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世界を終わらす物語~ゴーレムの眼~  作者: 球磨吾朗
プロローグ・黒騎士物語【涙涙】
3/26

涙と涙

やっとかけたー! プロローグ!←

やっと次から本編です!

いやーもっと短くするつもりだったんですがどこで間違えたか長いプロローグになってしまいました。どうぞお付き合いください、おね!


追記 四月五日 修正

 エレナス北区、最北部城壁外部。検問所前で行商人と別れたヨツバはそびえ立つ城壁を見つめていた。


 三角からレンガ八個、そこから左上の三角方向へ七個、で、下へ四個、そこから元の三角へ、それで右の三角を通り過ぎて……


 城壁を指でなぞる。エレナスの城壁には様々な形をした石が混ざっていた。


 ここの三角の縁をなぞって……


 何度も指でなぞる。

 しばらくなぞっていると、城壁の一区画が静かに震えるように鳴き始めた。


 ……何度聞いても人の泣き声に聞こえる、悪趣味。っと、ここから人種の紋を――


 鳴いていた城壁が歯車のように動き出す。


 ヨツバが訪れたのは王都エレナスで唯一の公式で非公式な出入り口だった。


 ひとしきりなぞり終えたヨツバは城壁を背に座った。


「ウィッキー、レンズ、久しぶり」


 森に喋りかける。森が揺れる。


 微かに何かがはまるような音がした。

 ヨツバが先程から鳴いている城壁に目を向けると、そこには半円状の大きな穴が開いていた。

 どうやら扉は開けたらしい。


 腰を上げ森に手を振ると、ヨツバは入り口をくぐった。






 ――店が……ない?


 切羽詰まった形相で、大きな弾ける音を放ち閂錠のかかった扉を無理やりこじ開ける。


 ――ない、ない、ない、テーブルも、花瓶も、お気に入りの僕の椅子も!


 カウンターであったであろう場所の奥に走る。

 床を踏みしめるたびにホコリが舞った。


 カウンター裏の扉を開ける、横にある階段を駆け登る、扉を開ける、次の扉、次の扉、次の……


 なにも……ない……


 今度はゆっくりと階段を降り店の外へ出る。

 看板もなく、外用のテーブルも椅子もない。


 ヨツバの目には見えていた。建物自体は古いが下流階層では見事なまでの綺麗さと優雅さを持った喫茶店。

 店の通路側の壁には開け放たれたいくつもの木の窓、ドアの上には異国の文字で書かれた小さな看板、店の前に並ぶ3つのテーブル、八脚の椅子。

 ドアの両隅にはプランターがあり数種の薬草が育っている。

 昼下がりの日差しが似合う喫茶店だった。


 しかしその幻影はすぐに消える。


 目の前には下流階層北区に相応しい、扉の壊れたボロ屋があるだけだった。


 ――嘘だ、嘘だ。それじゃキチニィは? ウルフ兄は?


 全身の力が抜けていく。糸が切られた操り人形のように地面へと崩れ落ちる。


 地面に落ちる寸前、ヨツバは大きく分厚い、暖かい岩石で抱きかかえられた。

 ドランの腕だった。


 ドランの腕に気づいたヨツバはその腕をずるずると伝い、分厚い胸板に顔を埋める。


「――家、なくなった」


 大粒のナミダがこぼれた。ひとつぶこぼれ落ちたら止まらなくなる。涙が怒涛のように溢れ出した。先ほどまで調理場で働いていたであろう油の付いたエプロンを、力なく力を込めて握り締める。鼻水が溢れ出して息がうまくできない。嗚咽混じりの呼吸が掠れたように響く。


 ドランは鳴き声も出さず泣きじゃくるヨツバを優しく抱きしめた。ヨツバの倍はあろう体躯を、ゆっくりと折り曲げ強く抱きしめた。


「お帰りヨツバ」


 鼻水を垂らした満面の笑みでドランも泣いていた。


 二人で抱き合って静かに泣く。


 家がない、店がない。それはつまりヨツバにとって兄たち、友人たちの死ということだった。


 『帰ったら店、もっと繁盛させましょう』

 『店? また喫茶店開いたのか。今度はどこよ』

 『エレナスという教育が盛んな街です。ほら、ヨツバももうすぐ騎士学校の年齢じゃないですか。それならばエレナスがいいと思いまして』

 『あぁー騎士学校、そんなのあったねー』

 『僕は行かなくていい、店のほうが楽しい』

 『ダメです、ヨツバならトップになれますよ、行きましょう』

 『そーだよ、一緒にいこーよーヨツバいないとつまんないよ』

 『そーだよ、いこー?』

 『エレナは貴族だからわかるけど、ソーマとカトレアードはどうして?』

 『『面白そうだから!』』

 『……僕は嫌だ』

 『ヨツバ、みんな一緒に行こうって言っているではないですか、無下にしてはいけませんよ?』

 『でも嫌なものはいやなんだけど……』

 『なんじゃ? 学校? わっちもいけるかの?』

 『ババァが行けるはずねーな』

 『だまらっしゃい』

 『ガッ、ぬおっ、やべぇ落ちる落ちる!』


 みんなで会話した最後の思い出。ダイキチの龍の上で、七人全員が嵐の雲の中でずぶ濡れになりながら笑いあった、そんな思い出。


 ――もう、もうみんないないんだ


 入らない力を無理やり入れてエプロンのシワを増やす。


 涙が枯れるまで二人は泣いていた。






 しばらくすると二人の周囲には人だかりができていた。北区には人種や獣人種など様々な種族が暮らしているが、みながみなヨツバが帰ってきたことを喜んでした。


 涙で湿りむさくるしくなった胸板から顔を上げる。ヨツバは泣き止んだものの目の下が真っ赤に腫れ上がっていた。ドランは特別涙腺がもろく泣き慣れているためかそんなことはない。


