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心臓の逃げ道  作者: 壬哉
8/17

信じる信じない―『絶対』

 あれから一人になった。いや。二人になった俺らは、部屋に何があるのかを壁の一つ一つを見逃さないようにいろいろ見てから、疲れた身体をやわらかいスプリングの効いたベッドに渡されたスイッチを放り投げ、ボケーッと身体を任せていた。

 ゆっくりしてから気付いたのだが、結構俺の心はユラユラと揺らいでいて、しっかりとしたことを決めていなかったような気がする。

 一瞬信じたり、絶対信じないとか。いろいろ言っているわりに、心のどこかでは結構信じていたり、頼っていたりする。

 人間というのは大体そんなものなんだろうななんて考えたりもした。

 

 眠れるくらい疲れているわけでもないし、さっき言いだけ寝たような気もする。

 横になっているのに全く持って睡魔がやってこないのだ。

 靴を再びはきなおし、ゆっくりと入ってきた時の少し重めの扉を開けた。

 

 『悠樹?!また逃げるの?』

 

 不安そうな声に、俺はフッと微笑んでこたえた。

 

 「探検。大丈夫逃げないよ」

 

 ――逃げても絶対につかまる予感するし

 

 『ならいいんだけど』

 

 こっそりするかのように、顔だけ出して周りを見回した。

 こんなんだったら、敵も味方も見分けがつかないうえに、誰かが近寄ってきても絶対に気付かないと思う。

 出来るだけ壁に沿って周りを注意深く見ている。何か忘れてきているような気もしないこともなくて、だんだん心のどこかがドキドキ言う。このドキドキ間は好きだ。なんだか安心するというか、今から何かを探検するんだ。っていう強い心になれる。

 

 忘れたものは仕方がない。

 

 今はそうやってプラス思考に考えるしかなかった。

 現実にもどれと思っていても、この現実が今の現実であって、夢だったらいつか覚めてくれるだろうとおもう。夢だったらもっと派手なことをしているのだが、もし夢だったらって思うと、必要以上に暴れそうで怖い。

 現実は覚めようとしていても、それが今だと考えるしかない。

 だが現実というのは余りすきでもないかもしれないけど。

 

 少しだけ足を引きずるかのようにあるく。

 ザーッと足を軽く上げる一瞬だけ音がなる。絨毯。少しふわふわしていて、こんなところを靴で歩いて良いのかと思うが、一応祐司も青磁も歩いていたからいいと勝手に思い込む。

 ペタペタ触れるその壁は、全く熱がないコンクリートを触っているように、本当につめたい。冷たいからこそ何かゾワゾワとした何かがある。

 

 「懐中電灯が欲しい……」

 

 『なんで?』


 「くらい」

 

 『まぁまぁ』

 

 和ますように、苦笑しながら言う悠汰も、周りをキョロキョロ見回しなが歩いている。

 

 「隠しカメラとかヤッパリつけてるのかな??」

 

 『うん。あるよ』

 

 当たり前じゃんというように、きっぱりと言った悠汰の方をゆっくりと振り向いた。

 ヤッパリここの事を知り尽くしているのかなと少し不安になりながらも、なに?というように口を動かした悠汰をじっくり見る。

 

 「どこに……」

 

 少し小声でそういうと、ゆっくりと悠汰は腕を上げて人差指を何か一点に向って指していた。

 その先は、回れ右をしてすぐそこの曲がり角の天井の隅にある赤い光。じっくりそれを見つめると、確かに黒いカメラみたいなのがあった。

 なぜカメラは赤い光があるのだろうか。

 敵にカメラの位置を押しているようなものなのに。と、漫画を読んでいるときとかに良く思っていたのを思い出した。

 絶対敵だったらそれから隠れるようにする。なのに。何でこんなにも解りやすく?

 目線を外してはぁと大きくため息をついた。

 もう一度顔だけを悠汰の方を見ると、何か嬉しそうににっこり笑っていた。どうしてこいつはここまで幸せなのだろうかと、今更悩んだところで仕方がない。

 

 ――あぁ〜……なんか悠汰が未来の俺じゃなくてもなんだか別にいい気がしてきた……


 『えぇ〜!?なんで!?』

 

 ――だって俺そんなににっこり笑えないって絶対……逆に他の誰かって言われた方が納得いく………まぁべつにいいけどさ悠汰は悠汰ってことで


 『俺も多分悠樹くらいの歳だったらそう思ってたな』

 

 ――だろ?

