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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
零.修羅になる
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 静かに雪がふっていた。

 夕闇はしんしんと深まっていくが、雪明かりであたりは明るい。

「あぁあああああ――!」

 凄絶な叫びが静寂を切り裂く。

 鮮血が飛び散り、異形の怪物がどうっと音を立てて雪に倒れ込んだ。

 湾曲した角、筋骨隆々とした巨体――鬼だ。その全身はずたずたに切り裂かれていた。

 野太い咆哮が響く。

 怒り狂った二体の鬼が丸太のような腕を高々と振り上げた。次の瞬間、一撃必殺の威力を持った拳が次々に地上めがけて襲いかかる。

 その狙いは、一人の少女。

 振袖を真っ赤に染め上げた少女は、血走った目を見開いた。

 うなりを上げて暴風雨のように迫り来る乱打――そのすべてが、少女には見えていた。

 振り下ろされる拳を紙一重でかわし、それを足場に駆け上がる。

 驚いた鬼が少女を振り落とそうと手を払った。

 その寸前で、少女は高く跳躍する。両手に構えた軍刀が雪明かりに煌めいた。

 鬼が甲高い悲鳴を上げる。しかし、もはや遅い。

「……死ね」

 かすれた声で少女はつぶやく。

 軍刀は深々と鬼の首筋に突き刺さり、赤黒い血を噴き上げた。

 いっそう禍々しくその体を染め上げつつ、少女はすぐに軍刀を引き抜いて跳ぶ。直後、仲間の鬼の拳がそれまで少女がいた場所に叩きつけられた。

 大木が折れるような音を立て、鬼の頸椎が粉砕される。

 その一撃が決定打となり、首のねじ曲がった鬼の体は轟音とともに地面に崩れた。

 少女はゆらりと刀を構える。

 乱れた黒髪の向こうで、血走った眼がぎらぎらと輝いていた。その修羅の如き眼光に、最後の一体となった鬼が明らかにたじろいだ。

 少女が一歩、進む。

 踏み出すごとに、ぽたぽたと返り血が雪に滴った。

 禍々しい刃の輝きに、鬼はおびえたような声とともにその巨体をすくませた。

 そして少女は音もなく雪を蹴った。


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