第21話 妻になります
優勝した俺に、賞金とトロフィーが授与された。国王お墨付きのやつだ。
これがあれば、仕官や騎士への道も開けるらしい。
まあ、俺は面倒くさいから仕官しないけどな。
「「「うおぉおおおおおおおおおおお!」」」
再び会場が沸く。
「リゼット様ぁああああ!」
「可愛いぃいいっ!」
「みんなのアイドル、リゼット様ぁ!」
聖女見習いのリゼットが登壇したからだ。俺は未来の聖女様から祝福を受けるらしい。
緊張した面持ちのリゼットは、レッドカーペットの上を歩き、俺の前で立ち止まった。
しかしリゼットって、こんなに人気だったのか。大聖堂の美少女って噂は聞いてたけどよ。
俺にとっては、たまに会いに来て『ざーこざーこ』罵倒する、当たりがキツい娘ってイメージだけど。
「レイン・スタッドよ、優勝おめでとうございます。素晴らしい腕前ですわ。この聖女見習いリゼットが祝福いたします」
リゼットから勝利の祝福を受けた。
自分の娘に祝ってもらうとか、ちょっと気恥ずかしい。
続けてリゼットは、何故か俺の隣に立つ。
「ん?」
何でそこに来るんだ?
「ここで会場の皆様に宣言いたしますわ!」
唐突に、リゼットが宣言を始めた。
「このわたくし、聖女見習いのリゼットは、王覧試合優勝者レイン・スタッドの妻になることを誓いますわ!」
「んんぅ?」
突拍子もない告白に、観客は静まり返る。やがてそれはブーイングの嵐となった。
「おいこらぁ! 俺たちのアイドルであるリゼット様を寝取るとかどういうことだ!」
「ロリコンレインめ!」
「おい待て! 確かリゼット様って、天帝の種で生まれて……」
「近親婚じゃねえか! ゴラァアアァ!」
会場は阿鼻叫喚の地獄と化した。
どうやら俺が、ロリ婚すると誤解されているらしい。しかも親子で近親婚だと。ダブルで禁忌だ。
「待て待て待て待てぇええええぃ! リゼット、何で俺とお前が結婚するんだ!?」
俺がツッコミを入れると、リゼットはきょとんとした顔をする。
「お父様、お忘れですか? この大会の優勝者が、わたくしと婚約する権利があると言いましたわ」
そうリゼットは言って胸を張る。
「それはあのクソ男のジャスティンが勝手に言ってただけだろ?」
「教会はそのつもりのようですわ」
「教会だと!?」
地母神リーファ……じゃなく、至高神アモリスを信奉するアモリス聖教会か。何で教会が出てくるんだ?
「待たぬかぁああああ!」
言ってる傍から、教会のお偉いさんみたいなのが飛んできやがった。司教かな?
「ぜいぜいぜい……」
「あら、大司教ギムネム様ではありませんか?」
暑苦しく息を切らせたオッサンに、リゼットはすっとぼけた顔で話しかけた。
大司教って、アモリス聖教会の実質トップみたいな存在だろ。
「リゼット様、貴女は聖女となられるお方ですぞ! そのような、はしたない行いは謹んでもらわねば!」
「あら? お言葉ですが大司教様、結婚のお話は貴方が言い始めたことですのよ」
こいつが元凶かよ!
そのギムネムとかいうオッサンは、ぬけぬけと暴論を話し始める。
「あれはですね。初期能力の高いリゼット様が、強き聖騎士と交わり、より力の強い聖女を産むためのですね!」
「でしたら、その強き騎士とやらは、呆気なく無様に負けましたわよ」
これには大司教ギムネムは何も言い返せない。しかめっ面で歯ぎしりするばかりだ。
「グギギギッ!」
「わたくしの言った通りですわね」
「き、詭弁ですな。そのような我儘が通るとお考えですかな」
「通る通らないなど関係ありませんわ。聖騎士様が負けたのですから、もうわたくしの自由にさせてもらいます」
「そんなことは許されませんぞ! 貴女は国家のため、その身を犠牲にして聖女を産むべきなのだ!」
「嫌ですわ」
「聖女なら聖女らしく、その身も純潔も教会に捧げぬかぁああ!」
ブチッ!
