第41話 伝えたい
ベッド脇に気配を感じる。
背中側なので姿は見えないが、確かにそこに娘の存在感があるのだ。
声は消え入りそうに小さくたどたどしい。だが、俺の娘だと言う確信があった。
「モグミなのか?」
「は、はい」
彼女は小さな声で答えた。
俺は彼女がモグミだと知っていた。
この部屋には誰も入れるなと、アハツェーンに命じたはずだ。
だが、彼女は部屋に入ってきた。
アハツェーンの命令を上書きできるのは、マスターであるモグミだけだから。
「ご、ごめんなしゃい。私のせいで……お、お父しゃんに迷惑を……」
消え入りそうな声でモグミは話す。その声のトーンだけで、本当に彼女が申し訳ないと思っている気持ちが伝わってくる。
「謝ることは何もないぞ。モグミは何も悪くない」
「で、でも……私のせいでエルフ族に目を付けられたり、王国に立ち退きを迫られたり……」
モグミは、ここに街を造ったのを謝っているのだろうか。
確かに役人からは立ち退きを迫られている。しかし、それはモグミには関係が無い話だ。
エルフ族がエステルを連れ戻しに来たのはもっと関係ない。
どこかで俺たちが活躍している噂を聞いたのだろうが、それはここに街があろうが無かろうが、いずれ噂は耳に入っていたはずだ。
「何も問題ないぞ。モグミは俺たちの役に立とうとしてくれたんだよな。その気持ちだけで嬉しいよ」
「お父しゃん……」
そう言ってモグミは俺の背に手を置いた。
背中にモグミの体温が伝わってくる。
「モグミ、そっちを向いても良いか?」
俺は娘の姿を一目見たくなった。
何故モグミが隠れて生活しているのか分からないけど、どうしても直接顔を合わせて『俺の娘』だと伝えたい。
しかしモグミは躊躇いがちに手を離した。
「そ、それは……わ、わた、私は醜いでしゅので……」
「モグミ?」
「こ、こんな醜い私を見たら、お父しゃんはガッカリしちゃいます」
「そんなことはないぞ」
俺の中に熱いものが込み上げてくる。
「自分の娘を醜いなんて思う親なんかいないぞ。たとえどんな子でも、自分の子は可愛いものなんだ」
それは偽善だと言う者もいるだろう。
世の中には、自分の子を虐待する毒親も多いのだと。
子供を愛さない親もいるのだと。
でも俺は伝えたい。
娘を愛しているのだと。
俺だけは伝えたいんだ。
前世で誰にも愛されなかった俺だから、伝えたいんだ。
お前は愛されていると。たとえ世界にたった一人だとしても、愛している人がいるのだと。
「お、お父しゃん…………」
「そっちを向いても良いか?」
「は、はい」
モグミの返事をもらい、俺はゆっくりと振り向いた。
「モグミ」
そこには、窓から差し込む月明かりに照らされた、小さな少女が佇んでいた。
ボサボサの青い髪をして、目が隠れている。体は華奢で繊細な雰囲気。髪の間から少しだけ覗いた表情は、優し気な印象だ。
「モグミは醜くなんかない。可愛い俺の娘だ」
「お、お父しゃん」
縋り付いてきたモグミを、俺はそっと抱きしめた。
「モグミ」
「お父しゃん、お父しゃん」
「モグミは可愛いよ。どこもおかしくなんかない」
俺の言葉に、モグミは顔を上げ見つめてきた。
髪の間から見える黄色の瞳は、つぶらで真っ直ぐで可愛らしい。
「で、でも……私は他のドワーフみたいに頑強な体じゃないですし……。顔も小さく細くて……」
ん? ドワーフの美人の定義は人族と違っているのだろうか?
確かにドワーフ族は、ずんぐりした体に頑強な筋肉が付いている。モグミは細く華奢で正反対だ。
「モグミ、他の人と違ってるとか気にしなくてもいいんだぞ。ドワーフだって人族だって、人それぞれ個性があるんだ。モグミは世界に一人だけの特別な存在なんだ」
「はい……はい……」
俺に抱きついているモグミの目に、一筋の涙が流れた。
モグミは、今までどんな人生を歩んできたのだろうか。
「その、何でモグミは一人で人族の街に?」
「は、はい、わ、私は、ドワーフ族の技術を全て学び終えてしまい……」
「ん?」
「ドワーフ王にも、『もう何も教えることが無い』と言われて……」
「えっ?」
「真理の探究をするために、一人で旅に出ました」
想像していたのと違った。
優秀すぎて国を出たのか。
迫害されたんじゃなくて安心した。
「お父しゃんが、イザリル王国の首都に住んでいると聞きました。で、でも、王都イストファンに着いたら、お父しゃんたちは追放されているところで……」
ああ、街から出るところを見られていたのか。
「急いで湖畔に高機能起動型移動要塞フェストゥンクを展開して、お父しゃんたちに住んでもらおうと……」
んん? 移動要塞? 家じゃなかったのか?
