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騎士ごっこ

読みにくいのでルーシェ君のセリフをかなり訳してます。

本当にこの子がブラド伯爵家の長子なのだろうか。攻略対象の少年期のスチルなど存在しないため、顔ではいまいち確証が持てない。何よりも名前が違う。

顔のパーツはよく似ているが、雰囲気も全然違う、別人のようだ。本当に、この子が将来の攻略対象なのだろうか?


「あの、本当にこの子がブラド伯爵家の長子なのでしょうか?」

「こら!何て失礼な事を!」


こんな時に限って、ずずいと顔を突き出してくる役に立たないお父様。私は執事に目線を合わせ、尋ねた。


「申し訳ありませんローゼリア様。ブラド伯爵家長子、ルーク様…若様は現在外出しております。」

「どういう事です?!」


なんとまぁ、びっくらこいた。初の顔合わせと言っても、これは見合いのようなものなのだ。位の上の者が、相手を見極め婚約者として相応しいか、最終的に決める場面なのだから。私の場合は両家とも伯爵の位をいただいているので、双方ともに相手を見る事となる。私も色々と猫を被ってきたというのに…。本人が不在では何も始まらないじゃないか。


って、なんでルーシュ君が出てきたんだ。


「本当に、弁解のしようもありません!若様は既に心に決めた方がいらっしゃるようでして…。今朝早く、一言も告げず、屋敷を出ていかれました。しかし、このままではジェスパーダ伯爵家の方々に顔向け出来ないと、当主が仰いまして…。若様との婚約は解消…という事で、第二子のルーシュ様との婚約ではどうか…と仰られています。」


うわー。これは酷い、酷すぎる。


乙女ゲームをやりながら思う事があった。超自己中心的で我を通しまくる迷惑者達、つまりは攻略対象達の私生活ってどうなっているんだろうと。

「やぁ、○○○。魔法の練習、調子はどうだい?」

「○○○○さん?!生徒会はどうしたんですか?」

「ははは、君の事が心配でね…。」

「○○○○さん…!」


いや、なに公務放棄してんだよ。そこ感動しちゃだめだろ。


「○○○、見せたいものがある。」

「なに?…わぁっ、綺麗な宝石…。」

「龍玉という物だ。これ一つで小国が買えるほどの価値があるという。…さぁ、指を。」

「え?うん…。うわー、嬉しい!ありがとう!」

「ふふっ、君のためならどんな事だってry


お前どうやって手にいれたんだよ調子乗りまくってるだろこのクソガキめ!


ちなみに下はルークとかいうアホと主人公の会話だったりする。


それにしても、顔合わせを放棄して逢引とは…。もうただの軽薄な男じゃないですか。乙女ゲーム出場禁止にしますよ、婦女子のために。


「娘は将来のブラド伯爵…つまりは次期当主に嫁ぐ事になっていたはずです。だが次男であるルーシュ君とでは、待遇が違い過ぎる…。私は…、私は、愛娘を身を切る想いで連れてきたのですぞ!こんな仕打ち、我慢なりません!」


嫉妬に狂った女の子みたいにハンカチを噛みしめるお父様。びりびりと不穏な音もします。


「で、では…一旦婚約の話は保留ということで…。此方からまた出直させていただきます。

…暫しの間、お寛ぎ下さい。迎えの馬車を呼んでまいります。」


そう言うと共に、すたこらさっさと飛ぶように屋敷の中へと消えて行ってしまった。


残されたのは私とお父様、そしてルーシュ君。なんの話かも分からずにぽかんとしている。潤んだ瞳がたまりませんなぁ〜。

折角だし一緒に遊んでみよう。柄じゃないけど、この世界の五歳児がどれだけか見極めてやろうじゃないか。


「ルーシュ君!お庭であそぼう?」

「ぇ…?うん!」


始めはびっくりしておろおろしていたルーシュ君、しかし、手を引いて庭まで連れて行けばきゃっきゃと走り回っている。もちろん私と一緒に。


さて、本題に入ろうか。


「ルーシュ君はいつもどんな遊びをしているの?」

「んーとね、んーとね。…騎士ごっこ!」


なーるほど、騎士ごっこね。地球で言うと仮面ライダーごっこみたいなもんだろう。


「へぇ、すごいね〜!一緒にやろうよ!」

「うん!」


満面の笑みで頷くと、ルーシュ君は木陰から木の棒二組を拾ってきた。そしてその一つを私に渡す。



ルーシュ君は走り去って家の影へといってしまった。



…えっ?




すぐにルーシュ君は戻ってきた。ふらふらと眼を擦りながら、まるで日本のサラリーマンだ。

するといきなり横に吹っ飛んだ。それも自分の足で吹っ飛んだ。

一瞬で起き上がると剣を構え、やー、と掛け声と共に一歩踏み出す。そして吹っ飛ぶ。



…なにこれ?



踏み込んで踏み込んでを何度も何度も繰り返し、ルーシュ君は草絨毯を転がり続ける。


騎士ってこんなやつだっけ?