許されねえだと!?
許さねえのは俺の方だぞ!
俺は、さっきから地雷を踏みまくっているギムネムの前まで歩を進めた。
「おい、そこのブタ野郎!」
「誰がブタ野郎だと! こ、こここ、この野蛮な種馬男めぇええ!」
つい俺の口が滑り、ギムネムの顔が憤怒の表情になった。
そんなの知ったことか!
「おい、大司教だか何だか知らねえが、俺の娘を何だと思ってやがる!」
「き、きき、貴様は何を言っておるのだ!?」
「強い聖騎士と交わり、より強い子を産ませるだぁ? 俺の娘は聖女を作る機械じゃねえんだよ!」
俺の体の中で、血が煮え滾りそうだ!
そもそも俺は『天帝の種共有協定』にもムカついてるんだ! 子供を種族の道具や兵器のように扱いやがって!
それだけでも許せねえのに、今度は俺のリゼットを、より優秀な聖女を作るための道具にするだと!
そんなの許せるはずがねえだろ!
「もうお前ら教会には娘を預けられねえ! リゼットは返してもらうぜ!」
「な、なな、何を言っておるのだ、この男は! 不敬であるぞ!」
「不敬だか不貞だか知らねえが、最後は暴力で解決してやるぜ!」
「お父様! おやめくださいまし!」
渾身の拳をぶち込もうとした腕を、リゼットが必死に縋りついて止めた。
「もう、前も言いましたわよね! むやみに偉い方を殴ったら牢屋行きですって!」
「そ、そういえば」
「大司教様に怪我をさせたら、良くて牢屋、悪ければ処刑ですわよ!」
確かに!
でも待てよ? 怪我をさせなきゃ殴っても良いんだよな?
「よし、リゼット。俺が素早く殴るから、リゼットは瞬時にヒールをしてくれ」
「はあ?」
「名付けて、『瞬間ぶん殴ってもバレなきゃ悪くないよね作戦』だ」
「お、お父様……」
リゼットが若干引いている気もするが、それはそれこれこれはこれだ。
「どりゃあぁああああああぁ!」
「ああぁ、もうっ! 神の代行者たるリゼットが命じますわ! 生命力回復!」
ドゴッ!
ララァアアアアァ!
「ぐああああぁ! な、何をするのだ、この無礼者がぁ……あれっ? 痛くない」
一発だけギムネムの顔面にパンチを叩き込んだが、瞬時にリゼットがヒールで回復させた。
ノーモーションパンチだから、周囲にバレてないはずだ。たぶん。
「よし、帰ろう。リゼット」
「はいですわ」
俺とリゼットは駆け出した。まるで愛の逃避行のように。
背後からは、ギムネムの怒りに満ちた声が響く。
「き、き、貴様ぁ! 教会を敵に回してタダで済むと思うなよ!
そんな反社みたいなセリフを言われてもな。大丈夫なのかよ、この国の教会は。
「クソッ! 計画が台無しではないか! 完璧な聖女を創造し、より教会の権力を強固にするためのな! あのジャスティンの役立たずがぁああ!」
そのギムネムの叫びは、阿鼻叫喚と化した客席からの罵詈雑言でかき消された。
何か酷いことを言ってる気がするけど。
「作戦は第二段階に移行せよ! 新たな種を摂取し、奴を始末するのだ! レイン・スタッド! 貴様に安住の地など無いと知れ!」
まだ何か言ってやがる。もう国や種族間のいざこざとかうんざりだぜ。
その日、俺とリゼットは公衆の面前で結婚宣言をし、愛の逃避行をしたのだった。
何かとんでもない事態を引き起こした気がするが、深く考えてもしょうがない。早く帰って夕食にしよう。
俺は、色々と問題山積なのを忘れて、笑顔のリゼットの手を引き走り続けるのだった。