そういえば、家のパスワードを解除した時に、『自動迎撃システムを解除しました』とか音声が流れたような?
あれ、本当に迎撃システムだったのか……。
「でも、立ち退かないといけないのでしたら、丸ごと街を収納し、高機能起動型飛行戦艦ブルクグラーフレインで移動しましゅ」
んんん? 飛行戦艦? ブルクグラーフレイン? 何で俺の名前?
何かカッコイイ!
ただ、街を丸ごと収納できるのだろうか?
だって金貨を収納する魔法アイテムは高価だから。
俺はゲームのアイテムボックスを最初から装備しているけど、それでも収納できるのは金貨とアイテムだけだ。
こんな大規模な建造物を収納できるのかとか、色々と疑問が残るがスルーしておこう。
◆ ◇ ◆
翌日、俺はモグミを皆に紹介した。
「というわけで、俺の娘のモグミだ」
「よ、よよ、よろしくお願いしましゅ」
俺の体に縋りながら、モグミは緊張気味に挨拶をした。
他の娘たちも興味津々といった感じに身を乗り出す。
「この子がオートマタを作った妹ですのね!」
「ふむ、妹が多いのは良きことじゃ!」
ササッ!
リゼットとメテオラに迫られ、モグミは俺の後ろに隠れてしまった。
「ええっ、何でですの!」
「これ、わらわは何もしておらぬぞ!」
「お前らは圧が強いんだよ。モグミは人見知りなんだ」
俺の言葉に、リゼットは頬を膨らませ、メテオラは拗ねた顔をする。
そんな中でも、エステルは遠慮がちに声をかける。
「よろしくモグミちゃん。エステルです」
「よ、よろしくでしゅ」
「わふっ! シャルなの!」
「よ、よろしくでしゅ」
人懐っこいシャルも近寄り、何とか打ち解けそうだ。
良かった良かった。
よし、モグミもパーティーに入れておこう。
俺はモグミのステータスをオープンした。
――――――――――――――――
モグミ Lv77
種族:ハーフドワーフ
職業:錬金術師
スキル
創造主の右手
混沌主の左手
物質解析
物質分解
物質錬成
ゴーレム錬成
――――――――――――――――
うん、我が娘ながら凄い。
何かもうスキルがとんでもないことになってるような?
モグミをパーティーに編成してから、俺は彼女の肩に手を置いた。
「モグミは凄いな。まだ幼いのに、錬金術師として凄い活躍じゃないか」
「お、お父しゃん♡ そ、それほどでもないでしゅ。にしし」
モグミは、くすぐったそうな顔で笑う。
やはり子供は笑っているのが一番だな。
ぷくぅ!
「わたくしも地母神リーファ様の力を使えますのよ!」
モグミを褒めていたら、リゼットが張り合ってきた。
ちょっと微笑ましい。
「わらわも魔王の力が覚醒したのじゃ!」
「シャルもシャルも!」
「あ、あの……私も……」
結局全員張り合いを始めた。俺の脚や腕にしがみ付き、一斉に構ってアピールだ。
「わ、分かったから。皆も凄いぞ」
俺は娘たちの頭を順に撫でていく。子供が増えると大変だ。
「それより立ち退きだよ。何処か移動する場所を考えないと」
「そ、それならイザリル王国の支配権が及ばない南の海の辺りはどうでしゅか?」
モグミの言うとおり南方なら王国の手も届かないだろう。
「「「南の海!?」」」
南の海と聞いた大人の女性陣が、わらわらと集まってきた。
「旦那様ぁ♡ プロポーションには自信あるのよ♡ 期待しててね♡」
「レインさん、私、脱いだらけっこう凄いんですよ♡」
「レイン様、わ、私もご一緒しても? レイン様がお望みなら、恥ずかしい露出度高めの水着でも……」
ヴィクトリアとサーシャさんが浮かれるのは分かるけど、リズさんまで変なことを言い始めたぞ。
唐突な水着回に、俺の期待と不安が急上昇だ。




