第36話 もう一人いる
怪しい家。高性能なゴーレム。消えた料理。謎だらけだ。
「お父様、これは事件ですわよ!」
リゼットが名探偵みたいなポーズをしている。それやりたいだけだろ。
「ふむ、事件といったら温泉じゃな」
腕を組んだメテオラが、一人で頷いている。サスペンスドラマでも観たように。『混浴露天風呂殺人事件、若女将は見た』みたいな感じだ。
「お腹空いたの。いただきまーす」
シャルは気にしていない。というか、もう食べている。
「お父さん、この家にもう一人いますよ」
青い顔をしたエステルがつぶやいた。こちらはホラー映画を観たようなリアクションだ。
「うーん、やっぱりエステルが言ったように、もう一人いる可能性があるな」
俺はアハツェーンに視線を送る。
「アハツェーン、この家には他に誰か住んでるのか?」
「禁則事項です」
マスターにとって都合の悪いことは答えないらしい。
ざっと家を確認したが、間取りは8LDKといったところだ。このリビングとダイニング・キッチンに、俺の部屋、子供部屋が五つ、客間が一つ、使用人室が一つ、風呂とトイレが一つずつ。
その内、子供部屋の一つが鍵がかかり使用不可となっていた。
「怪しい。開かずの部屋が怪しい」
「禁則事項です」
相変わらずアハツェーンは表情が読めない。
だが、王都を追放された俺たちに家を用意してくれたり、護衛用ゴーレムを貸し与えてくれているのだ。味方には違いないだろう。
俺は、何となく心当たりのある件を聞いてみることにした。
「アハツェーン、そのマスターは俺たちの味方なんだな」
「はい、レイン様の味方であり、その関係者に敵対することはございません」
「マスターはドワーフなのか?」
「はい、偉大なるマスターモグミ様は、ドワーフでもあり人族の血もひいております」
「もしかして、そのモグミは天帝の種共有協定で生まれた子なのか?」
「禁則事項です」
やはりそうか。マスターについては話すのに、生まれや所在は答えない。
天帝の種共有協定は五種族によって取り決められた。人族、エルフ族、獣人族、魔族、そしてドワーフ族。もし、俺の種によって五種族の子供が生まれたのなら、ドワーフ族にも子供がいるはずだ。
これは俺の子と見てもよいだろう。
ただ、訳があって俺の前には出られないということか。
その子が俺たちに味方するのなら、放っておいても構わないはずだ。
「よし、この件は一旦終了だ。食事にしよう」
「お父様、名探偵の推理はよろしいのですか?」
「温泉じゃぞ」
「名探偵ごっこは今度にしよう」
リゼットとメテオラは大人っぽく見えるのに、意外と子供っぽくて可愛いところがあるな。こういうところは年相応というべきか。
「ただいまー! レイン、魔石を換金してきたわよ!」
ちょうどヴィクトリアが戻ってきた。その手には、大量の金貨を抱えている。
「凄い量だな」
「一回のクエストでこんなに稼げるなんて凄いわ。さすが旦那様ね♡」
科を作りながらウインクをするヴィクトリア。それ、何のアピールだよ。
そもそも俺は何もしていないのだが。これはヴィクトリアの幸運スキルと、娘たちのモンスター大量討伐の成果だ。
ヴィクトリアに分け前を渡し、残りをアイテムボックスに収納した。この分だと大富豪も夢じゃない。
「うふふ♡ 今日の夕食も美味しそうね♡ あら、私のは?」
ヴィクトリアがダイニングテーブルを眺めながらウロウロしている。
「すまん、ヴィクトリア。お前の夕食が無い」
「そんなぁああ! 私、頑張ったのにぃ! ご褒美が食事抜きだなんてあんまりよぉおお!」
ヴィクトリアは綺麗な銀髪を振り乱す。
わざとじゃないんだ。一人分消えてしまったから。
「えぐっ、えぐっ……レインのバカ、私を追い出そうとしているのね」
「そんな酷いことはしねえって」
「はっ、もしかして、調教? きっとこうね、『お前の夕食は残飯で十分だ』とか『お前のエサはこれだ』とか言って、床にゴミをぶちまけて」
「だからそんな酷いことはしねえって」
何だよそのドM仕草は。
「ヴィクトリア様、今ご用意しますから」
