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心臓の逃げ道  作者: 壬哉
9/17

居るはずのない者

 

 時間帯的には、もうそろそろ睡眠時間だ。いや。もう絶対に次の日になっていることは確実なのに、全く持って睡魔が襲ってこない。

 頭が辛いだの、瞼が重いだの。いつもは文句垂れながらベッドの中に入っているのに、今は昼間のように、目がパッチリしていて、何をどうしても寝れないような感じだ。

 今歩いている場所に、窓がないからどのくらい暗くなっていて、どのくらいの位置にあるのかとか。太陽が昇っていてもきっと時間帯が狂っているような予感がする。

 しかも。

 悔しいことに、今いる場所が解らない。

 

 迷子

 

 という事になるのだろうか。

 けど、全く持って焦りというものが感じられない。

 逆に迷っていて何かが落ち着いているかのように、自分を何かで納得させている。

 

 「ここどこだ?」

 

 暗いから余計に解らない。少しでももっと明るくしてくれればいいのに。

 自分の部屋は、一応じっくり目に焼き付けたから、扉を見ただけでこれかな??というものはあるのに。

 こんなときに後ろから狙われたりしたら、もちろんん普通でも抵抗も何も出来るわけがない。

 適当に曲がったりしている所為か、近づいていると勘付いていても、全く持ってそんな気がしない。

 

 ――やべっどうしよう……

 

 てきとうに来た道を戻るにも、来た道がわからない。どこでどうやって曲がったのかも、どこをどう行けば階段なのかも、全く持ってわからない。

 今覚えている道のりは、あの広間みたいに広いところから出入り口らしき場所くらい。階段から自分の部屋すらも覚えていない。

 基本的に覚えるのは苦手だったのに。

 

 グゥゥゥゥ……

 

 鳴った先はおなか。

 ゆっくりとそのおなかを擦りながら壁に寄りかかり、ズリズリと座り込んでいく。 

 

 ――こう考えてみたら俺……晩飯食ってない……

 

 「腹減ったよー……」

  

 というか、出来ればここで睡魔が着てくれたほうが心的に嬉しかった。

 バッタンキューと倒れてしまえば、異変に気付いて誰かが迎えに来てくれそうな予感がしたから。けれど、違う予感ならしてしまったいま、かなり鳥肌が身体を覆う。

 顔色は悪くなり、それにより血の気がザーッと下がっていったような気がする。いや。だから顔色が悪くなったんだろうが、今は微妙にそんなことを考えていらえる余裕が無い。

 

 今回りは薄暗い光の中。

 凄く古い病院だと思ってみれば、そう思えないこともないかもしれない。いや。運よく古病院に似ているのは廊下だけでよかったとも思うべきところかもしれないが。

 薄暗い

 古い病院

 イコール幽霊

 一瞬それを考えてしまったからこそ、かなりの血の気が退いてしまった。なんて言ったって、出ないとは言い切れない空気だから。

 何で今までそれに気付かなかったのだろうか。

 それなりに今まで部屋で独りホラー映画は見たものの、霊感は無いし、映画は少なからずとも映画。本当にあった話しだけは避けて借りていたから、現実と照らし合わせたことは無いが、こんなにも安定しない場所でそれを思い出してしまった今、確かに現実でもありえるかもなんて思ってしまう。

  

 いつだったかに、自分では死んだとは自覚していない幽霊が、病院をさ迷い続けて幽霊に会ってしまうという話を見た。 

 そのとき、薄暗い病院で一人歩いていたとき、その幽霊が急に後ろから不気味な助成の声がしたとさ。

 

 「なにをやっているの?」

 

 凄く透き通った声が聞こえてきたが、映画では、もうチョッと不気味で、凄くガラガラが入っていて、おばあちゃんのような声だった。それで振り向いてみたら、かなり顔色が白くてガリガリのおばさんだったような気がする。

 けれど、今の声は凄くリアリティーがあった。

 何だったのだろうかと、ゆっくりと怖い廊下を見回そうと思ったとき、ふと電気が見えた。懐中電灯のようなもので薄くこっちを当てていた。

 今考えていたことが考えていた事過ぎて、顔を見ることが出来ない。というか、かなり冷や汗が身体の所々にあるのが自分でもわかった。

 しかも手も冷たくなってしまい、身体が震えている。

 ゆっくりと顔を上げると、ショートヘアーの綺麗な女の人だった。

 ホッと大きくため息をついて、力の入っていた肩の力を、スッと抜いて脱力した。

 