「ル、ルーシュ君?これが騎士ごっこなの?」

「うん!」


泥だらけの顔で笑みを浮かべ、私の元に走り寄ってくる。


「さっきは何をしてたの?」

「鍛錬だよ。」

「た、鍛錬?」


あれが?身体に泥を塗りつけるジェスチャーですとでも言った方が信憑性がある気がする。


「まず朝早くに起きるんだ、眠いのを我慢して兵舎に行くの。そしてね、騎士団長に「何だその腑抜けた顔は!」って殴られて、朝一番の稽古をつけてもらうんだ。今やってたのは騎士団長との打ち合いだよ。」


確かに言われてみれば…ってすごい回りくどいぞ。普通は一番いいシーンをロールプレイングする物こそがごっこ遊びだろう。いきなり吹っ飛んでボコボコにされるごっこ遊びなんて聞いた事が無い。矯正してあげなくては…。


「私もやっていい?」

「うん!じゃぁ、ぼく新米騎士!騎士団長よろしくね!」

「え?!う、うん!」


あら、おかしいな。男の子って普通は一番かっこいい役をやるんじゃないのか。何故に新米騎士を選ぶ。


ごちゃごちゃ考えていると、新米騎士ルーシュ君が、ふらふらとしながら漂ってきた。


こ、ここは殴るべきなのか?相手は貴族なんだぞ?あ、私もか。


ここはもっと健全な遊びを教えてあげよう。 (いや、常日頃のストレス発散ついでにボコってやろうぜ!)

いえいえ、そんな酷い事したら淑女としていけませんよ。

(誰が淑女だよ誰が。ただのロリババアだろ。)

なっ何ですって!

(やーいばばーばばー。)


脳内で開かれた天使と悪魔の首脳会議。つまり今世の私と前世の私の性格同士が言い争っているわけだ。やんごとなき淑女として育った今世とは違い、前世は色々と荒れていた。


「ねぇねぇ、ローゼリアちゃん。早くしてよ〜!」


我を忘れていた私を目覚めさせる、愛らしい声。ルーシュ君が私に頬を突き出す形で腰をかがめて居た。


…こ、これは…!キスを待っているのか?!


「早く〜。新米騎士は殴られないと鍛錬か始まらないよー。」


あっそうでしたね。私とした事が忘れていましたわオホホホホ。





…では遠慮なく。



私の剛腕が唸るぜ!食らえ!うぶぉおりゅぁああああ!



ぶしゃ!


「ぶふぉあ?!」


私の小さな拳が柔らかいルーシュ君の頬に炸裂。クリーンヒットゥォオ!

1mほど吹っ飛んで横に倒れている。何をやっているんだ、これでは続きが出来ないぞ。


「おいルーシュなにやってるの。早く立ちなさい。」


なかなか起きないので凄みを聞かせ威圧して見る。顔が地面を向いているから分かるかどうか微妙だけど空気で伝わるはず。


「くっ!団長!今日もよろしくお願いします!」


ばっ!と勢いをつけて立ち上がったルーシュ君は、そう言うと私に木の棒で襲いかかってきた。


一直線に突っ込んでくるルーシュ君をひらりと躱し、剣道で言う胴ー!を決める。


私の体重と、カウンターでルーシュ君の体重までも乗った重い一撃が腹に決まり、お腹を抱え転げ回る。


なんて情けない。そんな事では立派な騎士になれないぞ。


「さぁ立ちなさいルーシュ。剣技も才能もないお前が出来るのは仲間の盾になる事よ!こんな事でへこたれる根性なら叩き直してやるわ!」


レッツロールプレイ!ばしんばしんと木の棒をしならせて新米騎士ルーシュにお説教。


「だ、団長、激しすぎます!」


な、なんかえろちっくな表現…。五歳児がなんて事を喋っているんだ。


「だめよ!そんな事で立派な騎士になれると思ってるの?!さぁ、打ち込んできなさい!」


それからも私達は、帰りの馬車が来るまで遊んでいた。庭には甲高い怒声と、蛙の潰れたような音が交互に響き渡っていたと言う。



がらがらと馬車が屋敷の門を潜ると、執事さんがやってきた。その眼に映るのは剣を振り回す次男ルーシュと、令嬢。ひらりひらりと身を翻してその剣のよけて見せると、目を見開き、叫んだ。


「ルーシュ様…な、なんて事を!婦人に手を上げるとはなんたる無礼…。さぁ、行きますぞ。明日からマナーのお勉強です。心しておきなさい。」


ショボーンと執事さんに連れて行かれてしまったルーシュ君。


何だか悪い子しちゃった気分。いやそんな事はないワターシ、ワルクアリマセンヨ。ゼッタイソウダヨ☆


ほれほれローゼやと、還暦爺さんの様な口調で馬車の中から手を降っているお父様を見つけると、駆け足で馬車に乗り込む。



あー、何だかどった疲れた。攻略対象と遭遇しなかっただけ、良しとするかな。

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