第9話 姉妹は平等に
シャルの言葉に既視感を覚えた俺だが、落ち着いて話しを聞き出すことにした。
「それで、どんな理由で奴隷商に捕まったんだ?」
「えっとね、えっとね、獣王さまの教育でね」
シャルの話をまとめるとこうだ。
獣王国では、伝統的に子供をスパルタ教育しているらしい。それはもう、想像を絶するくらい厳しく。
ある一定の年齢に達すると、親元から離れ、厳しい修行や旅をさせるらしい。何も与えず身一つで。
しかも、シャルは覚えが悪いと責められ、余計に厳しく突き放されたのだ。
「それで、衰弱して倒れちゃったのか?」
「はいなの。オーガロードと戦って負けちゃったの」
「めちゃくちゃ強いモンスターじゃないか!」
オーガロードとはオーガの中のボスみたいな存在だ。小さな子供が相手できるようなモンスターじゃない。
「よく逃げられたな……」
「オーガロードに一撃入れたら逃げられたの」
「逃げたのは敵の方かよ!」
こんな小さな体のどこに、オーガロードと渡り合う力が?
「それにしても無謀じゃないのか?」
「子供を千尋の谷に突き落とすのが、獣王国の習わしなの」
「過酷すぎる!」
「可哀そうです」
エステルまで同情の眼差しになっている。
それぞれ種族の理由があるのだろうが、小さな子供にさせるのはどうなんだ。
それでなくても、獣人族は奴隷にされる者が多いというのに。
「それで、パパに会うというのは?」
俺は確信に触れた。
「それなの。シャルは剣の才能が無いから返品するって言われたの」
「はあ!? 誰にそんなことを?」
「獣王様になの。獣人は強くないと価値が無いって」
獣王が元凶か!
「シャルが不器用すぎて使えないから、パパに返品して鍛え直してもらってこいって」
「何だそれは」
「やっぱり酷すぎます!」
またエステルが声を上げた。きっと、自分もエルフの里で『無能』と罵られたから、共感する部分があるのだろう。
「それで父親のところに……」
「はいなの。テンテンの種きょーゆー協定なの」
「それ天帝の種共有協定だよ!」
やっぱりそうだったか!
俺もシャルを一目見た時から感じてたんだよ。まるで俺の娘みたいだって。
だから俺は、全財産をはたいでシャルを救ったのかもしれない。
「シャル、落ち着いて聞いてくれ」
「はいなの」
「お前のパパは俺だ」
俺の言葉を聞いたシャルの目が、一瞬で見開き輝きを放った。
「パパぁー! 逢いたかったの」
ペロペロペロペロペロペロ――
「ちょ、顔を舐めるな!」
「パパぁ!」
シャルの愛情表現が凄まじい。俺に飛びつき全力で顔を舐めている。
やっぱりわんこみたいだ。
「むぅ…………」
何故かエステルが俺をジト目で見つめている。
「どうした、エステル?」
「な、何でもありません」
エステルはプイッと横を向く。
何でもない顔じゃないよな。
もしかして嫉妬なのか? シャルに父親を取られちゃった……みたいな?
そうだよな。姉妹は平等に扱わないとだよな。
「エステル、こっちにおいで」
俺はエステルを抱っこした。
「うわぁ、な、何ですか」
「ほら、エルテルも良い子良い子」
「ふぁ♡ お父さぁん」
抱きしめたら機嫌が直ったようだ。やっぱり愛情に飢えていたのか。
エステルも親の愛を知らずに育ったみたいだから、その分俺が愛してやらないと。
しばらく二人を甘やかしてから、やっと本題に入る。
シャルも俺の子供だ。つまり、エステルのように通常とは違うステータスを持っているのかもしれない。
剣が扱えなかったというのも、何らかの理由があるのだろう。
「よし、ステータスオープン」
俺はシャルのステータスを開いた。
娘の特性を活かした子育てをしないと。
――――――――――――――――
シャル Lv75
種族:ハーフ獣人族
職業:戦士
スキル
戦槌の加護
肉体強化
時間加速Ⅰ
超重力打撃
――――――――――――――――
は!? 何だこりゃ!
むちゃくちゃ強そうじゃないか!
見たところ剣のスキルは無いみたいだな。
でも、これなら……。
「シャル、俺がお前を一人前の戦士にしてやる」
「ホント? わーい! パパと一緒に特訓だぁ」
ペロペロペロペロペロペロ――
「うわぁ! だから顔を舐めるな」
「むぅ…………」
またエステルがジト目で俺を見ている。
もしかして、これ毎回なる流れなのか?
