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正義の騎士団

騎士


この国で騎士になる事が許されているのは、王都国立学園というエリート育成校を卒業した者達のみと決められている。

しかし受験料に金貨ほにゃらら枚、次は入学費に金貨ほにゃらら。教材費にさらに金貨、授業は月額払い。施設利用費に…以下略


これでわかったと思う。騎士とは貴族専用の職業と言える。たまに豪商や他国の名家などもくるには来るのだが、他国の人は兎も角、平民上がりの人々は迫害されていると言ってもいい。つまりルーシュ君が考えている闘将の様な騎士と、この国の騎士は全く持って別物である。



だが、例外もある。


貴族や各街などに所属する、通称私設騎士団と言われる集団の事だ。この世界の騎士の定義として、王都を守るために国によって選抜された精鋭の事…となっている。なので、正確には騎士ではない。しかし、彼等こそが皆の思い描く騎士。皆の味方、庶民のヒーローだ。




この国の王都騎士は、エリート思考が強い。


王族と貴族を守るために生まれた軍隊というのが起源となっている。たが、実践経験はほぼゼロ、軟弱な軍隊だと思う。さらに個々が貴族で構成されているため、もし戦場に出る時は、一人一人の騎士を守るように民間の傭兵を雇うと聞く。騎士意味ないと思う。


彼らの通常の業務、それは上位の貴族の護衛である。城の中で従者としてついて回ったり、門の前に突っ立ってたり、レパートリーは豊富、しかし意味があるのか疑問が残る。なにせ、仕事らしい仕事というのを彼等はしない。従者は騎士の他に文官がつき、門番には雇った強靭な肉体を持つ門兵が常についている。はっきり言って無駄。無駄なんだよぉー!


っとまぁ愚痴をこぼしても仕方が無い。


世の中には救いがある。ルーシュ君が思い浮かべるようなTHE☆騎士の人々がいるのだ。


そう!それこそが私設騎士団!街の警備、安全を担う逞しい漢達の集団!すべてを力づくで解決し、筋肉にものをいわせ正義の道を貫く無敵の勇者だ!


「ふん!ふん!!ふん!!!ふんー!!!!」


しかし、彼等のその肉体を維持するのは、並大抵の事ではないだろう。


「はっ!はっ!!はっ!!!はぁーーっ!!!!」


日々鍛錬をその身に積み、闘争を糧に進化を続ける強靭な肉体そして精神。


「うおぉぉおおぉぉ!うおおぉおぉ!!うおおぉおぉぁぁあ!!!うおおぉおぉぉぁぁらぁあ!!!!」


何年、何十年と鍛えられ、無限の力を蓄えた筋肉に不可能は無い。


「うるぁ!うぅるぁあ!!うぅるぅぁああ!!!うぅんるぅぁああああああああ!!!!」


その魂は来世を担う若者にも受け継がれ、鋼の輝きを持つ騎士道は折れ曲がる事を知らない。


「あべし!」「ばびゅぁあ!!」「べぶらっ!!!」「ぶへっ!!!!」


その身に叩き込まれた鉄拳。何十年とこの街を守ってきた騎士の思いはこの時、若者達の心に刻まれた。その瞬間…!


……。


………っふぅ。


…ああもう疲れた。



とにかく、我がジェスパーダ家の小さな領地にある唯一の街、ビュッフェを守る直属私設騎士団アーマードはそんな集団である。最初みた時は銅像がスクランブルでも組んでるのかと思った。

常に汗を纏い、ツヤツヤと輝く肉体、隆起する丸太のような筋肉は、見ていて暑苦しさと寒さ両方を感じる新体感。


うん、なんかおかしいな。私変だ。




王国の南端のジェスパーダ領ビュッフェには、大きな屋敷がある。勿論うちの屋敷だ。ここは魔物が蔓延る危険地帯に片足どころが、肩まで浸かっているため、要塞並の城壁と数百の猛者がその侵入を防いでいる。