 「えっ?どうしたの?!悠樹君……だよね?」

 

 そういって、その女の人は急いで近づいてくる。ソッと俺の肩を掴んで、顔を見上げさせようとするが、再び顔を上げる力はなかった。

 

 「えっ……あっ迷った……しおなかすいた……」

 

 「そっか。おいで部屋まで連れて行ってあげるよ」

 

 そう言ってゆっくりと手を差し伸べてくれる。その手をつかもうかどうか。

 もしこれで死の世界に連れて行かれたりなんかしちゃったりしちゃったら……と考えると、だんだん目の前が真っ暗に覆われてくる。

 座っているのにどうしたんだろうか。

 凄く。

 

 

  

 





 


 柔らかい。

 何か柔らかいものの上にねっころがっている。少しバウンドが効いていて、だんだん眠気に襲っていくような何かがあった。

 やっと睡魔が着てくれたかと思ったとき、何か違うものを気付いてしまった。何かいけないもの。

 多分ここは自室。だと思うのだが。

 

 ――俺……どうやってここまで来たっけ?


 ふと思ったその疑問に、俺はゆっくりと瞼を開ける。

 周りは少し薄暗いってだけで、あの廊下よりは全然明るかった。それに気付いてゆっくりと睡魔に襲われかけている瞼をこすりながら体を腕で起こした。

 見回しただけでここはあの自室だってことは理解できた。その中に、ドンとベッドがあって、その上にチョコンと座っている。

 最後に会った人はあの女の人だが、ここで初めて女の人を見たような気がする。それに、少し細めだったし、よく考えてみれば、ここまで運んできたのだろうか。それもそれで凄いななんて思いながら、ゆっくりと最初に渡されたあのスイッチを探した。

 ベッドの隣にあるベッドと同じくらいの高さの棚に、小さな電気がある。そのスイッチのしたあたりに、あのお助けスイッチがあった。ゆっくりとそれを握る。

 それとともに、再び大きな雷のような音が、お腹のところから鳴り響いていった。

 

 「おなか減った……」

 

 少し目も覚めたし、もう一度下に降りようかと、絨毯の上にある靴を履いてそのスイッチをきちんとポケットに入れて、ドアまで近づいていこうとしたとき、再びいやな予感がする。

 

 ――もしあの女の人がおばけだったら……?

 

 画面を通してみる分ならそんなにも怖くは無いのだが、直で見てしまったかと思ったとき、再び大きなめまいが起きそうな予感がした。が、一度見てしまったものは仕方がない。それに、その女の人(出来るだけ人と考える)が助けてくれたおかげで、部屋に戻れた。

 出来るだけそうプラス思考でいくと、なんだか女の人の件はどうでもよくなってきてくれた。

 われに戻ってドアノブを回し、再びあの階段まで向かった。

 





 ゆっくりと階段を降りていくと、リビングのような部屋のところからは、もうすでに電気は付いていなかった。

 少し不安になって早足で近寄り、中を覗いてみると、騒ぎ疲れたかのようにぐったりとソファに身体を任せている人たちや、きちんと椅子に座って腕を組み、眠っているものもいた。  どうしてここで寝ているんだなんて考えながらも、起こしてはいけないと、手をかけたドアノブから手を離した。

 その場から離れ要とした時、中のほうからゆっくりと悠汰が顔を出してきた。

 

 『いたぁどこにいたんだよぉ〜探したぞー』

 

 ――ごめん。っていうか話した?

