一
静かに雪がふっていた。
夕闇はしんしんと深まっていくが、雪明かりであたりは明るい。
「あぁあああああ――!」
凄絶な叫びが静寂を切り裂く。
鮮血が飛び散り、異形の怪物がどうっと音を立てて雪に倒れ込んだ。
湾曲した角、筋骨隆々とした巨体――鬼だ。その全身はずたずたに切り裂かれていた。
野太い咆哮が響く。
怒り狂った二体の鬼が丸太のような腕を高々と振り上げた。次の瞬間、一撃必殺の威力を持った拳が次々に地上めがけて襲いかかる。
その狙いは、一人の少女。
振袖を真っ赤に染め上げた少女は、血走った目を見開いた。
うなりを上げて暴風雨のように迫り来る乱打――そのすべてが、少女には見えていた。
振り下ろされる拳を紙一重でかわし、それを足場に駆け上がる。
驚いた鬼が少女を振り落とそうと手を払った。
その寸前で、少女は高く跳躍する。両手に構えた軍刀が雪明かりに煌めいた。
鬼が甲高い悲鳴を上げる。しかし、もはや遅い。
「……死ね」
かすれた声で少女はつぶやく。
軍刀は深々と鬼の首筋に突き刺さり、赤黒い血を噴き上げた。
いっそう禍々しくその体を染め上げつつ、少女はすぐに軍刀を引き抜いて跳ぶ。直後、仲間の鬼の拳がそれまで少女がいた場所に叩きつけられた。
大木が折れるような音を立て、鬼の頸椎が粉砕される。
その一撃が決定打となり、首のねじ曲がった鬼の体は轟音とともに地面に崩れた。
少女はゆらりと刀を構える。
乱れた黒髪の向こうで、血走った眼がぎらぎらと輝いていた。その修羅の如き眼光に、最後の一体となった鬼が明らかにたじろいだ。
少女が一歩、進む。
踏み出すごとに、ぽたぽたと返り血が雪に滴った。
禍々しい刃の輝きに、鬼はおびえたような声とともにその巨体をすくませた。
そして少女は音もなく雪を蹴った。