 

 顔を進行方向に戻し、ゆっくりと再び足を動かした。

 壁に沿って足を動かす。

 一応ここは来た道だったはずだが、曲がった先に階段があった。

 

 上る方と下る方。

 

 一応玄関の方に行くなら下る方。なんて考える前に足が勝手に階段を下りていた。

 本当に何度見ても広いと思う。

 この階段は絶対に広い。

 壁に沿って歩いていたら、凄く右側に余裕があるのだ。壁に手をつけているのは左手だから、凄く小さく感じてくる。自分が。

 何でこんなにも広くしたのだろうかという疑問があるが、余り考えないようにした方が良いのだろうかとも思ってしまう。大人の考えるところは良くわからない。

 へんなところにお金をかけるし。

 特にこの建物なんて得にそうだ。少し向こう側を見て、見上げてみると使われていないシャンデリアがあった。なんだかパーティーのホールに見えるが、視線を進行方向に戻すと、普通の廊下だし。こんなところにシャンデリアなんて取り付けてどうするのだろうか。それだったらもう少しこの建物内を明るくして欲しい。

 何度目か解らないため息をつき、足を再び動かした。

 少し向こう側からは、ドアの向こうから光る光が漏れている。特にこれといって宴会しているような声はしてこないが、出来るだけそっちを見ないように。光を浴びないように、ドアではない方の壁にぺったり歩いて行った。

 

 ガチャ


 ゆっくりと扉が開く音がしたが、あえて気にせずに前だけを見ている俺に、後ろから声がする。

 

 「悠樹?どうした?」

 

 少し早足で近づいてくる祐司。後ろからお供するようについてくる感覚が、凄く何かの皇子様気分だったが、雰囲気が雰囲気だからどうもいえない。

 あえて振り向かずに、まっすぐ前を見据えてゆっくりとした足取りは変えない。

 

 「悠樹!!」

 

 肩をグイッと引っ張られて、無理矢理向かい合わされる。さっきもこんなことをされたような予感もする。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「えっ……と……散歩。どんなのあるか知りたいし」

 

 「そう……か?一緒に行こう。なにかあったら危ない」

 

 そう言って手を握ってくる。

 

 バシッ!!


 反射的思いっきり手を離して、二・三歩下がった。掴まれていた手を逆の手で掴み、胸元に持っていく。

 自分で震えているのがわかった。けれど、視線の向こう側で祐司が驚いた目をしているのも解ってしまう。何か自分がいけないことをしてしまったかのような、何かの罪悪感が身体のどこからか出てくる。

 

 「あの……ごめんなさい……えっと……多分大丈夫だから……一人で行って良い?」

 

 「でもなにかあったら」

  

 「どうしたの?」

 

 他の人たちも、ゾロゾロその扉から出てきた。どちらかというと、扉に近いのは俺のほうで、反射的に一歩ずつ後ろに下がって行った。

 このまま行ったら降りてきた階段にぶつかる。といっても、距離はまだまだあるのだが、再びあの階段を登る気にはならない。出来ればこのまま前進させて欲しいのだが。

 

 「悠樹が散歩っていうか探検かな?したいって言ったから何かあったらあれだからって一緒に行こうと思ったんだけど」

 

 少し残念そうに言う祐司に、へぇと他の人たちは疎らに納得するような声を出した後、視線がこっちに向いてくる。

 逆に走り出しにくいし、目の前を歩くわけにも行かないし。

 だんだんいろんな何かに対しての罪悪感が、胸の中からこみ上げてくる。

 

 「だって……なんとなくこの建物内だったら安全かなって……思って……」

 

 出来るだけいいわけみたいなことをいってみたりもするが、いろんな人に囲まれるように見下ろされている。

 身長的に、皆して高い。

 余り身長に変わりが無いのが結構恐ろしいくらいにむかついてくる。相手が高いと、こっちからは見上げるしか出来ないし、向こうは見下ろすしかないから。

 こんな俺でもそんなに身長が低いということでもないのだが。

 

 「でもいつ現れるかわかんないしね。一応いろんなところに監視カメラつけてるけど」

 

 少し困ったように、メガネをかけてパソコンが友達のような人がため息混じりに言う。

 カメラをつけていたって、あの大きな案内された部屋に一人で居ればそれなりに勝手に誘拐されても仕方がないような気がするのだが。それは俺だけなのだろうか。

 

 「大丈夫……これでも走るのは得意だから(嘘だけど……)」

  

 アハハハハァ〜と軽く笑って見せて嘘っぱちをつく。なんて言ったって俺は運動が大の苦手の分野に入ってもおかしくない。

 祐司を撒くかのように走ったあの時だって、無意識に走っていたし。結局つかまったけど。

  

 「けど向こうも結構鍛えてると思うよ?」

  

 「大丈夫です……そんなに長い間歩きませんからすぐに戻ってきます」

 

 本当は休みたいからあの部屋に案内されたような気もするのだが、ここでこんな煮物人数に会ってしまうと。

 とりあえず今話している人の名前くらいでもわかっておきたい気もする。

 

 ――あの人だれ?