 

 『話し?できるわけないだろぉ〜』

 

 なんてプゥッと膨れてしまった。

 

 ――どうしたの?この人たちはぐったりしてるけど

 

 『一応ここで寝起きして、見張りの人と交代できるようにって、それだったらここがいいんだってさ。というか、単に階段上るのめんどいんだってさー』 

 

 ――全員寝てたら意味無いじゃん

 

 『それがまた仮眠のように眠りが浅いんだよ?少し物音鳴らしただけでピクッと起きちゃうもん』 

 

 なんて、少し残念そうにしていた。

 確かにそれだったら、何かあった時にすぐに反応は出来るものの、監視カメラを見ている人とかはいるのだろうか。

 いや。交替っていっていたし、見張りとか言っていたからそれなりに何かいるのだろうか。もしかしたら玄関のところにだれか居たりするのかもしれない。

 

 ――おなか減った……

 

 『あっ帰ってきてからなんも食べてないもんね……今丁度三時くらいだしもうすぐで朝だから皆おきると思うけど……もしあれだったらもってこようか?それとも自分で持ってくる?』

 

 ――悠汰……お前が持ってきたところを誰かに見られたら100%幽霊の仕業になるぞ?

 

 『たしかにー』

 

 なんてケラケラ笑っていたが、これでおきないから本当にこいつの声は聞こえていないのだろう。

 ゆっくりと踵を返そうとしたが、一応と思い、ゆっくりと最初に連れて行かれたあの硬いベッドがある場所に行こうと思い、ゆっくりと足を動かした。

 

 『どこいくの?』 

 

 ――あの最初行った部屋

 

 『場所わかる?』

 

 ――多分探検プラスで行くよ

 

 少し嬉しかった。

 今までずっと独りだったとき、悠汰がきて。最初は少しうざかったけど、逆に居なくなったら居なくなったで、独りという事を思い知らされる。

 だから今はホッと安心心していて、なんだか「悠汰」という存在が欠かせないものになりそうな予感がした。

  

 ――なぁ、お前ショートヘアーの女の人知らない?

 

 『女?なんで?』 

 

 ――さっき迷った時に女の人がいて……それで部屋に連れて行ってもらったんだよね

 

 『……』

 

 今まで困っていた事を聞くと、青ざめた顔で悠汰は俺を見つめてきた。足元待っていた。何かと振り向いてみる。

 

 ――悠汰?

 

 『ここ……珍しく女の人生まれなかったんだよ……だから女の人はいるはずが無い』 

 

 「えっ……」

 

 だんだんつられてきたわけでは無いのに血の気が退いていくかのように、だんだん目の前がぐらついてくる。

 人ではないのならば幽霊だろうか。確かに触れた。肩だけかもしれないけど、確かに掴まれたから幽霊では無いような気もしないことは無いのに、この薄暗さがきてか、だんだんいやな方向へ進んでいった。

 

 ――ここの人たちって兄弟みたいだけどさ?母親とかって……


 『いないよ。末っ子が産まれてから死んだから』 


 じゃあ母親の生霊?生霊じゃなくても、霊かもしれないという心がある。

 

 『ん〜幽霊……?もしくは誰かが侵入したのかな……?俺のときはいろいろあったからかなり厳重に周りにボディーガードみたいに一緒に居てくれたからなぁ』

 

 ――幽霊……だったらやだなぁ〜

 

 『こわい?』 

 

 ――画面越しじゃないから怖いかもしれない……


 ふらつく足を止めるように、ゆっくりと壁に手をつけて身体を支える。

 だって。怖いものは怖いじゃないか。

 

 『そうだ。ひとついいことおしえてあげる。さっきの寝てるって言ったけどなんか作戦ある見たいよ?悠樹の力が知りたいからここにきてなんかしていくかどうかって』 


 ――そういうこと早く言えよなに?どっかでみてるの?それ

 

 『監視室中央部でみてる』

 

 ――場所教えて

 

 『いくの?』

 

 ――うん

 

 





 



 怖いからと話を変えてくれたのか、そう言って俺の前を悠汰が歩き出した。

 別にそれが嘘でも別にいい。探検にもなるし、それなりにたのそうだ。適当にその道を覚えるが、別に帰り迷ったとしても悠汰がいる指導にでもなるとも考えていたから、適当に周りを見回す程度で歩き回った。

 なんだか本当にお姫様が居たかのように、壁には所々絵画があった。暗くてよく見えはしなかったのだが、それなりに綺麗だった。

 なのにどうしてこんなにも廊下を暗くしているのかがいまだに理解が出来なかった。何か作戦としてあるのか、それ以上の何かがあるのか。それも悠汰に聞きたかったが、後に解ってくるだろう。とおもい、聞かずにいる。

