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心臓の逃げ道  作者: 壬哉
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プロローグ  始まりのドア

 俺はいつもどおり学校から帰ってきたところだ。

 本当に。何にもない同じ毎日を過ごしてきた。そして、この家にも本当に変わらないまま、じいちゃんになっても結婚せずに、毎日同じような生活しかしてなくて、顔ぶりも全く持って変わらない相手がいると想っていた。

 特に、恋人なんているわけもないと想っていたし、それに、知らない人が居候なんてことは本当に考えたくなかった。

 本当に。

 考えていられなかったし、考えてロクな事にならなかったら本当にいやだ。寧ろ、いやなことになりそうで怖かったからこそ、毎日同じ時間に嫌々起きて、そして、白い白米をゆっくりと噛んで食べて、そして朝風呂入って髪を乾かしながら歯を磨き。そして、間に合わないとか言いながら、のんびり階段を上り、遅刻だーなんて叫びながらも、きちんと鏡の前で制服を正し、アァもう無理だといいながらカバンを持つ。そして、漸く家を出る際にはきちんとパンを銜えて、母さんたちに行ってきます。と告げる。それでもって、学校に着いたら、おはよーなんていいながら、銜えていたパンを食べ終えた瞬間に、担任の先生が来る。

 このいつものペースがあったはずだったのに。それがずれる予感なんて、本当にしなかった。家に帰る時に、カバンを持って、机から離れてきちんと椅子を正して、高校一年生の男子には、滅多にないくらい几帳面で、そんなに悪さを考えることもなく、純粋に宿題を忘れて。それで怒られて廊下を歩き、そしてのんびり靴を履き替えて、友達と帰ることなく、一人で電車に乗るわけもなく。たった一人で朝来た道を戻っていく。

 本当に予感なんてしなかった。

 家について、ドアノブに手を伸ばして、軽く回してはカギが閉まっていた。

 それがいつものやりとりなのに。

 今日に限って、閉まっているはずのカギが、閉まってなく、軽くゆっくりと空いてしまった。

 それにアングリと口を開けてしまった。

 

 ――この家のものが鍵をかけ忘れることなんてないのに……それでもって、あの鍵が閉まっているときの、あのガチャっと、負けた感じのが気に入りだったのに。


 なんてショックを受けていた。

 母さんか父さんのどっちかが、早く仕事から帰ってきたのだろうか。と少し想っても、その場合は、俺の携帯に来るはずなのに、ポケットに入っている携帯を見ても、着信も新着メールも来ちゃ居ない。

 ドアノブを回しただけで、開こうとしない手が止まっていることに気づいても、なんとなくここを開けたくなかった。

 ボロボロになって、グチャグチャになっていて、泥坊の足跡がそこらへんに残っているところなんて、想像したくなかったから。

 なっているのかなって居ないのかわからに状況に陥ってしまっているからこそ、今のこの状況が怖いのに。

 これであけて今よりもびっくりするような状況に陥ってしまったら、俺は一生の終わり。といって良いくらいのショックを受けること間違いなし。

 このとき。一瞬違う思考が頭をよぎった。


 ――あっ。ここ違う人の家だったりするのかな??


 なんだかそう思えてくると、嬉しくなりパァッと顔を明るくする。

 そして握っていたドアノブを外し1・2歩下がって、家を見上げて、誰の家かを当てて見せよという勢いで凝視する。のだが、どこをどう見ても、自宅にしかおもえなかった。

 

 ――いやまてよ?似ている家なだけかもしれない


 だんだんと、そうプラス思考に考えていくと、余計に嬉しくなっていき、門のところまで戻ってネームプレートを見てみる。

 

 『朝倉』

 

 そのミヨジだけは、全く持って変わってくれる予感も無しに。

 右を見ても、いつもの場所。左を見ても、いつもの感覚。どうみても、これが自宅ではない他の人の家とは思えなかった。

 微かに見える、ガラスの向こうの家具だって、どうみても自宅。でしかない。

 それだけは帰られなかったかと、重いため息をついた後、心を決めてもう一度ドアのところまで立ち、ドアを開けようとした時、中のほうから何か楽しげな声が聞こえてきたと思えば、急にドアが開きだした。

 俺から見てこれは引き戸。こっちに向ってくるドアだから、俺が被害を受けるに決まっている。避ける反射神経なんてありゃしない俺に、思いっきりぶつかってきた。その勢いで後ろに座り込んでしまった俺を見下ろすのは…………俺?

