信じる信じない―『きっと』
こうだから人を信じることはしたくなかった。
いやだった
本当にいやだった。
信じたら最後には、裏切られるしか残っていないと思っていた。
あれからさっきの部屋に戻されて、落ち着くまでそこにいなさいと優しい言葉で言ってくれた。支えてくれるかのように、ソッと頭を撫でてきて。
これでも俺は高校生だ。
そう訴えたかったけど、この空気を壊す必要もないと察してはいた。けど、ヤッパリ何か子ども扱いされている。それもいやじゃないと思った自分。そんな自分がいるからいけないんだ。
硬いベッドの上で膝を立ててすわり、小さくなる。
膝を守るように身体を丸くして、その膝に顔を埋める。隣に心配そうな悠汰がいる。祐司はというと、とりあえず他の人たちと離してくるからジッとしているんだよと、外から鍵をかけられてしまった。
中から鍵をあけることも掻けることも出来ない。
監禁しているだけではないのだろうか。そう思うのに、なぜかそういえない。
なんだかこれが「おれの為」だなんて考えてしまうのはなんでなのだろうか。けど、本当に狙われているのならば、外からしかかけられない鍵は危ないのではないのだろうか。
少しだけ現実を離れたりするかもしれないが、もし狙ってきている土村家が来て、中に油をブチ撒かれ、そこに火を投げ入れられて、外から鍵を閉められたら、俺は逃げ場がない。それこそ死んでしまう。
ゆっくりと立ち上がって、扉まで行く。
その時に足を乗せたスリッパ。
よくこれであそこまで走ったな。なんて考える。
軽く人を蹴るように足を上げたら、簡単に脱げてしまうこのスリッパで、結構の距離を走ったし、祐司を困らせるくらいの距離は走った。
むこうは靴にしても、こっちはスリッパ。
そこまでがんばった自分に、お疲れさまっと、つぶやいた。
ドアノブを掴むと、ゆっくりと時計回しに回してみたが、半分も回さないうちに、ガチャっと止まってしまう。
「悠汰……」
『なっ……なに?』
考えている事がわかったかのように、ビクついた口調で反応した悠汰の方を、ゆっくりと振り向くと、不安そうな瞳。その瞳で見つめられる。
顔も体つきも全く同じ。
声はわかんないけど、しゃべり方は今の俺とは違っている。少し甘え口調なのと、思ってることを、言っていいところまできちんと整理してしゃべれている。
こんなの俺じゃない
何が未来からきただ。
悠汰。お前は俺じゃないし俺はお前じゃない。
同じなのは外面だけ……。
「鍵開けられるだろ?」
『むっ無理だよ!カギが無いと』
「ウソをつくな。カギがなくても開くようになってるだろ?」
きちんと調べておいた。
というか、さっき見た。きちんと普通の家のように、カチャンと回すだけでカギが閉まるようになっているあの仕組み。
これだってそうだ。
だから不安だろう。外からきて襲われかけたにしても、こっちから鍵を開けることは出来ない。だから逃げるにも必死扱いても逃げれるわけがないのに。
言った事が当たっているかのように、ギクリとしたような瞳でこっちを見ていた。
思ったことは顔に出る。
そんなところは俺と同じだ。
思っていることが出てしまうから、ポーカーをやっても、軽々と負けてしまったりしてしまうから。
だから少しそれを狙ってしまったかもしれない。
――ごめんな悠汰……
『悠樹……逃げたいの?』
その質問に、ジッと固まった。
そりゃ向こうのことがわかればこっちのこともばれるかもしれない。
――あれ?
