レオナディオフィオディラナーツ
眠らない街トーキョー。
夜でも明るく照らされ、多くの人が行きかい、自分の欲望を満たしている。
私は、トーキョーの“危険区域第25区”に生まれた。
“第25区”それは地図には存在しない場所。
高い壁に囲まれ、出入りは厳重に管理されている。
巨大なゴミ集積所とされているそこには、いろいろなものが捨てられ、物で溢れている。
壊れた電化製品、生ゴミ、飼えなくなった犬、人間、兵器、軍事機密など。
それらを、そこに住む人が手を加え違うものを作る。
世界で一番薄汚い場所だが、世界で一番高度な技術を有していた。
私は、その進んだ科学技術の実験段階で出来た不良品だ。
殺人人形
戦争のために作られた大量殺人兵器。人の形を取り、柔軟な思考を持ち、任務遂行を遵守する、肉体強化を極め一体で兵士100人ほどの力を持つ。
その第一段階での失敗品が私。
人工的にかけ合せられ、培養液の中で育った人でいて人ではないもの。
人のような形も、思考も得ることが出来たけれど、力は少し強い程度。何よりも、感情を持ちすぎた。
「レオナディオフィオディラナーツ」
「何?」
私の声に反応して、博士が振り返った。まったく、危機感のないいつも通り穏やかな微笑だ。緊張している自分が馬鹿らしくなるわ。
私が答えないでいると、博士は答えを待ってこちらを伺うことをやめようとしないから首を振って答えた。
「なんでもない」
レオナディオフィオディラナーツ。それは、私を導く呪文のような魔法の言葉。
研究所を抜け出そうとして殺人人形三体に囲まれた状況も何とかなるわ。
もともと今日、処分予定だったんだもの。
最後まであがいてみせる。
それに、一緒に逃げようと言ってくれた博士だけは逃がさないと。
「レオナディオフィオディラナーツ」
「機嫌がよさそうだね、ナツメ」
私の弾むような声に博士は微笑んだ。
「そうね。久しぶりに体調がいいの」
「本当? 具合を見てみようか。こちらへおいで」
メンテナンスを受けると、最近の博士は痛々しそうな顔ばかりしていたけれど、今日は顔が歪められることがなかった。
「もうすっかり良いみたいだね。5日で痕も残らず消えた」
さすがは僕の作品だ。
声に出さない声を聞いて、私は笑って返した。
「クオイツ博士が作ってくれたからね」
そうすると、博士は照れくさそうに笑って喜んでくれる。
研究所を抜け出してから5日たった。
今思い出してもあの時は幸運だったわ。
殺人人形三体はもともと一体ずつに違う動物を混ぜた試作品で所々定着していない部分があった。
それを何とかしようと、研究者が薬を打ったり機械を入れたりして逆に不安定なものになっていたのだ。
さらに、一緒に逃げてくれた博士の知識を欲しがって脳をつぶすなと言う命令が課せられていた。
常人では出来ぬほど速く動くごとに崩れていく殺人人形の攻撃を避け続け、自爆も援護射撃も博士がいるせいで出来ない間抜けどもから最初のほうに一撃大きくくらっただけで逃げおおせることが出来た。
まったく馬鹿なものよね。
崩れかけの人形で私を壊せるだなんて思って。
博士の作品である私をそんなに簡単に壊せるわけないじゃない。
私達はこれから地下へ潜る。
もう彼らが見つけることは出来ないわ。
レオナディオフィオディラナーツ・クオイツ博士。
そうすれば、あなたは私だけのもの。