自分の力の行くべき方法
2人同時に顔から血の気がザーッと退いていってしまったような予感がする。
さすがの悠汰でも、縛られてたように縛りなおすのも結構困難だろうし、その間に見つかってしまえば、凄く曖昧だ。こうなってしまえば開き直るしかないのだろうか。
「マァその時はそのときだろう」
マァ良いや。という答えを残したとき、ドアの方から歩く音が聞こえてきた。なんだかもう諦めかけたその縄を持って、軽くため息をついた。
「ごめんね?悠樹」
「いいよ悠汰は悪くない」
ボソッと俺がそういうと、ゆっくりと鍵を開ける音がした。声も聞こえるわけじゃないだろうからと、悠汰が言うと、スッと微笑んでいた。
ゆっくりと戸が開く。
跳ね上がるような心臓の鼓動がだんだん早くなってくるのが解る。なんて言ったって。どうしましょうの巻だから。困る。
縄。の行方が。
開かれる扉を睨みつけるように、していたとき、スッと何か面白い事が反射的に思いついた。
ベッドにあるシーツに軽く包まるようにして、中にもぐりこんでみた。すると、チャッカリ長さがあっていて、手が結ばれているようには見えない。といっても結局いつかは見つかることになるのだからこんなことをしているのは、ただ根性がないというのか、いらぬ苦労というものだろう。
「悠樹??」
不思議そうに悠汰が、ドアの方に背を向けている俺に近づいてきて、顔を近づけてくる。
にこっと微笑んでやると、少し呆れたようにため息交じりの微笑で返されてしまった。一応これでも楽しんでいるという事がわかったのだろうか。
相手が怖い奴じゃないと思えば、少しくらいこんなことをしても罰がない。と考えたいからこそ、少しした遊び心もいいじゃないか。
「まだ寝ていたのか……」
少し呆れたような図太い声が聞こえてくる。
『あっあの人は姫倉祐司さんだよ』
何か楽しみながらそう言ってくる。
肩にその祐司という人の大きな手が当たり、ゆっくりと身体を仰向けにさせられる。
スーッと言った寝息に、少しため息をついた音が聞こえてきた。これから大事な話があるような口調には聞こえなかったから、別にこれくらい手間取らせていいだろう。
「おきてください悠樹君」
軽く頬をペチペチと叩かれる。
「ん……んんっ……」
少し寝返りを打つように、顔をそむかせながら、身体をゆっくりとさっきの方向に動かした。
薄く瞳を開けると、笑いをこらえて腹を抱えている悠汰が目の前にいた。それに笑いそうになったのを必死にこらえながら目を閉じた。
ソッと肩をポンポンッと叩かれて、漸くおきたかのように、ゆっくりと瞳を開ける。
「ん〜……なんですか?祐司さん?」
にっこり微笑んでやると、ピタリと固まったような顔になっていた。
それにクスクスッと微笑んでやると、だんだん顔から血の気が退いていくのがわかった。
『ハハハハハハッ』
悠汰もそれが面白かったのか、笑いをこらえることが出来なくて、腹を抱えて爆笑しだした。俺も軽くクスッと笑ってやると、少しあわてたような行動で俺の肩を掴んできた。
「どうして俺の名前を??」
「な・い・しょ」
ちょっと楽しむように言ってやると、悠樹最高と悠汰が笑いながら言っていた。
つかまれた腕をソッと開放されている手で、ゆっくりと掴んでやると、意外と反応が薄くて、そのまま放されていたが、漸くおかしい事に気づいたらしい。
「縄……いつ解いたんだ?!」
「えぇっと。足の縄は祐司さんが来る数秒前で、手はいつの間にか解いてた」
と笑いながら言うと、少ししかめるような顔で、ゆっくりとシーツをめくり上げ、足を見てみると、もうすでに自由になった足をみて、だんだん血の気が退いていった。