ということは、どうにかすれば俺らの心が通じ合うかもしれない。
テレパシーというのだろうか。
考えている事をお互いに解ればしゃべらなくても、アイコンタクトくらいで済むような予感がする。完璧にそんなことが出来ないかもしれないけど、軽く努力してみる甲斐はあるかもしれない。もしそれが俺の力であるのならば。というかそれはちょっと願望かもしれないけど。
何でか解らないけど、ホッと微笑んでやると、悠汰もニッと微笑む。
ゆっくりとベッドの方に戻り、足をぶら下げるように座る。
「なぁ悠汰。俺はお前でお前は俺だっていうのは本当に信じていいのか?」
『うん。本当それだけは信じて』
「じゃあさ。お前の心俺にわかんないかな。俺の心。お前にわかんないかな?それだったらこうやって話さなくても祐司さんたちがいてもばれないような気がしない?」
『……それは何か力が無いと無理じゃない?』
「もしそれが俺の力だったら?」
睨み付けるように見つめると、ビクッと肩を上げる悠汰がいる。
『……じゃあ今何食べたい?』
そう質問して、俺の隣にソッと座った。
――母さん特性のハンバーグ
実験して何分かして、ゆっくりと扉が開く音がした。ような気がする。ジッと目を閉じて、悠汰に寄り掛かっていた身体を、ゆっくりと起こしてベッドに横になった。
ジッと目を閉じて、今の悠汰の心の声を聞くかのように、ジッと耳を済ませていた。
ソッと何かが髪をいじる感覚がした。それでも目を開けずに、ジッとしていた。
ジッと。
今何を悠汰が考えているのを探すかのように、ジッとハンバーグを連呼していた。
《悠樹……》
ハッと何か悠汰に呼ばれたように顔を上げると、悠汰もウンウンと唸りながら目を閉じて考えようとしていた。そして目の前には、祐司が少し驚いたような顔でいた。
そしてそのおくには、スラットして、頭の良さそうで、茶髪の少しかっこよさ目の身長が見た目180センチくらいありそうだった。
《悠樹……のたべたいの……》
再び透き通ったその声が聞こえて、スッと再び目を閉じた。
「悠樹?」
祐司の声が聞こえる。なぜ目を開けたのに起きないんだって思っているのだろう。けれど今はそれどころではない。
スッと真剣に心に悠汰を伝える。
ソッと悠汰のほうに手を自然にスライドさせた。シーツの上を。するとそれに気付いた悠汰はソッと握った。念を伝えるように。
――母特性のハンバーグだよ……
《……悠樹………………はん…ばーぐ………母さん特性のハンバーグ!》
――正解だよ悠汰
《えっ……》
『悠樹!!なんか解ったかも!母さん特性のハンバーグ!?しかも正解だよって言った??』
嬉しそうに、パァッと光り輝いた悠汰の顔を薄めで見つめてやった。
こんな事が本当に出来るんだ。なんとなくそれが嬉しかった。
実験してから数分。
ヤッパリやろうとすれば、俺と悠汰はどこかつながっているんじゃないかって思った。
薄く微笑む。
薄く微笑んでくれる悠汰。
『っていうか考えてたら祐司さんがいることにきづかなかった』
てへっ☆と言いたげな顔で握った手を離さずに俺の隣にきちんと座りなおした。俺もゆっくりと体を起こしながら握られていない方の手で、頭を掻いた。
きちんと据わりなおし、ゆっくりと顔を上げる。
――向こうのやつ誰?
『えっと……えっと今向こうのやつ誰?って聞いた?んとね?あれは姫倉青磁さん』
「悠樹大丈夫か?」
祐司はゆっくりと顔を覗きこんでくる。
「うん。大丈夫。それでそっちの人は……せいじ……さん?」
その言葉に、青磁ってひとも、祐司も驚いたように目を大きく見開いて見つめてきた。そんなに見つめられると、違うのかと思う。
ゆっくりと祐司は後ろを向いて、青磁のほうを見る。少し困ったような瞳に変わった青磁の瞳に、少し焦る。何でそんなにも困るような瞳になるんだろう。
ヤッパリ急に名前を当てられたら驚くものなのだろうか。
この瞳を見ていると、最初悠汰と会った時の事を思い出す。
いるはずのない人が今そこにいる。
知らないはずなのに。
凄く知った顔。
いつも朝一番に見る顔なのに、凄く始めましてといいたくなるくらい。しかも、その部屋の事を知り尽くしているように。
今はそれに似ていて、
