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心臓の逃げ道  作者: 壬哉
12/17

夢と自分

 

 

 

      僕だよ

 

 

         返して

 

 

            僕の力

 

 

                返せ

  

 



 


 真っ暗な世界。

 前は独りだったのに、目の前に俺がいる。

 

「悠汰?」

 

『違うよ?俺だよ』

 

「俺?」

 

『そう。俺。ねぇ、返してよ。どうせ使えないんだったら返してよ』


「ちょっとまてよ」


『なに?まってどうするの?…………わかったよ後もう少しだけだからね?』

 

 

 

 



 




 あれから一週間。

 何もなく普通にご飯などをいただけるようになった。本当のところを聞くと、そこまで手がかからなかったらしく、ご飯は俺が作ることになった。

 暗闇の夢を見た朝、凄くボーっとして何が起きたのか、どんな夢だったのかを考え。それからずっと夢の事ばかり思い出して、グルグルそればかり回っている。

 力を返せといったその自分は、凄く自分のすべてを知っている口ぶりだった。このことを悠汰は知っているのか知って居ないのかは、良くわからないが、何を考えているのかもさっぱりわからなくなってしまったのだ。

 リビングと呼ぶようになったその部屋のソファで、のんびりボーッと何かを見つめていた。

 リビングだからなのか、俺が入るからなのか、皆して椅子に座ったりソファに座ったりと、確実に俺の四方八方に固まっていた。

 後ろを見ても男。前を見ても男。右を見ても。左を見ても。全員男。女ッ気一つ無い建物。

 どこにも出かける様子は無いし、どこかに行こうとも思えなくなってしまった。

 なんだか今の状態だと、別に夢で見た自分に力を上げてもいいような気がしてきてならない。

 

 ふわぁ〜っあぁ〜……


 大きな欠伸をすると、隣にいた勝治が、ゆっくりとこっちを見つめてきて、眠いのか?と一言言ってきた。うんと声に出さずに頷くと、自分の肩を叩いて、寄りかかっていいぞといってくれた。

 こう言うとき普通部屋に戻ろうかなんていうもんじゃないのだろうか。どうしてここで寝させようとするのか。それともただ歩くのも億劫だと思っているのだろうか。

 別にどうでもいいけど。

 首を横に振って、靴を脱ぎ、ソファに足を乗せて小さくなるように体育すわりというのだろうか。膝を立ててその膝を抱え込む。そして、その膝の上に顎を乗せて小さくため息を吐いた。

 今のため息は「暇だな」ではなく「女ッ気無いな」のため息だ。

 むさ苦しい。

 凄くむさ苦しい。

 

 

 

 夜。

 夢を見るのが少し怖かった。なんかいけないものを見てしまいそうで。それと、もう一人の自分を見るのが怖かった。

 口調的には今の俺と同じようなしゃべり方だったから、悠汰では無いような気もしないこともないのだ。確信は無いが、なんとなく悠汰じゃないような気がする。

 

「眠れないのか?」

 

 勝治がソッとカーテンを開けてベッドの空間の中に入ってくる。ソッと前髪をずらしてきて、優しくオデコに手を当ててきた。

 少しひんやりとしていて気持ちがいい。

 

「眠いのに寝れない」

 

 甘えるような口調になってしまっているのにも気付いている。

 平和すぎて逆に怖かったり。


「ホットミルクでもつくろうか?」

 

 その優しさには、首を横に振った。


「いい。けど。手。気持ちいいからそのままにしてて……だめ?」

 

「わかった。ちょっと待ってろ椅子持ってくる」

 

 さすがに立ったままでは辛いのはわかっていた。ゆっくりとカーテンから外に出て、カタッという音を鳴らして椅子を持ってきた。

 ゆっくりとベッドの隣に置くと、珍しく優しげな瞳で微笑んでくれる。そしてさっきやってくれたように手をオデコに乗せてくれた。

 心配してくれたのか、ソッと悠汰も俺の頬を触ってくれた。熱は無いねと軽く笑ってくれたことに、ソッと微笑んで見つめた。

 目線が勝治が居ないほうの方向だったからか、少し不思議そうな瞳で見られたから、勝治の方向を向いてソッと微笑んでみた。

 悠汰はゆっくりと布団に入らないで隣で寝ていた。

 キング並の大きさだからもう一人くらい入りそうだった。

 

『勝治にも入ってもらえば?』


――こらこらそれは……精神的に無理かな。悠汰はいいよ

 

『ばぁか。布団が人の大きさでモッコリしてたらおかしいだろ』


――同感


 そういってやると、ゆっくりと疲れていたのか眠りに入ってしまった悠汰とともに、俺もソッと夢の中に入っていってしまった。














ねぇ


いつになったら返してくれるの??


お願い


一日くらいでいいから

 

お前には力を操る事はできない



――やめて……苦しい……


 首を絞められているかのように、かなり首の辺りに熱を感じる。反射的に息が苦しく、胸や肩が大きく上下に動かしてしまう。

 声は聞こえるのに今どこに自分が居て誰がいるのかわからない。目の前は真っ白にちかく、真っ暗に近かった。


「……き………ゆ………悠樹!!」

 

 勢いよく力強い声に、目が覚めた。目は覚めたけど、まだ少し意識は朦朧もうろうとしていて、まだ首を絞められているように息苦しかった。

 ぼやけて薄く、暗かったが、近くにたくさんの人が居て明るい事はなんとなくわかった。


「ぁっ……はぁっ……ひぁはぁはぁっ…っはぁはぁはぁ……ゆ……うた………悠汰ぁ……」


『悠樹?!どうしたの?!悠樹!!』


「つら……くる……しい……つら……い……助け……て……」


「悠樹!!しっかりするんだ」

 

 力強い勝治の声と、祐司の声。悠汰はなんとも無いらしいが、凄く自分が乗っ取られそうだった。今すぐにでも皆を傷つけてしまいそうで、胸が苦しい。


「みん……な…はぁ……にげって……」

 

 はぁはぁと苦しい胸を握り締め、ゆっくりとそういった。が、皆は逃げるどころか、心配そうな瞳が刺さってきていた。



じゃまだ


どけろ


からだをよこせ


渡すんだ!!


 その声とともに俺の意識は遠退いていった。

 逃げろという言葉とともに。






 


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