クスクス笑う俺の顔を覗きこみながら、真剣な声で言ってくる。
「自分の能力を……コントロールできるんだね?」
「できないよ」
にっこり微笑んでそう言ってやるが、全く信じていないように言ってくる。
「ウソをつくんじゃない!縄を解くにしたって自分ではほどけないようにしてあるんだ」
「じゃあ自分じゃない誰かがしたっていう思考にはならないの?」
ちょっとだけかわいこぶるように言ってみたり。
――あぁ〜……こんなことするんじゃなかった
そして今更後悔してみたり。
「マァ無理矢理手を抜いたんだけどさ……痛かったぁ〜」
ウソをついて自分の手首を軽く擦ってやった。確かに赤くなっていて、軽く腫れているところは腫れてしまっていた。
複雑な顔をする祐司さんに、クスッと微笑んでやった。
「そんな変なものを見るような目で見ないでくれない?俺完璧ちゃんとした人間だし」
「そのことなんだが……」
「なに?」
「朝倉。お前には少し警戒心が無いとは思わないのか?」
少し体を起こしていた俺の体を、自分で仰向けに戻ってみる。軽く悠汰のほうに手をやって近づいて来いというように、悠汰の腕を引っ張る。
祐司と同じく複雑な顔をしたまま、悠汰はゆっくりと口許に自分の耳を近づける。
<ドア閉めてきて……>
ボソッと俺がそういうと、クスッと悠汰は笑ってうんと頷いて、さっさと走っていった。こう考えてみると、悠汰は足音がしない。
結構バタバタ走っているように見えるし、俺も走るときは結構バタバタいうほうなのに、全く持って聞こえない。という事はヤッパリ見えないし聞こえない。というのが問題になっているのだ。
悠汰はゆっくりと戸に手をかけて、ギーッと音を鳴らしながら、閉めていく。
自然に閉まるような音に、ハッと祐司はそっちの方を向いた。すると、開けっ放しにしていたはずの扉がきちんと閉まっているではないか。
俺の顔と見合わせながら、不思議そうな顔で再びこっちを見てきた。
「なに?そっちの仲間の人が閉めたんじゃないの?」
ゆっくりと体を起こし、ベッドに足をぶら下げるようにした。
そういえば、ここに着てから俺はきちんと歩いて居ない。たっても居ない。薬がどうのこうのっていっていたけど、本当にどうやって嗅がされたり飲まされたりしたのかは、全く持って覚えても居ない。
これは少し失礼なことなのだろうかと思いながら、ゆっくりと立ち上がってみた。
靴を履いていない所為か、ひんやりとした床が感じられる。
それでもまだ不思議そうに見てくる祐司の顔を、こっちからも不思議そうな顔をして見つめてみた。
土が散漫しているわけでも、何か汚れているような様子もない床を、ペタペタと音を鳴らしてドアに近づいてみる。後ろからもゆっくりと祐司が近づいてきているのが解る。
祐司が俺の後ろにつくと、俺はゆっくりとドアノブに手を乗せて、回してみると、カギが閉まっているわけでもなく、開いていて、軽々と開くドア。
「開くな……どうしてしまったんだ?ヤッパリお前の仕業?」
「あそこから離れてどうやって閉めるのさ。誰かが閉めたに決まってんじゃないのかな?それか風」
ゆっくりと顔を覗かせてみるが、誰かが通った音はしないし、足音もしない。もちろん風が通るような様子は全く持ってないし、ドアを閉めるような微々たる風なんて無理だ。
当たり前な感想だが、静かだった。静かでしんみりとした空気。これからどうすればいいんだろうなんて、先のことは悠汰と後ででも話し合えばいい。
開けた扉をゆっくり閉めなおし、振り向いてみるとヤッパリ俺に仕業があるという瞳で見つめられてくる。
――確かに俺ではあるんだけどね??