何で俺の名前を知っているんだと見つめられているように、俺にとっては少しの優越感がある。自分が一番何かの力を持っていると言いたげな瞳になりそうなのを、ジッと押さえつけるように、目線をジッと悠汰の方に向かせた。
こうやって困らせるように言うけど、逆に困っているのは俺であって、こんな困るような雰囲気に下のもの俺だ。それなのにすべてを今、悠汰の所為にさせてやろうなんて考えてしまっている俺は、何かどこか卑怯という二文字なのだろうか。
もちろん悠汰もそれにこまっていて、いろいろ困っているようになっていた。
「どうしてわかるんですか?」
青磁がしんみりとした瞳で、だんだん近づいてくる。
出来るだけ逃げようと、ベッドの端っこまで行こうと足をベッドの上に乗せたとき、ガシッと肩を掴み、見つめてきた。じっと何かを見据えるように、俺の瞳を確実に掴み取っていた。
少し震える肩に気付いたのか、ゆっくりと離してくれる。
「ごめん怖がらせたな」
そう言って、肩に乗っかっていた手を、ゆっくりと頭の上に乗せ、グリグリと撫でてくれる。
微笑んだ笑顔が、スッと落ち着かせてくれる。なんだか癒しの効果を持っているように。
「あっ……こっちこそ驚かせてゴメンナサイ……」
ゆっくりとしたにうつむくと、悠汰がスッと顔を覗きこんできた。素直にそれに驚いて、思いっきりベッドにぶっ倒れてしまった。
「悠樹!?」
――ゆぅうぅたぁ〜おまえー……
両手を思いっきり伸ばして、顔サイドに。ゆっくりと顔を悠汰の方に少しだけ覗かせて、ジッと悠汰を睨みつけると、クスクス笑っているではないか。
《驚いた顔最高!!》
――お前……………
《ごめんって。けどヤッパリ声聞こえてるのって良いね安心する》
――っていうかお前はしゃべろよどうせ聞こえてないんだろ?
大きなため息を吐きながらゆっくりと体を戻すと、祐司と青磁が、勢いよく肩を掴んで驚いたように大きな声を出す。
「どうしたの?具合悪い??」
「なにかあったの?大丈夫?!」
「大丈夫大丈夫!!ゴメンナサイもう少し休んでていいですか?」
焦ってそういうと、ゆっくりと肩を話しながら祐司が軽く言った。
「別にいいけど。それならここの仮部屋じゃなくて、ちゃんとした部屋があるんだ。準備も整ったしこんな埃臭いところじゃない場所に移動しよう?もし疲れてるんだったら俺が負ぶっていくけど」
そう言って俺を持ち上げようとした。その腕から少し離れて自分で行くと告げた。
それからが一つの問題だった。
どこをどうしたら玄関というか、先ほどの光のほうにいけるのかを、再び頭の中で構成しなきゃいけないからだ。いざという時のためだけど。
連れて行かれた場所は、途中リビングのような部屋につながる廊下を通った。。凄く普通の家のリビングを20倍ぐらいにした部屋の大きさの場所に、いろんな人がいた。その部屋の扉につながる廊下を通ったときこっちに話しかけてきていたが、疲れているからというように祐司が言って、さっさとその奥にある階段を上らせた。
四人くらい並んでも上れるくらいの広さで、これで照明がもう少し明るくて、壁とかももう少し活気的にすればお城みたいなのに、どうしてこんなにも薄暗くする必要があるのだろうか。そう考えると、何か隠れるように、祐司達が着ている服も、凄く黒や灰色に近い動きやすそうな服だった。
ヤッパリ変な奴らが集まってきた時に行動しやすそうになのか、そう考えるだけで鳥肌が急に立つものだった。
そう疲れるわけでもない階段を上りきると、また迷路みたいになっていた。
けれど、下よりも部屋があるのか、扉の数が多いし、それなりに自室みたいに扉に何かを架けていたりしていた。しかも床は絨毯のようになっていて、スリッパの音が聞こえにくくなっていた。
祐司が前に。逃げないようになのか、後ろに青磁がついて来ていて、なんだか逆に逃げることが出来なくなってしまった。
――まぁそれなりに筋力とか付けたいな……格闘的なこと習おうかなぁ〜
『そうだねぇ〜格闘できれば楽だしね』
隣を歩いていた悠汰も、それに賛成はしたものの
『けど逃げないほうがいいからね』
と苦笑しながら忠告しながら。
心が聞こえるというのも、結構不便なものに変えてしまったらしい。
祐司がゆっくりと扉を開けた場所は、凄く広くて、照明も今までになかったくらい明るくて、逆に不安になってきた。扉も、他の部屋よりも少し大きかったし、何かここは特別ですといっているような感じだった。