 

 ――あー……っと……確かぁ〜ドッペルゲンガー……だかなんだかを見たら自分が死ぬとか……


 顔の血の気はすべて退いた俺を、ニッコリ微笑んでくる俺の顔。そして、そのドアとは逆にあるほうの手が伸びてきて、俺を起こすのか、俺の腕をつかんで思いっきり立ち上がらせた。が、足に力がまともに入って居ない俺は、少しふらふらしてしまっている。

 それに気付いたのか、少し抱えるように俺の腕を目の前にいる俺の横から首に回させ、当の俺の脇下をその目の前にいる俺の腕がとおり、逆の脇下をきちんと掴んで歩かせる。

 

 「悪い。すぐそこにいるなんて想わなかったから迎えに行こうと思って出たっけぶつかっちゃって……ごめんな?」

 

 玄関の靴を脱ぐ場所に座らせながら言い、俺の靴を脱がしていく。それでも今の状況が読み取れて居ない俺は、ボーッと目の前にいる俺を見つめていた。

 どうして俺死んでないのだろうか。

 そして何で俺と全く同じ奴が、目の前で俺の靴を脱がしているのだろうか。

 元々考えるためにある脳ではなく、なにに使うのかわからない用途の俺の脳みそは、疑問ばかりでどうしようもなくなっていた。ここで漸く、俺の脳の用途が見つかった。

 

 疑問を作る場所


 そうだ。

 絶対にそうだ。それしか考えられないからこそ悔しいものもあるくせに、少しホッとするのだ。

 何で目の前に同じ奴がいるのだろう。

 それだけは考えたくないと想っても、それしか考えられない脳なのだから仕方がない。とおもってしまっている。だからこそ、少しホッとしているかもしれない。

 

 「……」

 

 脱がし終わった俺の目の前の男は、その男を見つめている俺に目線を合わせていた。それに気付いていても、話しかけていいのかどうかわからずに、ボーッと見つめていた。

 何か話しかけてくれないと結構困るんだけどなぁ〜。なんて考えているしか、今は何もこの今の思考を出来るだけ考えないでおこうと思うことはできなかった。

 今余計な事を考えると、変なことを口に出してしまう。

 だって。

 俺の中では、ここでいつもどおり鍵をカバンの中から無い!!とか叫びながら取り出して、その鍵穴に取り出した鍵を差込み、そしてその手ごたえを感じながらゆっくりと回してカチャッといわせる。

 ふぅといいながら中に入り、内側から鍵を閉めてそこでカバンを階段の方に投げ捨てて、思いっきり身体を上に伸ばす。

 ため息とともに出た言葉と、足が動くのが同時で、そして今座っている場所に腰掛、ゆっくりと靴を脱いでいく。そして、脱ぐなりすぐそこのリビングに入って、朝と同じパンを銜えながら出てきて投げたカバンを取って階段を上っていく。

 口をもぐもぐ言わせながら明日の準備をして、服を私服に着替えて階段を降りてきて、それでもって適当にテレビをつけてボーッとソファに座って母の帰りを待つ。

 というのが、俺の日常茶飯事な事だったのに。

 

 「……大丈夫なのか?」

 

 漸くあけた目の前にいる俺が、心配そうな瞳で手を出してきて、俺がドアにぶつけた場所に、ソッと手を当てる。

 何が大丈夫なのかは良くわからないが、とりあえず眉間にしわを寄せてみる。 

  

 「ここぶつけただろ?赤くなっちゃってるな」

 

 なんていいながら擦るもんだから、俺はどうすればいいのかわから無いではないか。ここで立ち上がっていつもどおりの対応をして、そして、今目の前にいる俺はいなかった事として、立ち振る舞いをする事だって出来るはず。

 二人居るわけでもないし。

 そうだ。 

 これは死んでしまったはずの俺似のご先祖様なんだ。

 なんて凄く古臭いことを考えているのもなんだか悲しくなってきた。

 しかも、俺に似すぎていて先祖とは程遠く感じもしてくる。

 