未来の俺だから実際は俺じゃないんだよ?といいたいのだが、そんなこといっても変な人に思われてしまうが、心臓がどうのこうのっていう悠汰やお前らの方がおかしいだろと言い返してやりたい。
が、まだ祐司の口から心臓がどうのこうのという言葉は、一切出てきていないのだ。だから一応俺が知っているのもおかしな話なのかもしれない。
実際早く話しに入ってくれたほうが、精神的に落ち着くのだが、話してくれる感じもないのなら、コチラから話を振ってみてはどうなのだろうなども考えた。
「で?なんで僕を連れてきたんですか?」
直球にいきいてみるすると、いきなり俺のことを持ち上げて、運んできたときと同じように方に担ぎあげられる。
「うわっ……ちょこれさっきも思ったけどはきそうになる……」
と言った瞬間に、硬いベッドに思いっきり倒される。
「うわっ………なんだよ」
『大丈夫?悠樹。祐司さんは乱暴だけど根は良い人だから許してあげて』
悠汰にそういわれてしまえば、本当のことに近いから。だから信じるしかないような気もしてくるが、これだったら全員に会わせてくれればいいのに何でこの人なのだろうか。
「いいか。お前は狙われている身なんだ」
「俺が?」
――心臓じゃないの?
渋い顔で祐司の方を見つめるが、真剣な瞳でじっと見つめられるからこそ、これだから真剣な話しはだいっきらいだ。
しかも、隣では少しなんでか心配そうな瞳で見てくる悠汰がいるし。真剣な話しは苦手だって知っているくせにどうしてそうも真剣な話しに繋げるような瞳をしてくるかな。
――そっか……悠汰とは違う道を走ってるのか俺……
悠汰がいてくれたから土村家には引っかからないでいるから、未来を変えてしまっているのだ。だからこんなことは悠汰には予想できていなかった事だろうし、それなりにいろいろあったことがいろいろと変えてしまっているのだろう。
だから逆に心配になっているのだろうか。
「朝倉悠樹。お前は心臓を狙われている」
「どんな力があって?」
「それはおまえじゃなきゃわからない」
――それが一番困るんだけどなぁ〜
結局悠汰にも解らないというし、もちろん俺だってわかっているわけではない。寧ろ全く持って解っていないのと同じくらいわかっていない。だからこそ、俺は今どうすればいいか解らない。
悠汰を使ったとしても、力を使っている人からはこれはお前の力じゃないとかいわれてしまっては終わりだ。じゃあおまえのその力はなんなのかという問題があるから。
――うぅ〜……ヤッパリわかんねぇ〜
力の出し方さえわかれば、踏ん張るなりなんなりするのにそれすら解んないから聞いているのに。
何の力にもならないじゃないか。
「本人にも使えない力を欲しがってどうするつもりなんだか」
ため息をつく。
今はそれしか出来ない。出来ないからこそ怖いのかもしれない。けど、今はなんだか夢を見ているようで、凄く現実感がなさ過ぎる。その所為で焦る気持ちも、今狙われているという自覚もない。
姫倉家の誰か一人でもこの力の事を、よく知っていてくれるのならば、それなりにヒントやら特質やら性質やら。力のことを知らないからよく細かいことはいえないのだが、知っているのならば教えて欲しい。もし知らないのならば、できればどうやってか調べるなりなんなりしてほしい。
「けど何で俺なの??俺にあるっていう可能性っていうのは100%なの?それどうやってわかったの?それなりに俺ポルターガイスト的なことも身の回りでおきたことは無いし、別に特技っていう特技もないよ?何の自慢もないし。こんな奴の心臓貰ってもマイナスになるだけに感じるんだけど?」
長ったらしくできれば力なんかないって言ってほしくて、求めるように力強く言うものの、じっと見つめるだけで、特にこれと言った反抗も、反応も見せない。表情をあれから変える事もないし、なにかを求めるわけでも訂正するわけでもない。
本当にただジッと見つめて、何かを吐き出させようとしているような瞳で見つめてくる。何も悪さなんてしないような純粋の、透き通った瞳で見つめてくる。
こんなにも純粋な瞳を見たことがなかった。いや純粋なのか透き通っているだけなのか、はっきりと祐司の瞳の中に俺がきちんと住んでいた。
作者の壬哉です
この話は、本当にゆっくり進む予定なので、いろいろと読むのが面倒になってきたりするかもしれませんが。
良ければ最後までお付き合いお願いいたします。