 

 『真治さんだよ』

 

 ――真治ね……


 結局この人たち全員を覚えれる脳みそは無いことくらい、俺自身わかっている。

 

 「ん〜……ヤッパリ長い間じゃなくても祐司ついていったら?もしあれだったら俺もついてくけど人数多いのもいやだろうし」

 

 なんて仕切るように真治が言う。

 どうしてそこまで心配性なのだろうか。確かに狙われてるから年がら年中ピッタリついている人一人くらい居てもおかしくは無いだろうけど、あんなにも部屋で一人にされていたら、この建物の中はどこも安全なのだろうと勝手に勘違いしてしまうではないか。

 

 「ちゃんとスイッチは渡したんだよね?」

 

 「………あっ!!」

 

 思い出した。さっき忘れているような気がしたのは、スイッチだ。ベッドの上に放り投げたまま、そのままにしてあるから、すっかり忘れていた。

 結局一番自分が見に危険を覚えていないだけだった。

 なんだか凄く周りの人たちに罪悪感があったのは、これだったのだろうか。少し違う気もするが、結局は罪悪感を覚えてしまうのだろう。

 

 「なんか忘れてると思ったらベッドに放り投げたままだった……ありがと真治さん」

 

 踵を返して、さっさと階段の方に走っていくと、思いっきり誰かに抱きとめられた。後ろから。

 力的に祐司ではないことは確実だった。

 今口がポロリと真治さんと言ってしまったから真治さんかとおもったけど、距離的にこんなにすぐにつかまえることができないとおもう。

 

 「どうして真治の名前がわかったんだ。一応自己紹介はまだなはずだが?」

  

 上を見上げたら、その抱きしめてきているやつの顔が見える。

 ちゃらちゃらしていて、そこらへんの女をナンパしているような男。ネックレスやら、ピアスやら、指輪やらがたくさんついている。少し背中に鳥肌が立ったのか、冷たい冷気が通ったような。

 

 『勝治さんだよ』

 

 ――なんでみんな「ジ」ってのがつくんだ?名前に……


 『さぁ?……そこまでは知らないけど……』

 

 「ごめん……なさい??」

 

 これは謝るべきの物なのか不安になってくるが、おなかの部分を回っている勝治の腕の力は全く持って緩む予感はしなかった。

 

 「言うんだ!!どうして名前を知っているんだ!祐司の時だってそうだったらしいじゃないか」

 

 かなり怒鳴りつけてくるその声は、凄く耳元過ぎて、頭にキーンときてしまう。周りの人求めてくれればいいのに、確かにというように納得するのか、不思議と思っているのか、腕を組んでじっと睨みつけてくるし。

 こんなにもピリピリされると、逆に言うのもいいにくい。 

 っていうか、絶対に言っても信じてくれないし、信じてくれなくてもいいからとりあえず離してくれ。

 離したら逃げるだろう?

 といわれたら、うんと大きく縦に首を振ってあげるから。

 

 「うぅ〜……言いたくない……っていうか吐く……苦しいよ勝治さん?」

 

 ――もうここまできたら自棄だ自棄!!

 

 『悠樹。その思考楽しいわ』

 

 とかいいながらクスクス笑っている悠汰の方をぎろりと睨み付けたいのは山々なのだが、その方向には違う人がいるから、絶対に変な目で見られる。

 ピタリと勝治の手も止まり、かなり驚いているような瞳で見つめられる。

 

 ――っていうか助けてよー悠汰……


 このしんみりとした空気をやっていけなくなり、軽くため息をつきながら、上げていた頭を、前に向かせて疲れた首を掴んで擦る。

 軽く凝ったように肩が少し重い。

 

 『どうやってたすけようか?』

 

 本当に困っているような瞳で見つめてくる悠汰に、少しだけ同情した。

 確かにもしこれが逆の立場ならば、俺だってどうしようもない。

 