 あれから暫く適当な話をしながら悠汰とてくてく歩いているが、ヤッパリ足音は俺しかない。

 二階に上る階段から絨毯だから、一階には絨毯が敷かれて居ない。

 

 『ここの扉だよ』

 

 ――んじゃ失礼しまぁす

 

 ノックをしないでゆっくりドアノブに触れようとした時、勢いよくその扉は開かれた。中は結構明るいのだが、すぐ目の前に人が立ち、影が出来てそう明るくも無いような気がしてくる。

 見下ろしてきているのは、先ほどの勝治さんだった。かなりの勢いで睨みつけられるその目つきは、化物を見るような瞳だった。

 ヤッパリ来る時のも見ていたのだろうか。

 ならば、話している時に止まった振り向いたあれも見られていたとしたら、かなり怪しい。しかも反射的に「え?」なんていってしまったし、急に顔色悪くしたしで、悠汰の存在を知らないやつは「七面相を独りで楽しんでいる」という事になってしまう。べつに7面相でも6でもいいのだが。

 

 「どうしてここが?」


 開けた扉に寄りかかるように身体を任せている勝治は、ヤッパリ見下ろしている。化物を見ているような瞳では無いが、凄く怒っているのか眉間にシワがひどかった。

 ナンパしていそうな面だから余計に怖かったりもする。けれど、よくよく考えればこれが真治じゃなくてよかったとも思う。あの瞳は本当に怖い。ぱっと見は余り怖くないのだが、あの手の奴に睨みつけられるのはいやかもしれない。

 変わりに勝治は、路地裏にでも引っ張り込ませて思いっきりカツアゲしそうだ。

 

 「探検していました」

 

 「ほんとうか?」

 

 確かに本当ではあるが、道案内の悠汰がいますから。なんていえないだろう。

 少し目線をずらして中のほうを見ると、かなりモニターの数がある。そしてくるくる回る椅子に座っているのは、2人ほど。しかも運が悪かったのか、祐司と真治がいた。どうして名前を知っている人だけなのだろうか。それとも何かを狙った?

 ここで一応聞いて見る価値はあるかもしれない。けれど、聞いてまたへんな問題になったらと考えると、少しばかり億劫になる。

 

 「探検してたのは本当……」

 

 けど、言わなくても監視カメラで見られているんだったら解っているはずなのに、どうして何も疑問に思わないんだろうか。確かにあの時にも赤く光る監視カメラがあった。なのに。なのにどうして気付かないのだろうか。

 もし本当に幽霊だとして、運んだら運んだで「浮いてる」とかそういう反応してくれてもいいのに。それとも取り付かれていたのだろうか。それだったら少しばかり納得はするものの、それまでに適当に話したような気がするのに。声は入っていないのだろうか。

 なんだか逆に怖くなってきた。

 

 ――ホラー映画なんて見るもんじゃねぇな……

 

 『なに?ホラー映画で似たようなこと起きちゃったの?』

 

 「違うんだけどサー……」

 

 うつむいて手をオデコに当てながら、ほとんど口の中で言っただけのような言葉を、もごもごと言った。それを聞き取られたような雰囲気は無い。

 

 ――俺……霊感ないよね?


 『俺は無いから多分無いと思うけど……』

 

 「じゃあどうしてここがわかったんだ?」

 

 急に話を戻されて、何の話だったかと一瞬頭をゴチャゴチャにされた気分だ。

 

 「えっと……学校から帰ってきてから何一つ食べてないから……お腹空いたなぁ〜っておもって」

 

 「はぁ〜……ならどうして中に入って誰かを起こさなかった?」

 

 ため息混じりに言われた。

 多分疲れているのだろう。なんて言ったって寝ている様子なんて無い。疲れさせているのは自分なのかと考えると、確かにそう思わなくもないのだが、それだったら俺を預け入れさせなければいいのにとか、監禁状態にさせればいいのにとか。

 いろいろと方法を思いつくものの、どれもいい方法ではないものばかりだ。

 

 「……皆疲れてるみたいだから起こすのも悪いかな?って……」

  

 「だけどここまで来た理由にはならないな。やたらここの事に詳しいみたいだが?名前を知っていたり」

 

 ――それは協力者が居るからー……俺ヤッパリ大人しく部屋に居た方がよかったのかな?

 

 『けどお腹減ったなら仕方なくない?』 

 

 ――だよねー?