慌ててリズさんが食器を運んできて事なきを得た。
これ以上娘の前で変態プレイを見せられると教育に悪いからな。
◆ ◇ ◆
食事を終えると、シャルがモーニングスターを見せにやって来た。
「パパ、これ曲がっちゃったの」
シャルのモーニングスターは、柄の部分が曲がっていた。頑丈な作りのはずだが、シャルのパワーに耐えられなかったのだろうか。
「どれどれ、って重っ!」
シャルから受け取ったものの、あまりの重さで落としそうになった。
この特注性モーニングスターは、大人の体重より重い代物だったな。レベルが上がった俺でも持て余しそうな代物だ。
「うーん、付け根が曲がってるな。金属疲労だろうか? このままだと破断しそうだぞ」
シャルの超重力打撃に耐えられる武器となると、通常の物では無理だろうな。特別な素材で鍛えたレア装備でないと。
「ん? レア装備……」
俺は、あることを思い出しアハツェーンを見つめる。
「何でございましょう、レイン様」
「アハツェーン、モグミは錬金術師だよな?」
「はい、偉大なるマスターは天才錬金術師でございます」
「なら、この武器を鍛え直すのは可能か?」
俺がモーニングスターを指差すと、アハツェーンは『待ってました』といった感じの顔をした。無表情なので気がしただけだが。
「お任せください。マスターモグミ様にかかれば、通常装備をレジェンド装備にすることも可能でございます」
「それは有難い」
ドサドサドサ!
俺はアイテムボックスからドラゴンの鱗と、先日ゲットしたサラマンダーのツノを取り出した。
「このレア素材も使えたら使ってくれ」
「はい、承知いたしました。でしたら、皆様の武器も強化いたしましょうか?」
アハツェーンの言葉で思い出した。そろそろ装備を買い替えようと思っていたことに。
エステルの杖も、最初に持っていた簡単な物だし、俺の剣も市販品だ。
「そうだな、全員分鍛えてもらえるか?」
「承知いたしました」
こうして、俺たちは武器をリビングに置き、床に就くことになった。
◆ ◇ ◆
翌朝、目を覚ました俺がリビングに入ると、ピカピカに輝くレジェンダリー武器が並んでいた。
「なっ! なんだこりゃああ!」
驚く俺に、リビングに控えていたアハツェーンが、無表情のまま平然と答える。
「レイン様、武器の錬金が完了いたしました。ご覧ください」
そのままアハツェーンが説明に入る。
【レイン専用武器・天啓の剣】
【エステル専用武器・天地を統べる者
【シャル専用武器・流星式超硬竜槌鉾】
【リゼット専用武器・地母神の創生杖】
【メテオラ専用武器・致死浸食剣】
【ヴィクトリア専用武器・新妻の剣】
「以上になります」
「待て待て待て待て! 以上じゃねーよ! 大事件だよ!」
一夜にして武器が伝説級になってしまった。
あと、何だよ新妻の剣って! 稲妻の剣の間違いじゃないのか!?
「こんなレジェンダリー装備、ダンジョン最下層の宝箱からしかゲットできないレベルだろ。いや、それ以上か」
もし購入するとしたら、一つで金貨10万枚はするはずだ。
「あっ、私の剣も強化してくれたのね♡ ありがとう旦那様ぁ♡」
さっそくヴィクトリアが剣を眺めている。
強化したのは俺じゃないけどな。
俺はさり気なくステータスオープンしてみた。
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ヴィクトリア Lv54
種族:人族
職業:レインの愛人
スキル
剣の加護
腕力強化
剣筋加速
幸運Ⅰ
ドMプレイ
新妻プレイ
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どこからツッコんでいいのやら。何で職業が俺の愛人だよ! 新妻プレイとかいう変なスキルも増えてるし!
実はヴィクトリアって、とんでもないヒロインなのでは?
その流れで視線を娘たちに移し、同じくステータスオープンした。
そして俺は驚愕の事実を知ることになる。
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