 ゆっくりと力がゆるんでいく勝治の腕から、するりと身体を柔らかく使って抜け出した。何歩か先を歩いてゆっくりと振り向く。

 ピリピリしたちょっと痛目の空気に、動かして止めた足が、本当に凍り付いてしまいそうなくらい冷たい瞳で見られている。

 本当は守られるべき人間では無い気がしてきた俺は、ゆっくりと向き直って階段を上っていく。

 きっとさっきのかたまりの人たちは、ヘナヘナと座り込むか、何かを話し合っているか。ほかの事は考えられない。

 本当に見えないところまで行くと、少し早足になっていた足を止めて、ホッと息をついた。

 後ろから悠汰もゆっくりとついてきていた。少し心配そうな瞳で俺を見つめていた。少し悠汰には悪いことをしてしまったかな?という心配も出てきてしまう。

 

 「ごめんな悠汰……」

 

 『え?俺?』

 

 「うん……なんか……悪かったかな?って……っていうか別に俺にばっかりいなくてもいいぞ?祐司さんたちと一緒にいてもいいし」

 

 『……じゃあちょっと行ってくるね。何話してたか後で教えるよ』

 

 苦笑しながらゆっくりと踵を返していく。

 

 これで本当に一人になった。薄暗い中、たった一人残された。どこに向かうかなんて思いつかない。とりあえずここ以外の階段を探すしかなかった。

 一応それが本当の目的だから、余り変わったことがおきたわけでもない。


 探検


 小さい頃。本当に小さい頃は、探検するのが嫌いだった。

 新しいことをして失敗して。それで笑われるのが怖かったから。基本的に怖がりだったかもしれない。いつも周りに笑われているような気がして、隅っこの方でみんなの行動についていくのが精一杯で。

 目立つのが怖くて。

 遠足の時だって、群れから外れないように、先生と一緒にいたり、友達の後ろについていたり。絶対に一人ってことはなかったけど、精神的には一人だった。

 特定の友達だって出来なかったし、一緒に手を繋いでくれた覚えもない。

 それでだったのだろうか。少しだけ握手をされたり手をつながれたりするのが少し怖くて。だから出来るだけ人と一定の距離を測ってた。

 けど、高校にきたらなんだかそんなのどうでもよくて、みんなの意見に賛成していて、それでもヤッパリ特定の友達はいなかった。

 友達はいたのに。

 小さい頃から確かに友達の1人や2人はいたのに、結局最後まで一緒にいたりとかは無い。かもしれない。

 いまだって、結局行けば?って言っただけで悠汰は行った。

 自分から言い出したことなのに、少し悲しくて、本当に独りぼっちになってしまった。

 

 目の前は薄暗くて、どこまで続いているのか解らない廊下。

 壁に沿って歩いているのも、きっと昔からの癖になるのだろうか。

 誰も居ないから今は「誰か」を作ることにしているのかもしれない。それが壁。壁があればなんだかどこかにはつながっているような予感がするから。

 外見だけの友達たちに今の状況を伝えたら「気持ち悪い」とか「変なの」とかで、逆に笑いものになっていそうだ。

 結局こっちが主導権を握れるわけではない。

 何でこんなにも自分は何かに弱いのだろうかという不安はある。あるのになにか強くなれない自分が悔しい。

 1人だから余計に。

 それが普通だから。

 だから今まで部屋にいたにしても1人だった。逆にそれが安心していたし、なんか解らないけど人居たくないって思う空間だった。

 

 

 こういうとき。

 昔の俺だったら、今すぐにでも人に会いたいって思うのに、今の俺は全く持って会いたいだなんて思わない。寧ろ、今は1人にしておいてくれ。という感じかもしれない。

 あれかもしれない。

 信じて良いのかいけないのかわかんない人だから、逆に一緒に居たくないのかも知れない。

 家は自分が大体知っているから1人でいても問題はなかったし、学校の遠足とかだって、先生が決めていくところだから、先生に付いていったほうが信用できるとか。そんなことを考えていたからこそ、何も疑わずに人と一緒にいたのだろう。

 なのにどうして今は、こんなにも人を信じようなんてしていないのだろうか。

 時間が経つにつれて、どんどん絶対信じてはいけないだなんて思ってしまう。

 そんなにも悪い人に見えないし、あぁやって捕まえた時に心臓を狙っていてもおかしくは無いのに。

 冷静になれば、全然良い人につながっているのに、どうしてここまであの人たちを疑っているのか、自分のことなのに、他人の事のように全く理解が出来ない。

 心のどこかで、人を信じてはいけませんと何か説教をされているように……。

 

 

 

 

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