まずは腹ごしらえだ。俺は二人の娘を連れて、食堂へ出かけた。
「シャルはたくさん食べないとな。その細い体じゃ戦えないだろ」
適当に注文した料理がテーブルに並んだところで、俺はシャルにフォークを手渡した。
「はいなの! シャル、たくさん食べるの」
そう言ったシャルが料理を口に運ぶのだが――想像していたのとちょっと違った。
「がつがつがつがつがつ……むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ……美味しいの!」
シャルは凄い勢いで料理を平らげていく。フードファイターかな?
「えええ……」
隣で見守るエステルも、シャルの食いっぷりに唖然としている。
あっという間に、テーブルの料理が跡形もなく消えてしまった。
「おかわりなの!」
「お、おう、ゆっくり食べろよ、シャル」
「はいなの!」
それからシャルは何度かおかわりをし、大人五人前以上を平らげてから満足気な顔になった。
「美味しかったの。パパ、ありがとうなの」
「おう、いっぱい食べて偉いな」
そうは言ったものの、最後に残っていた金貨一枚を使ってしまった。明日からどうしよう。
◆ ◇ ◆
翌日、俺たちはクエストの前に武器屋に立ち寄っていた。
シャルの武器を選ぶためだ。
金貨は全て無くなってしまったが、換金していない魔石や素材が残っていたからな。それを金に換えたから、多少は足しになるはずだ。
「シャル、剣を見せてみろ」
「はいなの」
シャルは、腰に下げている短剣を俺に手渡した。
どうやら粗悪な廉価品のようだ。しかも折れていて先端が無い。
「よくこんな剣で戦ってこられたな」
「シャル、不器用だからすぐ剣を壊しちゃうの」
それで廉価品を渡されたのか?
武器屋の店主も、口をあんぐり開けている。
「こりゃもう使いもんにならねえな。安物みたいだから、買い替えた方が良いですぜ」
「そうか、なら新しいのを見繕ってもらおうか」
「これなんかどうです? 子供にも使いやすい長剣ですぜ」
店主が持ってきたのは細身の長剣だ。重量を抑えて振りやすくなっているタイプだろう。
「うーん、シャルは剣じゃなく槌の方が合ってるはずなんだよな」
店の棚に立てかけてある小型の槌鉾を手に取ると、それをシャルに渡した。
「どうだ、シャル?」
シャルは軽くメイスを振ると、パアッと顔を綻ばせた。
「こっちの方が使いやすいの」
「シャルは剣より槌が合ってるぞ」
「わぁい、パパ凄いの!」
やはりそうか。シャルのスキルに剣技はなかった。代わりに『戦槌の加護』というのがあったからな。
きっとシャルは槌系の適正があるんだ。
「店主、このメイスはいくらだ?」
「これは作りも良くてですね。金貨5枚になりますぜ」
「ちょっと高いな。もう少し安く……」
ガチャガチャガチャ!
俺が店主と交渉していると、シャルが何やらデカい物体を運んできた。
「シャル、これが良いの」
「何だそりゃ!」
デカい。馬鹿デカい鉄の塊だ。シャルの身長よりずっと長い金属の柄に、大人の体重より重そうなトゲトゲの鉄球が付いている。
星球式槌鉾と呼ばれる特殊な武器だ。
「お嬢ちゃん、それは大人でも扱えない特注品だよ。子供が振り回せるはずがないって」
店主があきれ顔だ。
だが、俺は何かを予感した。
よく見ていなかったが、確かシャルはあのモーニングスターを持ち上げて棚から出したはずだ。
あの大人でも持ち上げられないような特注品を。
「店主、特注品ってのは、どういう意味だ?」
「へい旦那、あれは特別に注文を受けて制作した、金貨50枚の超大型でしてね。でも重すぎてキャンセルになったんですよ」
だろうな。あんなデカい戦鎚を振り回す男がいたら、それはジャイアントオーガかトロルくらいだろう。
「へへっ、小さなお嬢ちゃんには無理ってもんですな。もし振ることができたのなら、金貨1枚で譲りますぜ」
「本当に金貨1枚なのか」
再度、店主に値段の確認をしてから、俺はシャルの方を向く。
「シャル、振ってみろ」
「はいなの」
シャルは玩具を与えられた子供みたいに笑うと、その巨大な鉄の塊を持ち上げた。
ブンッ! ガシャーン!
「「「あっ……」」」
俺も店主もエステルも、信じられない光景を見てしまい、同じ顔で絶句した。
小さな体のシャルがモーニングスターを振り上げ、そのまま勢いよく振り下ろしたのだ。
その一撃は武器入れの木枠に命中し、あっけなく粉砕してしまった。
「ひいっ、す、すす、すげぇ怪力だ。お、お助け」
店主が腰を抜かした。恐ろしいものを見てしまったという顔で。
「店主、このモーニングスターを買うよ。これは壊した棚代だ」
俺は武器代の金貨1枚の他に、棚代のもう一枚を置いて店を出た。