 「……あんただれだよ……」


 降参しました。

 なんて言ったって、これ以上考えたって、ドッペルゲンガー以外は思いつかないのだから仕方がない。一応普通の人間かもしれないと思いながらも恐る恐る聞いて見る。

 パチクリと瞬きしたその瞳に、早く答えろという目つきで睨みつけてやる。どんな反応をするのかわからないから、なぜか脱がしてくれた足が軽い事に再び気付き、ゆっくりと退くようにカバンを持って階段の近くまで下がる。

 すると、何が面白かったのか、くすっと急に微笑みだしてきた。逆に俺がパチクリと呆然としてしまうではないか。

 

 「別にとって食べちゃろうなんて思ってないから安心しろよ」

 

 自分も靴を脱ぎ、俺の目の前に立ちはだかって来た。

 ゆっくりと屈んで、しゃがみこんでいる俺に手を伸ばしてきた。

 

 「ほらっ立てよ」

 

 伸ばしてくれた手にゆっくりと触れて、軽く握ると、ギュッと握られ、俺を思いっきり起こす。その力強さに一瞬からだがやられて、ボーっとしてしまう。

 

 「姫倉悠汰ひめくら ゆうた。けど今日からは朝倉悠汰になるけどな」

 

 ニッコリ笑って俺とは少し高い位置でしゃべるその言葉。一応俺ではないということは嬉しかったが。

 

 ――なんで今日から朝倉??ミヨジってそんなに簡単に変えていいもんなのか?


 変えるときと言えば、どっかの誰かとどっかの誰かが再婚して、どちらかのミヨジになることは、なんとなくという薄っぺらな紙で知っているような気もするのだが。けど、俺はきちんと両親がいるし、再婚する必要なんてない。

 なんていったって、そんな一日で急に離婚して急に再婚なんてありえないだろう。いやありえてほしくないと言う俺の意見からそう考えてやる。

 

 「……なんで?」

 

 渋い顔をしてしまっている事は覚悟の上で、ゆっくりと重い頭を傾げて見せた。

 

 「なんでって……ん〜難しい話は後にするよ」

 

 最初は困ったような顔をしているくせに、ニッコリと微笑みなおして、今すぐ聞きたいこと葉を後にするなんて事を言い出した。

 少しむっとしてしまったのを、ゆっくりと直そうとしたが、そう簡単にも表情が変わるわけでもなく、俺はそのまま唇を尖らせるようにしてしまう。

 

 「……知りたいの?」


 「知りたいに決まってんだろ」

 

 今にでも殴りつけるかのような怒鳴り口調で言ってやると、また何か困ったかのような表情で、頭をポリポリ掻き、ゆっくりと俺のカバンを持った。

 

 「ぉっおい!?」

 

 勝手に階段を上がって行ってしまうから、俺はどうすれば良いのかと、少し慌てふためいてしまう。

 

 「立って話すと長いからおいでよ」

 

 ――おいでよって……ここは俺の家だっつぅの!!


 何か主導権を握られている気分でとてもむかつく。しかも、今日から朝倉というところを抜けば、赤の他人だ。

 俺は急いで悠汰と名乗る奴の後ろを歩き、向った先は、どうして知っている俺の部屋だ。

 悠汰はゆっくりと戸をあけて俺を入れてくれる。後ろ手で閉まった音がするなり、俺はゆっくりとベッドに座ってネクタイを外しながら、テーブル越しに悠汰が座る。そいつは私服だから楽な格好をするだけであって、特に何もない。

 ネクタイを取り終え、ワイシャツの一番上のボタンを1・2個外してハァとため息をついて、じっと睨みつけてやった。

 

 「はやくはなしてほしいって?」

 

 ニッコリ笑いながら、テーブルの上に頬杖をつくその勝手さがまたムカツク。

 

 「ある日あるところに、可愛いかわいい激似で見分けのつかない双子がいましたとさ」

 

 一人むかついていると、急に悲しげな顔をして話を進めだした。しかも、何か童話みたいな話し方。


 ――だから俺なしで主導権を握るなバカ!!