部屋の中は大きくてキングなみのベッドの大きさで、その周りにはカーテンみたいなのがあった。なんだかお姫様のお部屋みたいに。さすがに化粧台みたいな感じのはなかったが。
こんなに大きくていいのかと言うくらいのベランダはなかった。
部屋にあわず、小柄な人ならば出れるんじゃないか??というくらいの大きさだった。もちろん祐司や青磁みたいに背の高い人には先ず無理だろう。
この中で現すならば、俺くらいだろうか。この窓を通れるのは。
「基本的な生活用品は一応置いてあります。クローゼットの中に服もありますし、スリッパがお嫌ならば靴もあります。こちらに」
そういって開けた場所は、扉のすぐ横側にある取っ手みたいなものを、クイッと回して下に開けると、靴が何個か板の上に乗っかっていて、その板子と動いてきた。
なんだかカラクリ象みたいな感じがしていて、カメラやらでどこかから監視されていそうだ。
「ねぇ、この部屋ってカメラとかで監視されてたりしないよね?」
じっと真剣な瞳で見つめてやると、コクリと頷いてくれる。
「大丈夫です。一応そういうのはお嫌だと思われましたので他のものを準備しました。これです」
そう言って指差したものは、何かのスイッチだった。
けれど、押す場所はカバーでちょっとした反動で押さされないようについていた。それを親指で外すと押せるという事なのだろうか。
けれど、それを持っていてどうなるのだろうか。
「これはむやみに外でも出さないで下さいね。もし部屋で何者かに襲われたら即座にこれを押してください」
真剣な瞳で握らされたそのスイッチを、じっくりとガン見する。
白くて、持ち運びが良さ気かといわれると、少し反応に困るようなくらいの大きさだ。
円柱で、本当に小さい。手のひらサイズ。スイッチの部分は淡い赤色が光っていた。
「これ電池とか切れないのかな……?」
「一応大丈夫だと思います。1週間ごと一応という事で変えさせてもらいます。もしなにかあればさっき変なやつらがいたあのホールに来てくださいね」
「変な奴らは酷いだろ」
クスクスとドアのところで青磁が笑っているのに、俺もクスクス笑ってやると、少し驚いたような瞳で見つめられた。
「なっ……なに?」
「いっいや……ここに着てからはじめてちゃんと笑ってくれたなって」
「あれ?そうだっけ?」
確かに今まで何かを企むような瞳くらいしかしてなかったかもしれないけど、そういわれるとこれ以上笑ってやらないぞっていう気持ちになるのは何かがあるのだろうか。
『ヤッパリ悠樹は笑ってるのが一番だよ』
――……悠汰も俺じゃなかった?
『けど自分じゃわかんないじゃん?俺って結構かっこよかったのかな?こうみると。自分がいやだったら悠樹のことみつめられないもんね』
なんていいながら俺の頬に触れて、オデコ同士を合わせてきた。
俺は将来こんな奴になってしまうのだろうか。
だんだん不安になってきたのは、問題なのだろうか。
ゆっくりと青磁の近くに行って、靴のところを開けてしゃがんでどれがいいかといろいろ見つめていた。
「この建物(?)の中では全部靴とかスリッパじゃないとダメなの?」
「……どういう意味ですか?」
「いや。せっかく絨毯なのに勿体無いなぁ〜って。マァいいんだけどさ?あっこれにしよう」
手に取った靴は運動するには最高そうで、なおかつ何かカッコイイ。
軽くはいてみても、知っていたかのようにサイズがいい感じだった。
「……なんでサイズわかるの?」
「それはいろいろ調べさせてもらいましたから」
――その前に俺を連れて行けよ
なんて突っ込んだけど、どうせそれでも逃げてたんだろうななんて思ったが、これで本当に悠汰が見えていて、芝居を扱かれていたらどう使用なんてまだ考えていたりもした。
だって、何せまだ狙われたのは一度しかないし、何で薬を盛る必要があったのだおろうかと言う所だった。それで信じろなんて無理な話しだが、再び思ってみると、信じろなんていわれたっけ?という事になった。
結局信じれとは言われてない。
助けたいんだとかはいっていたが、信じれなんていわれてないし、この人たちも心臓を狙っていないという事は無いんだ。
結局信じさせて警戒心をなくしたところで殺すんだ。
きっと
そう
きっと。
この一話は
ちょっとばかり早めに進展させて見ました