 ヨツバは周りの人だかりを見回し一言、ただいま、と言った。

 みな口々にお帰りという。


 ――でもまた一人だ。


 ただでさえ笑うのが苦手なヨツバが、このどん底を突き破った闇の中でなにを笑えようか。

 しかしそれをまた突き破り光の中へ押しやったのはドランであった。


「じゃ、お前の新しい店へいくか! 兄貴たちも待ってるぞ!」


 鼻水をすすり白い歯を輝かせ、暑苦しくもさわやかな笑顔をみせるドラン。

 ヨツバは腫れ上がった目を丸くしていた。

 それを見てドランも目を丸くする。


「そうか、お前は二ヶ月もどっか行ってたから知らないよな」


 豪快な笑い声が広がる。


「なんでもウルフウッドの奴が約束したとかなんかで店を広げるとか言い出してな、どうやったかは知らんがノールって貴族から店をもらったらしい。しかもどうだ、こんなうす汚ねぇ北区じゃなく西区だぞ! こりゃ商売人にとって大出世だ、羨ましいぞお前ら!」


 周りからも「そうだそうだ大出世だ!」などと賞賛と笑いの声が広がる。


「――店が……兄さんたちが……」


 ゆっくりとドランから体を離す。


「お、もう少し泣いててもいいんだぞ? お前の泣き顔なんて初めて見たからな、くっくっく」


 ……そっか、ドランさんのは悲しいんじゃなくて僕のために……そっか――


 ヨツバは聞こえないように「ありがとう」とつぶやきドランの胸板を小突いた。

 次第に冷静になっていく頭。ヨツバは嬉しいという感情はあったが喜ぶという感情はまだ持っていなかった。


 でもそっか、いきてるんだ、兄さんたち、それにみんな。


 快晴の空を見上げた。ドランの体が大きすぎて、視界の半分を埋めていた。

 すこし眉をひそめるとヨツバは口を開いた。


「久々に干し芋が食べたい、あと紅茶とケーキとそれから……」


 淡々とつぶやく、いつものヨツバの無表情だった。これが彼の特徴だった。いつなんどき、どんな状況でもただ無表情で淡々とこなす。北区の喫茶店の看板だ。


「ガッハッハ、いいぞ、せっかく戻ってきたんだいくらでもくれてやる! そうだな、ただ紅茶とケーキは自分の家でおおぅ!?」


 周りから次々と紙に包まれた干し芋がヨツバに投げ込まれた。

 一瞬、砂利を蹴った音がしたかと思うと、ドランの前で軽業師も目を見張る動きを見せるヨツバ。

 投げ込まれる干し芋を一つ一つ綺麗にとる。さながら高速の舞だ。


「ほれーこっちもだー!」

「はははははまだまだいけるかー? ほれ!」


 干し芋合戦が終わる頃にはヨツバは自分の体と同じくらい干し芋を両手いっぱいに干し芋を抱えていた。


「ふぅ……ありがとう!」


 笑い声が通り中にあふれる。

 ドランが干し芋の山から一つを手にとった。


「みんな待ってたんだぜ? ここずっとお前の話題ばっかだったよ、普段西区になんて行かない獣人たちもちょいちょいうろついてたからなぁ」


 ひょいと山の中から一つ干し芋をつまみとり、それを齧るドラン。「おまえのじゃねーよ!」と罵声が飛びまくる。「あぁーわるいわるいつい」とか言い訳しているが食べるのはやめていない。


「さぁ逃げるぞヨツバ! おれもここと仕事から逃げる、こんな時に副業なんてやってられっか!」


 そう言うとドランは芋ごとヨツバを肩に乗せ西区へ走った。


 路地を走り抜けるたびにおかえりの声がする。会釈は返せないし両手もふさがっているので首を立てに何度もふって返事をしていた。






 ――ヨツバは干し芋の山を下ろしその店を見た。


「どうだ、ここがお前たちの新しい店だ。ガラス窓に金属の……なんだけな、そうだドアノブ、のついた豪華な扉。すごすぎるだろ! こんな建物西区にだってないぞ!」

「……ウルフ兄、またなんかやったな」


 白い壁にガラス窓、白い扉には魔法店だったのか不思議な模様が描かれており、最近貴族の間で流行りだしているドアノブが付いている。


「看板が出されてないけど、まだ店ひらいてないのかな」

「あぁ、あいつらお前が来るまで店は開かねぇっつってな、んでお前の言ってた兄貴のダイキチが嫁と一緒に帰ってきてなんでも屋してだな、いけね、めんどくさくなってきたなおい。まぁーなんだ、これでやっと新店舗オープンだ、それでよし! ガッハッハッハ」

「ふーん」


 ヨツバがドアノブに手をかけるがドランは慌ててそれを止めた。


「なぁおいせっかくだ、アイツらの辛気臭ぇ顔みないか?」


 ヨツバがドランの顔を見上げる、無表情は変わらずだがドランにはヨツバが輝いているのが分かった。


「よしきた、いくぜ!」


 ドアが開けられる。


 ――あ、ケーキの匂い――


 ヨツバは姿が見えなくなるほど速く、そして静かに店の中へ吸い込まれていった。

 


 

 



 

これだけ長いプロローグなのに騎士要素ゼロっていうね!ゼロっていうね!

プロローグなんでなるべく街のこととか人物のこととか書かないようにしています。本編で説明したいので被ると嫌なのではははは

そのため想像しにくかったと思いますがご勘弁をお願いします。


お読みいただきありがとうございます。

さーもっと書くぞ!


明後日までに次話更新します。

お待ちくださいませ!

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