバルチックが奴にまた接触を図りに来るかもしれない」
そうなれば、スワロフは一体どうなるか。
神社での事を考えれば、バルチックが荒い手段をとってくる事は十分にありえる。
だから、三笠はスワロフを呼んだ。
「スワロフ、とりあえず私達についてこい」
「あら……良いの?」
スワロフが青い瞳を細め、腰に佩いたサーベルの柄にそっと手をかた。
「ワタシが約束を違えて、キサマの背中を襲うかもしれないわよ?」
「お前の好きにすればいいさ。ただ――バルチックというのは約束も守れないのか?」
「……フン」
スワロフは眉間のしわを深めつつ、三笠達に近づいてきた。
やはりかなり背が高い。近くで見ると、三人の中では一番の長身だ。
敷島はやや顔をしかめ、スワロフを見上げた。
「……てめぇ、でけぇな」
「ワタシは平均よ。キサマらが小さいだけ」
「アリョール人みんなこんなにでけぇのか……ヤバイぜ。というか怖ぇぜ」
「それより、早く朝日姉さんの家に行こう。少し時間を喰ってしまった」
三笠はラジオベルで時刻を確認する。