色々と設備が揃っていたため、今まで王都近くの屋敷に住んでいたが、このたびここに引っ越す事になった。お父様も2.3年、領地運営に精を出すそうだ。


とは言っても、犯罪率は低いどころが0。最近王国全土で流行ってる飢餓だってこの街じゃ見かけない。ただ視察と称して食べ歩きたいだけじゃないだろうか。でもまぁ、儚げすぎて消えちゃいそうだったお母様が喜んでいるからいいかもしれない。半分幽霊になっちゃいそうだったからね。お父様に構ってもらえなくて寂しかったんだろう。



そんなこんなで今日もラブラブお二人が、肩を寄せ合わせて出かけて行ったのは早朝。


太陽の位置からして今はもう9時近いはずだ。急いでロールパンを口に突っ込みながら私は屋敷の門を出た。


町中に響き渡る野太い悲鳴と怒声が聞こえてきた。まぁ、ちゃんとした訓練だから大丈夫だと思う。


そんな鉄人騎士団の兵舎に、今日はやってきた。なぜかって?ファンタジー世界でわざわざここに来る理由なんて一つしかないじゃないか。


「おはようございます、アーノルドさん。今日もよろしくお願いします。。」

「よし、来たかロア。んじゃ、まぁ始めるか!」


私に気づいた筋肉隆々の大男アーノルドは、手を叩き私と同じ年頃の少年達を集める。ちなみに“ロア”とは私の偽名である。


少年達は各自、自分の獲物を引っさげ、やる気十分の様子。これから、将来騎士を目指す少年達の特訓が始まる。


「おし、まずはウォームアップやるぞ!今日は久しぶりだからな、この敷地の周りを5周な。ほら、いぐぞ!」


そう言うとすぐに、アーノルドは背を向け走り出す。その後ろからは「うぇえええ!」やら、「うっそぉおん!?」など少年達の悲鳴が聞こえるが、聞き届けてはもらえらいらしい。

久しぶり、というのはここ最近、騎士団が任務を受け団員の大半が外に出ていたため、子供達の訓練が休みになっていたためだ。

でも3周だったのがなぜ5周になるのは納得いかない。死にます。わりとマジで死にます。



がっしゃがっしゃとアーノルドさんは全身鎧の音を鳴らして最前列を疾走する。その足は大地を抉りながら、子供相手とは思えない速度で曲がり角の向こうへと消えてゆく。限界に近い速度で長時間走ることにより鍛えられる、不屈の根性と無貯蔵の体力。一周10km弱というマラソンランナーも真っ青な距離を、散歩でもしているかのように軽やかに駆け抜けるアーノルド。その背に追いつかんとする少年達は小さな身体を大きく振り、大量の汗を流しながらも、一切縮まらない距離にぎりぎりと歯を食いしばる。私を含む少年達の地獄の訓練は今、始まったばかりだ。