 

 「部屋。戻ります」

 

 そう言って踵を返そうとした時、力強く腕をつかまれて、なぜか中に連行されてしまう。ズリズリと引きずるように。

 

 「えっ?なに?」

 

 「こっちに食べ物がある」

 

 怒り調子の口調に、どうやって礼を言おうか迷うではないか。

 開いている勝治の椅子だろう椅子に乱暴に座らされ、勝治は奥のほうに行き、何かを物色するかのように、ビニール袋を擦る音が聞こえる。

 

 「悪いな乱暴で。根はいい奴だから許してやれ」

 

 何を責める事もなく、クスクス笑いながら祐司が隣でいっていた。別にまだそんなにも乱暴では無いから許すも何もない。乱暴な人は本当に乱暴だから。

 

 「こんなに暗くてどこに誰が居るとか本当にわかるの?それにここがどこだかって言うのわかるの?」

 

 ジッと黙っているのも何かいやで、大きなモニターに囲まれているのをいいことに、適当に質問を投げつけてみた。

 

 「ここに何年も居ればわかるよ」

 

 「迷子とか迷ったりとかしないの?」

 

 「小さい頃はよく迷ってた」

 

 「っていうか、普通の家とかないの?小さい頃からずっとここ?逃げ出そうとか思わなかったの?」

 

 「役目を知っていたから」

 

 「役目?」

 

 フッと言った祐司のことばに、何か引っかかる。

 

 「お前を守るってこと。ちゃんと身体も鍛えてたし」

 

 「えっ……小さい頃ってなんか年齢差あって祐司さんの小さい頃には俺まだ生まれてないような気がしてきた」

 

 「うん。けど生まれてくることは解ってたから」

 

 「どうして?」

 

 「さぁね?なんかいやなことが起きるっていうオヤジが凄く警戒してたみたいだぞ?オヤジの勘は外れたことが無い」

 

 「……」

 

 全くもって質問の答えになって居ないような気がする。

 じゃあ心臓を狙ってるってやつらの事までわかっていたのだろうか。

 

 「ほらっこれ喰え」

 

 勝治がイラつきモードでそういいながら渡してきたのは、パンだった。食パンではない食べやすくて柔らかいもの。あまりパンとかに興味が無いから種類とかは全くもってわからない。

 袋から取り出してパクッと口に含む。

 凄く弾力のあるそのパンは、ゆっくりと破けて口の中に入っていく。噛む感覚も凄く柔らかくて何か落ち着く。

 喉をするり通って、量の割りに結構お腹に来る。これだったら一個丸まるではなく半分で十分だ。甘いし、それなりに味が濃い。

 

 「で?どうして名前を知っている?」

 

 「ここって女の人は居ないの?」

 

 聞かれたことには答えずに、逆に質問をする。それにすこしぴきりと来たのが解る。眉間のしわが増えたから。勝治の。

 クスクス笑う悠汰。

 

 ――悠汰はお腹減らないのか?

 

 『うん大丈夫!減るような気もしないし』

 

 ――そっか。

 

 「残念ながらむさ苦しい男どもだけだよ」

 

 捨てつけるような怒鳴り口調の勝治。落ち着けと隣で祐司が押さえつけようとしているが、勝治の怒りだけは全くもって収まるような予感はしない。

 勝治から目線をこっちに持ってくる祐司。

 

 「どうして女の話しに?」

 

 「いっ……いやぁ〜べつに。男ばっかりなのかなぁ〜って思って」

 

 目線を外してパンを口に銜える。

 

 「口説こうとしたのか?バカじゃねぇの?まだ1回しかなかったから自覚無いのか!お前は狙われているんだ」

 

 ――じゃあ何で女の人が……?

