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2話

「……なんでそうなるんだよ。今日初めて会って……急に言われたって無理だって。普通そうだろ。ごめん。俺、無理だ。他に好きな子がいるんだ」

「また嘘ついたね。顔がウソっぽい。私に隠し事なんて無理だよ。すぐわかる」

「いや、ウソとかホントとか関係なしに断ってるんだって」

「そういう顧みない判断は良くないと思うよ。自分に正直になってお願い」

「いや、正直に言ってるんだけど……。つか、だったら判断するための時間をくれないかな。いろいろ考えてから決めたいし」

「そんなの答えてから考えればいいよ。愛しあってからでも遅くはないでしょ?」

「いや、ほんとに意味がわかんない。……あ、もしかしてこれ、あれか? 罰ゲームだろ。なんか負けた奴が無理やり告るってやつ。俺、騙されないぞ」

「……ばつゲーム? 告白するゲームなの?」

「いや、告白するゲームとかじゃなくって……まあ、同じか。そうそれだ」

「おもしろそう。今度一緒にやろうよ」

「絶対やらねーよ。つか意味分ってないだろ」

「じゃあ愛し合おう」

「だからなんでそうなるんだよ! 断ってんだろう? むしろ嫌がってるってわかならないかなあ」

「あまのじゃくだなあ。いい加減にしてくれないと困るよ?」

「どっちがだよ!」

 何を言ってもダメだった。いかに断ってみても、インパクトと名乗った少女は納得してくれない。もう無視して帰ろうとも思ったのだが、後々のことを想像すると気が引けてしまった。身の危険にまで及ぶようなことだけは、断じて避けておきたい。

 仕方なく、俺は中途半端なやり取りを演じながら、帰る機会を窺うことにした。

 

 そして窺い過ぎた。……三十分もだ。一向に話の先が見えない会話に、

「マジ今日は勘弁してくれ。帰らせろ。練習してるの知ってんだろ? もう限界なんだって」

「じゃあ帰ろう。〝二人っきり〟でね」

「なに強調してんだよ。一人でに決まってんだろ」

「こんな暗い夜道に女の子一人で帰らせるのはナイと思うよ。最低でも途中まで送るとかする」

「どうしてそこだけ正論いうようになるんだよ。つーか、それ自分で主張するとすげーイライラされるぞ」

 もうどうでもいいや。

 投げやりながらも俺はチャリ置き場に向かい、その後ろをインパクトはすたすた付いてきた。

 後ろをちらっと振り返ると、ニコッと返される。

 これが純粋に付き合っている二人なら絵になるが、ここでは怖いだけだ。

「あのさあ」

「なに? 愛す?」

「ちがうって。……なんで俺なのかって。いつから」

「生まれる前から。正確には、えっと、ちょっと待って、ああごめん、もう忘れちゃった。多分かれこれ一万年ちかく前だと思う」

「……もういいや。それとさ」

「愛す?」

「だからちがうって。お前、どこ住んでんの? 俺、駅の方いくけど?」

「じゃあ私も駅にいく」

「じゃあ、ってなんだよ。ちゃんと帰れよ」

「物事は臨機応変にいかなきゃ損をする」

「損得勘定じゃなくて、帰宅! 帰るんだよ! そーゆーのいらないから正直に言えよ」

「私も電車乗るから大丈夫だよ。ずっと一緒だよ」

 ……イライラする。もはや無視だ。チャリカギを外し、エナメルバックをかごに突っ込む。

 なぜか俺の背後から一向に動こうとしないインパクトの影を、訝しんで顔を向けてみると、

「二人乗りとか緊張するね?」

「はあっ!? お前、チャリないの?」

「うん。ないよ」

 引いた。とことん引いた。ドン引きだ。まさかなにか、乗る気なんじゃないだろうか。あり得ないぞ。練習疲れで足パンパンなんだぞ。

「心の底から嫌がってるかおしてるねー」

 言いつつ、自転車の後方にまたがりだすインパクト。

「……それ汲んでおきながらさ、既に乗ろうとしているのって俺、すげーと思うんだ」

「私、そんなに重くないと思う」

「ああそうですか」

 

 その後、インパクトはきっちり駅まで二人乗りしてきやがった。

 途中、脇腹をくすぐられた時は本気でキレそうになったが、それよりもムカついたのは駅にまで来て「分れるなんて寂しいな」とか言いながら、来た道を引き返し始めた時だ。

 もう、ほんとに悪夢のような体験だった。

 これが最初のインパクト。

 

 

 翌日。

 目覚めのベッドの中で。

 俺はいくらか回復した体力と思考で、今一度昨晩の出来事を思い起していた。

 考えれば考えるほど、あり得ないと思った。

 あんなのは告白じゃない。断られたら普通、潔く諦めるだろ。そりゃあまあ、粘る子だっているだろうけどさ。あれは異常だって。

 最期はもはや交渉になっていた。

 私と付き合ったらもれなくハワイ旅行が付いてくる! とかあり得ないから。

 他にも恥ずかしくて言えないような内容まで軽々提示してきたし。

 しかも、ニケツとかどういうことだ。初めての異性とのニケツはもっと、こう、素晴らしいシチュエーションとかを想像していたのに。告白されたっていうのは悪いことじゃないんだけど、全くロマン気のない雰囲気だった。

 軽い喪失感に見舞われながら、俺は起き上がる。

 

 

「どうだった?」

 朝、学校の教室でクラスメイト兼部員の「佐城(さじょう) (かい)」が俺に訊ねてきた。昨日、下駄箱に入っていた名無しの手紙のこと。知っているのはコイツだけだから、他に表立って騒がれることもない。一応口外しないように頼んではいる。

「いやまじ。インパクトだったし」

 俺は半分冗談のつもりで言ったんだ。昨日の出来事が正当でれっきとしたものだとは思えなかったから。むしろコイツも絡んで俺を騙しているのではなかろうかと、疑ってもいた。

 そもそもインパクトと呼ばれる女がこの学校にいるのかどうかさえわからない。だからカイがその言葉を聞いてなんて反応するのか試してみたかった。そんなちょっとした気持ちだった。

「インパクトって。あのインパクトのことか?」

「あのインパクトって、どのインパクトだよ。俺だって混乱してんだぞ。イカれた女に付きまとわれて、ニケツまで奪われたんだからな」

「まさか。本当なのか。あの『宝座 璃優』が? てか本当に宝座からの手紙だったのか、アレは?」

「知らないって。けど、そんな風な名前を名乗っていたような気はするな。つかなんでお前は知ってんだよ、カイ。……一体どんな奴なんだインパクトって」


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