下男7
ついに活躍します主人公達。
怪我がなさそうなので七を担いでこの場から離れようと達也は動き出す。
正直怪我ひとつないのは奇跡に等しかった。
目線は今しがた出来た穴を見る。
吹き飛ばしたモノはこの事件の犯人なのだろう。
いろいろ考えている間にも復活しそうなので、予定通り七を担ぎマンションを出る。そんなに広くない部屋なので、あと三歩も歩けば壊してしまった玄関につく。
しかし、後ろで何かが動く音が聞こえた。
振り向くと異形が立ち上がり、こちらを見ている。
「あいつの速さなら、僕が玄関を出る前にまっぷたつだな」
自分は平気だがこの人はそうはいかない。
一旦七を降ろし、その前に身構える。
狭い廊下で両者は激突した。
両者の距離は約五、六歩。
異形は走るというより歩く感じでこちらに向かってくるが、速さが尋常ではない。
まるで、スケートをしているように移動する。
爪だらけの右手に握っている鎌を横に構え、そして振り抜く。
達也は後ろに下がって避けたいのだが、七がいるのでそれは適わない。
いくら、不死といっても痛いし怖い。そこは普通の人間と同じだ。
ガクガクする足を無理矢理前に出し、鎌を振り切られる前に腕を止めた。
しかし、
「ぐうぅ!」
異形の腕は爪がぎっしり生えている。
針山のような腕。
そのせいで、受け止めても爪が刺さるのだ。
受け止めた左手から血が流れる。
蹴り飛ばして距離を取ろうと足を上げようとしたが、いつのまにか異形の足に生えている無数の手によって足は掴まれている。
その力も強く、指が足に突き刺さっている。
両者組み付いたまま動かない。
額には汗。手と足からは血が滴って床を汚す。
達也は意を決して足を無視し、異形を持ち上げた。
「うごおぉぉぉぉぉ!」
さながら重量上げのように異形を両手で天井に持ち上げる。
足からはぐちゃっという音と共に、手が離れた。その手には達也の足の肉が掴まれている。
痛みを感じ、涙を流しながら達也は異形を向かいの部屋に投げた。
異形は自分が移動してきたくらいのスピードで飛び、部屋の壁にぶつかった。
轟音と一緒に壁に穴を開け、異形はそのまま五階から落下していった。
「はぁはぁ・・・・いったー」
足を抑えかがみ込む。もうほとんど治っているが、痛かったのは確か。もう傷もない足を抑えながら七の無事を確認する。
まだ気絶しているようだ。傷もない。
守りきったことを確認し、また七を担ぎ外に出る。
外はとても蒸し暑かった。
今まで背筋が凍るような体験をしていたので気付かなかったが、今日はとても暑い。
エレベーターに行こうと歩いていると、下から声が聞こえた。
「ん?」
覗いて見ると季利栖がいた。
季利栖は達也がいるのを確認すると、すぐ近くの非常階段で登ってきた。
到着まで約五秒。スペック高すぎである。
「とても嫌な音が聞こえたから来たのだけれど・・・・誰?それ」
肩に乗っている七を指さす季利栖。
「事件の被害者だよ。今しがた襲われてたのを助けたんだ」
さっき起こったことを話す達也。
正直こんな薄気味悪いところは早く移動したかったが、季利栖が来てくれたことで少し安心し、饒舌になっている。
「にわかには信じられないわね」
腕を組む季利栖。
「なんなら部屋見てこいよ。すごいことになってるぜ」
半分は自分のせいだけどと心の中で思う。
「確かにそれも信じられないけど、あなたが活躍したことが信じられないわ」
そこですか。
「不死身だからね僕は。死にはしない」
少し自慢げに話す達也。
季利栖が達也を七ごと五階から突き落とした。
「!!」
びっくりしている暇もなく、達也は肩に担いだ七を胸に抱くようにしてアスファルトに激突する。
肉がひしゃげる音が聞こえたあと、何も聞こえなくなった。
それどころか目も見えなくなったことから、頭が潰れたと理解した。
季利栖は見た。
今話している達也の後ろにヒトではないものが立っているのを。
