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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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三十六.

「はぁっ……は……」

 震える手で刀を納め、三笠は地面に膝をついた。

 視界が揺らぐ。様々な音が脳内でこだまし、三笠はこめかみを押さえた。ほとんどの霊気をあの一撃に注ぎ込み、今は立っているのもやっとの状態だった。

 三笠、とスワロフに呼ばれた気がする。

「……あぁ」

 三笠は立ち上がり、振り返ろうとした。

 その一瞬、足腰から力が抜けた。ぐらり、と一際大きく視界が揺れる。

「あっ……」

 嫌な浮遊感に肌が粟立った。

 上体が大きく後ろに揺れる。満月の静かな輝きがのけぞる三笠の指先をかすめた。

「――三笠ッ!」

 絶叫と同時に、三笠の右手が強く掴まれる。

 硬いコンクリートに全身をしたたかに打ち付け、三笠は呻いた。

「くっ……スワロフ」

「もっとしっかり掴まりなさい!」

 怒鳴りながらスワロフはもう片方の手で三笠の右手を掴み、引きあげようとする。

 三笠はなんとか力を込め、彼女の手を握り直した。

「善処、する……っぐ!」

「ヤァ――ッ!」

 渾身の気合いと共に、スワロフは三笠の体を屋上へと引きあげた。三笠は濡れた地面に倒れ込み、体の痛みと重さに呻いた。

「……すまない。ありがとう」

「血の気が引いたわ……はぁっ」

 スワロフは地面に腰を下ろし、深々と息を吐いた。

 三笠はしばらく深呼吸を繰り返した後で寝返りを打ち、大の字になった。

 雲の消えた夜空に、満月が静かに輝いている。アマツキツネの姿はもう見えない。

「……見ろ、月が綺麗だぞ」

「フン、だからどうしたというの」

 三笠の言葉に、スワロフは鼻を鳴らした。しかし彼女も眉間に皺を寄せつつ、空の満月にじっと見入っている様子だった。

 それからしばらく二人は黙り込み、辺りには風の音だけが微かに響いていた。

 やがて、スワロフがぽつりと言葉を漏らした。

「……滅茶苦茶なことをやったモノね」

「私の力じゃない。私の霊気で渦を作って、アマツキツネ自身の霊気を返しただけだ。おかげで今はもうほとんど体を動かせんよ」

「フン……」

 スワロフは鼻を鳴らす。

 三笠は目を閉じた。しっとりとした水気を孕んだ夜風が肌に心地よい。

「思えば……私はここのところ、お前に助けてもらってばかりだな」

「……不本意だわ」

 低い声に、三笠は目を開けた。

 スワロフは座ったまま、じっと自分の掌を睨みつけている。

「六年間、ワタシはキサマを殺すことだけを考えていた。なのにここ最近のワタシは、どんどんおかしくなっていく――その変化が、無性に腹立たしいの」


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