砂に焼かれたから
むかしむかし、それはそれはとても栄えていた国がありました。
国というのにはやや小さく、砂漠の果てにぽつんと建つそれは、むしろ都市のようでした。山を描くように建物は建ち並び、人々は毎日楽しく過ごしていたと聞きます。
しかし、そこは所詮砂漠。人が生きていくのには、少々過酷な環境です。見渡す限り、周りには砂、砂、砂――。視界を遮るものは何も無く、枯れ木すら見つかりません。水なんてとてもではないと見つけられないでしょう。
その国の人々は、ある時まで厳しい環境に負けることなく暮らしていました。
ですがある時以降、人々はその地を『見放された地』、と呼ぶようになったそうです。
神様に見放された地。雨はめったに降らず、そのくせ日照りは強過ぎて、井戸の水は枯れてしまう。多くの人が苦しんだことでしょう。
水がなければ、人は何もできません。
植物は育たず、植物が無ければ家畜もいなくなります。そうなれば食べ物はなくなってしまいます。栄えていた国であれど、多少の貯蓄はあったのでしょうが、すぐになくなったのでしょう。きっと人々は飢えたことでしょう。
それだけではありません。
人は、水があるからこそ生きていくことができるのです。喉の乾きを潤してくれる水さえもなければ、人は動けません。
飢えと乾きと、日照りに砂嵐。ひょっとしたら疫病も流行ったかもしれません。薬は作れなかったとされています。何故ならそこには、薬の材料となる草がなかったからです。枯れてしまったのです。
それが原因なのかは誰にも分かりませんが、いつのまにかその国は滅びてしまいました。
砂にまみれ、誰もいなくなった廃都市には日光だけが虚しく降り注いでいるという噂です。
栄えていたはずの国が何故急に、その地を忌み嫌いだしたのか。
そしてどうして、それまで生活できていたその地で滅びたのか。
ある時、不思議に思った近くの国が発掘調査隊を組みました。歴史に詳しい学者たちが集い、いざその滅びた国へ出発しました。
彼らは丸々一週間旅をし、ようやくその遺跡に辿り着きました。
からりとした青空と黄色い砂の大地に挟まれて、堂々とそびえる山のような形をした国。大きさは都市そのものですが、国は国です。
調査隊の一行は、そこに二週間滞在することになっていましたが、厳しい太陽に肌をじりじりと焼かれ、集中力を削がれ、それなのに大した成果もあげられない調査には、全ての隊員が辟易しました。
ですので、隊長は期間を半減しました。
この砂しかない廃墟を出て、自分達の国に帰る日は、二日後に迫っていました。
ですが、彼らは知りませんでした――。
その遺跡には、とある噂があったことを。
どこかの国の、どこかの街の、誰かが流した噂ですが、それはまことしやかに語り継がれてきたものです。
「あそこにはね、亡霊がいるんだよ……」
……いえ、一人だけ。一人だけでしたが、それを知っていた隊員がいました。
彼にその知識があったからこそ、『彼女』は救われたのでしょう。