それは決して直視してはいけないモノだった。
それは達也が五階から投げ落としたモノと瓜二つ。
達也から話を聞いていた季利栖は、こいつが犯人だと理解した。
動く。
先手必勝と季利栖は相手めがけて走る。
季利栖は誘拐などの犯罪に多くあってきた。
信じたものに裏切られ、助けてもらった人に拉致されかけ。
自分の身は自分で守る。
それが季利栖の結論。
いろんな訓練を行なった。格闘技、軍隊。路地裏でのケンカ。
年頃の娘がただ、強さだけを求めた。
そしてその力を今、遺憾無く発揮する。
異形の懐に入る直前に、相手は鎌を振るう。
それを同じスピードで回転し、鎌を流す。
髪を少しもっていかれた。
鋭い切れ味。
回転の遠心力を利用し、相手のみぞおちに肘を入れる。
人間であればその場で昏倒するほどの一撃。
しかし相手は異形。今までの人間の感触とは程遠く、手応えがない。
直立不動のままの異形は、視界外からの頭突き。
体が伸びたかのように形を変えて、季利栖の頭頂部を狙う。
季利栖は蹴飛ばした反動で離れようとした。
しかし、
達也と同じく足を掴まれている。
体つきは一般の女の子変わらない季利栖は逃げる術がない。
思いっきりもらった。
異形の頭は思ったより固く、またザラザラしていた。
目の前が光ったように季利栖は感じた。
血が滴り落ちてくる。
意識が飛びそうなのを必死で堪える。
一撃で足は震え、息が上がる。
そのスキを見逃さない異形。
右手の鎌でキリスの肩を切りつけた。
「 」
声にならない声を上げ、季利栖の左腕が切り落とされた。
左腕はすぐ足元に転がっている。
その腕は次第に飛散る血によって完全に真っ赤に染まる。
尻餅を着き、左肩を抑えていると左足が飛んだ。
「!!!!!!!!!!!!!!」
息が詰まったように喘いだ。
左足の膝から下が手すりから落ちていった。
来ているワンピースも真っ赤なドレスに染まっている。
まさに地獄にいるよう。
だが、まだ死にたくない。
その思いで髪を縛っていた紐で左肩の止血を行う。
激痛な常にある。
幸か不幸か、そのおかげで気絶はまぬがれている。
左足は右ポケットにあるロープで止血。
しかし、異形は待ってはくれない。
鎌を振り上げ、次の手足を狙っているようだ。
振り抜いてきた瞬間に季利栖は右手だけで移動。
狙っているところを先読み、あえて鎌を持っている方へ動く。
先回りすることでなんとか躱すことができた。
しかし、以前右足は捕まったまま。
先の一撃は右手狙いだったのでなんとか避けることができた。
だが、右足なら逃げ場はない。
すでに、意識は朦朧としており、右手も震えている。
左足の止血もまだ終わっていない。
(もう無理ね)
季利栖は生きることを諦めた。
異形は次は躱されないように右手を抑えている。爪だらけの手は季利栖の腕に突き刺さる。
そして鎌を振り上げる。
(こんな終わり方になるとは思わなかった。今まで頑張って強くなってきたのに。全然役にたたなかった。まだやりたいことや知りたいことがいっぱいあったのに。
・・・・達也君は逃げ切れたかしら。せめて、あの子が逃げ延びてくれないと死に存よね。あ、そういえばあの子、不死身だったわね。
まったく。最後の最後であの子のことを考えるなんて。ほんとに)
「馬鹿みたい」
鎌が降り下ろされる。
季利栖は目を瞑った。もう何も見たくないと。
目の前にいるのは異形のモノ。最後は馬鹿みたいな思い出に浸りながら死にたい。
しかし、一向に降り下ろされる気配がない。
もう死にかけの自分にはそのこともわからなくなってきたのだと考えたが、いくらなんでも何も感じないのはおかしい。
それに、まだ右手の感触は残っている。
開けたくはなかったが恐る恐る目を開けてみると・・・
異形が笑って鎌を季利栖の顔に振り下ろした。
ぐしゃっという音と共に視界が黒く染まった。
さて、どうなることか作者にもわかりません。
暇つぶしに小説などいかがですか?