 






 

 余りに似すぎて、よく間違えられていて。けれど、そんなにもお互い仲がいいというわけでもなく、タダ一緒にいる相方というだけであって、そう多く話すわけは無いのに、アイコンタクトで通じ合うかのように、あ・うんの呼吸が合っていました。

 が、その間に親戚方が押し寄せてきて、余りに似すぎているとどっちがどっちだかわからなくなるなんて理由だけで、片方の兄の悠汰の方を連れて行ってしまいましたとさ。

 その親戚と朝倉家は、すっごく犬猿の仲で、そんなにも会わないし会おうとも思わなく。逆に会いたくないと朝倉家は思っていました。会ったら会ったで、口げんかばかりを繰り返してしまうほど息が合いませんでした。

 もちろん悠汰を引き取るといってきたときは、朝倉家の両親は必死扱いて拒否りました。そして、似すぎているというところをいい理由にして、悠汰と弟の悠樹ゆうきを一緒にいさせて、そしてそのままその二人を連れて両親は車に乗り込み、逃走しました。

 もちろん逃げ切れないことは覚悟の上でした。

 2人を抱きしめながら、運転していない母親が、ギュウッと抱きしめながらごめんね。ごめんね。と何度も謝ってきました。本当に小さい頃過ぎて、何が起きていて、何で両親がないてしまっているのかわかりませんでしたが、向かう先だけはわかっていました。

 警察です。

 警察に行こうとしていた事だけは、悠汰にはわかっていました。だけど、その前に何台もの車に囲まれてしまい、運が良かったのか悪かったのか、狙っていた方の悠汰を誘拐されてしまいましたとさ。

 もちろんその家の人が『土村家』だということはわかっていましたから、その後でも何度も押し寄せ、返してもらうように争いましたが、結果は全敗。

 そこで、その状況を知った親戚の姫倉家の方々が、手を貸してくれてもちろんその人たちは強く、悠汰奪還を成功しました。

 漸くそこで悠汰ははっきり解りました。

 

 姫倉家は信じて良いのだ


 と。

 悠樹と悠汰を一緒にするわけにはいかないと察した両親がたは、姫倉家に悠汰を預けましたとさ。

 けれど、浅はかだったのはどうして『悠汰』の方を狙ったのかでした。が、最近それがわかり、土村家は悠汰ではなく、必要なのは『悠樹』のほうだとわかりました。

 それで、悠汰の方は安全だと察した姫倉家は、悠汰を朝倉家へ返しましたとさ。

 






 「チャンチャン」

 

 ニッコリ微笑んで悠汰はパンパンと両手を俺の目の前で二回ほど叩いた。

 なんとなく理由はわかったのだが、そんな事がおきていたことなんて、本当に綺麗さっぱり忘れていたというのに、どうしてこいつは覚えているのだろうか。

 ヤッパリ頭の出来が違うのだろうかと悩みながら、俺は少しばかりその状況を思い描くと、少し疑問に思うことがハッと出てきた。

 

 ――なんで悠汰じゃなくて悠樹の俺が必要なんだ?っていうかなんで必要なんだ?

 

 考えれば考えるほど、だんだんと疑問がわいてくる。

 なぜそれで警察に連絡して、警察を利用して取り戻そうとしないのだろうかとか。いろいろと考えた挙句。

 

 わからない


 で済ます。

 

 「……理解できてますか?悠樹」

 

 「簡単に言えば、俺たちは生き別れしてしまった双子ってことか?」

 

 「さすが悠樹。理解早いね」

 

 誉められているんだか貶されているのだか。

 貶されているような予感はしないが、何かバカにされているような気だけはする。

 

 「なんで俺が必要なの?っていうかじゃあ俺が狙われる??」

 

 渋い顔をしながら考え出す。

 だけど、今まで俺が狙われた感じはしない。全くもってない。

 帰ってくるときだって、へんなベンツも見なかったし、多分ストーカーなんてされていないと思うし、何かを飲まされたわけでもない。

 

 「そう。悠樹が狙われるの。そして、必要なのは悠樹の心臓なんだよ」

 

 真剣な瞳で見つめられる俺。



 

 結局俺は……これからどうなってしまうのだろうか。

 

 

 そこが一番聞きたかったりもする。


 

 

 

 

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