 

 勝治のいかれ口調は全く持って耳にいれずに、考え込む。

 

 『ヤッパリ聞いてみたほうがいいよ』

 

 心配そうに言う悠汰。だが、ここでいっても確かにあそこにカメラはあった。確かにこんなにいっぱいモニターがあれば、一瞬くらいだったらわかんないかもしれないけど、確かに俺は女の人にあった。

 髪は少し暗くても茶だってことはわかった。茶色で綺麗に揃ったショート。身長はそれなりにあって、モデルのように細かった。動きやすそうな7分のズボン。裾がきゅっと締めることが出来る紐のやつだ。

 

 ――ん〜……いや。それなりに疲れてたから見間違いかもしれないしきっかけがあったらそういえばーってしらばっくれた顔で言って見る。皆疲れてるみたいだし

 

 けれど、確かに1回しかあっていない。だからこそ危ないって言う自覚が無い。なんて言ったってボディーガードみたいにしつこく一緒にいる人だって居ないし、そんなに心配しているような顔つきじゃないのも確か。だけど、このモニター室とあの部屋を見てしまった以上、皆も結構がんばってくれているという事だけはハッキリしている。

 そんなことをいったら、ただの同情になってしまうかもしれないけど、同情になっても仕方がないような気がする。だって。凄く他人事のような気がするから。

 自覚が無いんじゃなくて、自覚するようなことになっていないからだ。

 

 ――そういえばこのカメラって悠汰うつるかな?

 

 『えっ?わかんない。ならちょっとすぐそこのカメラに写ってこようか?』

 

 ――うん頼む

 

 『OK』

 

 そういうと、扉をすり抜けて廊下のほうへ言った。

 

 『あった。多分普通だったら写るようにピースしてるから探してみてー』

 

 ――わかった……

 

 「ねぇこのカメラって番号とかないの?ここのカメラは1とか2とか3とか」

 

 「ある。カメラの下に番号が書いてあって、向こうのカメラから下にだんだん1〜だよ」

 

 そういって、ドアに近い方で、今向いている壁のモニターを指した。そっちから1。ということは、カメラについているのならば数えていけば良いのだろうか。

 

 ――悠汰。そのカメラ何番って書いてある?

 

 『えぇっと……23』

 

 「番号言ったらすぐにわかったりするの?」

 

 「まぁ、主な部屋はわかるけど」

 

 「へぇ〜……」

 

 なら今23はどれ?と聞いても不思議とまたいろいろ言われるだけだ。俺は一つ一つ数えていくことにした。

 どれもほとんど暗くて、カメラに写っている真ん中しか見えない。

 縦に一列八個カメラのモニターがある。

 23は一番下。

 

 ――悠汰いまちゃんといる?

 

 『うん。ど真ん中でピースしてるけど』

 

 ――見えない……

 

 『そっかぁ〜なら俺は見えてないんだなみんなに』

 

 ――ぽいね

  

 「これって音声とかは聞こえないんですか?」

 

 「そこまで発達してないなぁ〜」

 

 少し不安そうに祐司が言った。

 まぁ、聞こえていないのならば適当に悠汰と話していても聞こえないのだろうか。けれど、どこでどうやって着いてこられているかまったくもってわからないということだ。

 もし聞かれたら悠汰の事を1から説明しないといけない羽目になるのだろう。

 

 「そっか。じゃあ部屋戻りますね」

 

 「ついていくよ」

 

 「大丈夫ですよ」

  

 「けど迷ったら……」

 

 「その時はそのときそこで寝てやる」 

 

 なんて笑いながらパンを袋に戻し、それを手にドアのところまで行った。

 

 「じゃ失礼しました」

 

 職員室から出ていくようなのりでそう言ってやる。なんとなくそれがいつものような気がするのだ。余り職員室に行かなくても、なんとなくそんなきがする。ただそれだけ。

 本当にずっとピースしている悠汰に行こうというと、ニッと微笑んで隣を歩いていた。本当に歩いている音すら聞こえない。なんだか浮いているかのように。

 道案内をされながらも、俺はあの大きな部屋でたった一人になった。

 

 

 

 

  このまま寝るのもなんだかいやだった。だから適当にクローゼットを開いて、寝やすい格好のものを探して着替え、さっさと布団の中に戻って行き、渡されていたスイッチをベッドライトのところに立てておいておいた。

 皆みたいに上手く薄い眠りに入ることなんて出来ないから、ぐっすり眠ってやるつもりだ。

 パンはベッドライトの台の下にある何かを入れれる空間にソッとおいておいた。お腹が空いたら食べようと思うのだが、これからは何かきちんと朝昼晩ご飯をくれるような気がして別に必要がないような気もしないことは無いのだが。

 ゆっくりと……ゆっくりと俺は眠りの中に入っていった。


 

  

 

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