世界からの帰路
んープロロー終わりませんね、次で終わります。
ちょっと時系列遡ってのお話です
追記 四月五日 修正
たくさん歩いた。大丈夫、僕は普通の人よりも何十倍も丈夫だ。
ひと月くらい何も食べなくたって平気だし、怪我だって多少のことならすぐに治る。
それにここは僕の故郷だ。
もう一年は経つのであろうか、ヨツバは歩き続けていた。
――大丈夫、たぶん――こっち。
閑散とした森の獣道、踏みならされた雑草の上を堂々と凛々しく歩く少年がいた。
年は十二くらいだろう。肩口まで伸びきった黒い猫っ毛の髪の中から、二つの赤いルビーが覗いている。華奢な体つきに年季の入りすぎたボロ雑巾のような衣装が、路地裏の孤児のような風体を出す。顔は歳相応の幼い普通の顔だ。
嵐の匂いがする。木の緑が濃くなった……もうすぐ森を抜けるのかな。
野生児とも言える彼の生い立ちから、自然の極小な変化を見極めるのは容易かった。
森を抜ける。
嵐と湖があった。白い骨が積み上げられできたのであろう湖畔が現れ、浅黒い湖が続く。空には沢山の怪鳥が舞っていた。悲鳴とも歓喜とも似つかぬ奇妙な鳴き声で仲間とじゃれあっている。
大きな叫び声と共に空から一羽の怪鳥が落ちてくる。体勢を立て直す様子もなく、ただ重力に任せて加速し続ける。じゃれあっているうちに命を落としたらしい。
ヨツバは三歩下がった。
するとどうだろうか、先ほどまで遠くで自由落下をしていた死骸が突風でヨツバの目の前まで押し送られ、骨のひしゃげる轟音や肉の潰れる音を奏でた。
衝撃波がヨツバを襲う。
それにまき上げられた湖畔の骨片が舞い上がる。
ヨツバは微動だにしなかった。それどころか「これは美味しいのかな」などとつぶやく始末だ。
鶏のような頭に人間の表情をつけた顔、牛のような体躯と鷹の翼、全長はヨツバの十倍はあろう怪鳥だった。
ヨツバは怪鳥に近づき、羽を根本から引きちぎった。
一匹の蟻がセミの羽を運ぶ光景を連想させる。
大きすぎる羽の根元を器用に口に運び、齧る。
……臭い……鳥のくせに。
文句を心の奥に押しやった。二十日ぶりの食事だ、食べられるだけでいい。
――しばらくして食事が終わった。どうやら羽の部分より背の部分が美味だったらしく、背中の肉だけがごっそりと抜け落ちた死骸が湖畔に置き去りにされる。
湖を覗く。浅黒いせいもあってか、湖はヨツバの顔をよく映した。
あ、そばかすが消えてる。
自分の頬を左右に抓り引っ張る。にまぁーっと笑ってみる。
やはり笑顔はまだまだ練習が必要だ。
目線を湖に移す。
ヨツバにはまだこの笑顔しか出来なかった。
「この中か」
淡々とつぶやくと、湖に飛び込む。シャツは水を吸うなどできないほど破けていたし、ズボンはすり切れがひどく、着衣水泳にはもってこいの状況だった。
視界が悪い。一寸先は闇の水中。
ひたすらに潜る。潜る。潜る。
直感的にだが確信があった。この先に温かいものが見えるからだ。見えはしないが見えるのだ。
五分、十分。潜る、潜る、潜る。
「ばふぉぼぼ(みつけた)」
闇の中に白い亀裂を見つけた、これがずっと探していた場所。
光に指を入れ、こじ開ける。雷鳴に似た音が水中を打つ。
ヨツバは光の中に入った。
懐かしい匂い――ただいま
視界が開け、ヨツバは空中に放り出された。
世界が白い。
吹雪が空を落下するヨツバの身体を襲う。
凍土に眠る魔物はこのような寒さで眠ったに違いないとヨツバは思いを馳せた。
自身が少しばかり陽気になっていることに気づく。
そうか、帰ってきたんだ、帰ってきたんだ。
遠くからキチニィに聞いた、すてるすせんとうきなるものの様な速さで近づいてくる物体が見えた。まっすぐとヨツバへ向かってくる。
先ほどの怪鳥ほどの大きさをした純白の龍だった。
「やっぱり、サワダさんだ、やっほ」
ヨツバはサワダさんに咥えられその場を去った。
時はしばらく経ち、ヨツバはサワダさんと別れて帰路についた。もうここまで来れば快晴だ、昼前だろうか。
……サワダさん、衝撃は考えてくれてもいいじゃないかな。腕の五、六本は吹き飛んでるよ、そんなに腕ないけど。
両腕を交差させさすり、子供特有のふてくされた顔をしつつ、王都までの道を歩く。
幸いなことに途中で行商人に会い、王都まで荷馬車に乗せてもらった。
乗りなれないはずの荷馬車の揺れは思った以上に心地よく、ヨツバはを眠りに誘った。
うん、つぎでプロローグ終わります!
本編入ります!
章機能って便利ですね、第一章自体をプロローグにかえっちゃってはははは
お読みいただき感謝いたします