「くはあっ!げほっ…。はぁ、はぁ、はぁ。」

「おー、今回もロアが一番か。そんな細っこい身体で良くやるな。」

「ぐぁぁあああくそぉおおおお!!!」

「ははは、残念だったな。」


いつもどおり、一着。おばはんの根性を舐めないでもらいたい。

この結果が気に入らないのか、これまたいつも通り突っかかって来るのは赤毛のライト。私がここに来てからはいつも二着。毎回二着。ミスター2ndだ。

理由ははっきりしている。私の方が走る技術が高いからだ。他の皆よりも体力が少ない私がこの結果。出せるのは、それしか無いと思っている。

前世の中高大と入っていた部活は陸上部。平地を走るフォームなら、ここの誰よりもいいはずだ。


「はぁ、あと一歩が届かない。」

「あー、もうちょっとなのにな。もっと根性搾り出せ。」

「絞り出し過ぎて変な汁出さないでよね。」

「出さんわ!!」


項垂れるライトにはアーノルドさんの46回目になる的確なアドバイス。そろそろ変な汁が出て来てもおかしく無い頃だと、私は睨む。


「全員戻ったなー。よし、10分間休憩!その後第二練兵場に来い!」

「はい。」


全員が走り切ったことを確認したアーノルドが少年達に言う。それに返事ができるのは数人。最後尾の方は荒い息を吐き、大の字に寝転がっている。


10歳前後の少年達がこれだけの運動量をこなしても尚、次のメニューをこなす事ができるとは…お婆さん感服します。


先に休んでいたので私とライトは少し早いが第二練兵場に向かう。第一練兵場よりは小さいが、それでも学校のグラウンド並の広さだ。

そしてその中心に立つ、アーノルドを見つける。


「アーノルドさん。今日は何をやりますか?」

「はっはっは!気合十分でいいな!今日は模擬戦をやってもらう!」


身の丈ほどもある巨大な剣を地に突き刺したアーノルドが言った。

模擬戦か…。私がここに通い始めて半年、それでもまだやった記憶が無い。


「ロア、お前は知らないんだな…。あれは恐ろしいんだ…。」


首を傾げる私の肩に手を起き、光の宿っていない目でそう言うライト。こ、こわっ!


しゃがみ込んでブツブツと壊れた様に独り言を言い始めるライト。


そんなライトを何とか励まそうと色々やっている内に、休んでいた他の少年達も練兵場へとやってきた。彼等もアーノルドの「模擬戦だ!」という声と共に項垂れる。中には神に祈りを捧げる者まで出る始末…。


「そ、そんな怖いの?」

「ああ、何たって俺が相手だからな。」

「ナ、ナンダッテー!」


その事実に、声にならない声をあげる。あっ、普通に言葉としてでてました。

自分の訓練の時間を割いてまで、私達の訓練を施してくれるアーノルドさんだが、その実力は騎士団のトップ10に入る。団員は総勢500人いるとすれば、なかなかのものだとわかるだろう。それに23という年齢。彼はまだかなりの伸び代を持っており、若さ特有の侮れない勢いを持っているという。


ってか私達の方が格下じゃないか。そんな偉そうな事言えないっす。


そんなアーノルドさんが相手。皆の様子を見る限り、手加減は期待はできそうにない。


「よし、準備はいいな。」


アーノルドさんが言う。その瞬間、皆の目つきが変わった。


その一挙一動を見逃さんという、鷹の様な目付き。たとえ大人であっても、その気合に当てられたら、身を硬くしてしまうに違いない。

だが、相手はあのアーノルドさん。身体に獣の爪痕を刻んだ、若くして歴戦の騎士。


その初動は、誰もが呆気に取られる物だった。動いたと思った瞬間、数m離れた所で剣を構えた生徒を、長大な長剣で突き飛ばしていた。その隣にいた生徒が剣を振りかぶると、一瞬のうちに背後を取り、アーノルドの剣撃は残像を残して降り抜かれた。練兵場の端で蹲る少年。その距離は、彼の長剣の威力を物語っている。


「お前ら、連携をとれ!」


静まった練兵場にライトの怒声が響き渡った。棒立ちになっていた少年達は近くの者で集まり、じわじわとアーノルドさんへ近づく。私とライトも1mほど距離を取り、摺り足でアーノルドさんに接近する。


その時、頭の中を何かが走り抜けた。


アーノルドさんの目は、こちらに向けられている。



「ライトっ!下がって!」


咄嗟に横に飛ぶ。型も体裁もない必死の行動だった。刹那、つい先程まで私が立っていた位置に、寸分の狂いもなく振り下ろされる長剣。

そして、瞬きをするような僅かな時間、位置を修正したその切っ先は、私の頭を捉えようとしていた。

腹の底を流れるドロリとした冷たい気配。私は必死にその恐怖から逃れる。

血が止まるほど両手で硬く握りしめていた刃の潰れた長剣。転がる様に右に避けながら、それを精一杯の力で横薙ぎに振るう。下から迫る超重量の長剣と、それに無謀にも立ち向かう子供用の長剣。剣身が歪む衝撃が私の手にも伝わってくる。私の身体に痛みはない。しかし、握り締めた私の剣は、ぐにゃりと折れ曲がっていた。

逆光を浴びた黒い影、その頂点で光を反射する長大な長剣。再度振り下ろされた鉄塊。肩に重く響く衝撃で、私は気を失った。

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