第20話 断罪の拳
遂に決勝戦となった。
場内アナウンスも白熱し、俺とジャスティンの名を読み上げる。会場の熱気もヒートアップだ。
「それでは試合開始!」
ゴォオオオオォーン!
試合開始と同時に、ジャスティンは観客に向けて叫び始めた。
「はーっはっはっは! 俺は聖騎士団長ジャスティン、今からこの悪役貴族崩れレインを成敗する!」
何が成敗だ。白々しい。
「皆、聞いてくれ! このレインという男は、俺に勝つために食事に毒を盛ったんだ!」
「は?」
毒を盛ったのはジャスティンだろ! コイツは何を言ってるんだ!?
ジャスティンのデマで、会場がざわつき始めた。
「おい、毒ってどういうことだ?」
「レインが対戦相手に毒を盛ったのか?」
「卑怯なことをしやがる!」
「おい、どういうことだ! 答えろ、レイン!」
観客は、俺を疑い罵声を浴びせ始めた。
いい気になったジャスティンは、口の滑りも軽快になる。
「これには証拠もあるんだ! 俺の対戦相手であったガオウ選手も、毒で本来の実力を発揮できなかった! 俺はひと口食べて毒に気づいたから無事だったけどね!」
「いい加減にしろ、ジャスティン!」
「おっと、往生際が悪いぞ、レイン! 証拠は有るんだ!」
証拠だと? どういうことだ?
「会場スタッフの一人が白状したのだ! レインに頼まれて毒を盛ったってね! そのスタッフが斬りかかってきたから、俺が返り討ちにしてやったけどな!」
ジャスティンの口から、とんでもない話が飛び出した。
まさか、ジャスティンは、共犯者の口を自ら封じたのか?
俺に罪を擦り付けるために、仲間まで斬り殺すだと!? とんでもないクズじゃねえか!
俺の娘を害しようとして、更にその罪まで俺に擦り付けるのか!? 反吐が出そうなゴミクズだ! 本人は正義のつもりらしいがよ!
この異常事態に、場内は罵詈雑言が飛び交う事態に。
主に俺への誹謗中傷だが。
「おい、レイン! 見損なったぞ!」
「そんな卑怯なまねして勝ちたいのか!」
「卑怯者は出て行け!」
「そうだ、帰れ!」
「「「帰れ! 帰れ! 帰れ! 帰れ!」」」
会場は大ブーイングだ。
クソッ! 何でこうなるんだ! 俺は悪役貴族として断罪されないよう、真面目に生きてきたじゃないか!
それなのに、どうしても俺を断罪ルートに入れようとするのか。
ちくしょう!
何か、何かないのか! この状況を覆せる一手が!?
「お待ちください!」
その時、美しく清廉な声が会場に響いた。
「リゼット…………」
その声の主はリゼットだった。
選手入場口から闘技場に現れ、会場へと声を発したのだ。
「レイン・スタッドは犯人ではありませんわ!」
この発言に、会場はどよめいた。
「でも……犯人はレインしか……」
「他に誰がいるっていうんだ?」
「でも、聖女見習いのリゼット様が仰っているけど」
「リゼット様は神にお仕えする身。嘘はつかないよな?」
観客を静めるジェスチャーをしたリゼットは、話を続ける。
「犯人がレインだという証拠はありません。仮にその共犯者という男が実行犯だとしたとしても、討ち取ってしまったのなら証言も得られませんわ!」
これには会場の空気も変わり始める。
「確かに、実行犯がこの世に居ねえんじゃな」
「伝聞だけじゃ分からねえぞ」
「だよな」
続けてリゼットは言い放つ。
「それに毒は対戦相手だけではありません。レインの控室に届けられた飲食物にも混入しておりましたわ! 私は直に見ましたのよ!」
これで会場の空気が一気に変わった。
「どういうことだよ!?」
「おかしくないか?」
「自分の料理にまで毒は入れねえよな」
リゼットは一気に畳みかける。
「レインの娘がその料理を食べ、毒で倒れてしまいましたのよ! それをわたくしが、神聖魔法で治療しましたの! よって、レインも被害者ですわ!」
リゼットの勢いが止まらない。
「聖騎士ジャスティン様、先ほど貴方は『ひと口食べて毒に気づいた』と仰いましたわよね? どうやって気づいたのですか?」
「そ、それは……」
ジャスティンの表情が歪んだ。
「わたくしが料理を調べたところ、毒は無味無臭でしたわ! ひと口食べて気づくとは、何かの魔法でしょうか? 剣士系のジャスティン様に、そのようなスキルが使えるのですか?」
その話で立場が逆転した。
観客の視線は、ジャスティンへと注がれる。
「おい、ジャスティン! どういうことだ!」
「聖騎士様は毒を見分けられるのかぁ?」
「小さな子供まで犠牲にするとか、許されねえぞ!」
この状況に、ジャスティンは気色ばむ。観客席を睨みつけた。
「うるさい! うるさぁーい! 戦士の勘で毒を見分けただけだ! 俺くらいの強さになると、舌で殺気を感じるんだ!」
「ではジャスティン様、レインの対戦相手であるヴィクトリア選手には毒が盛られておらず、ジャスティン様の対戦相手のガオウ選手に盛られていたのは、どう釈明なさるのかしら?」
「なっ! そ、それは……」
リゼットの追及に、ジャスティンは言葉に詰まった。
よく考えればおかしいと気づくだろう。
もし俺が犯人だったとしたら、対戦相手でもあり優勝候補のヴィクトリアに毒を盛らず、ジャスティンの対戦相手に毒を盛るのは筋が通らない。
「ぐぬぅううっ! 俺は正義の使者なんだ! 正義なら何をしても許されるはずだ! 悪のレインを倒すのに、毒を盛って何が悪いんだ! 悪のレインに正義の裁きをぉおお!」
遂にジャスティンが開き直った。
彼の恐ろしいところは、自分が悪いと思っていないところなのだろう。この期に及んで、まだ自分は正義だと信じて疑わないところだ。
「レイン・スタッド! 娘に助けてもらうとは、男の風上にも置けん奴め! 俺様が成敗してやる!」
「やれやれだな。お前の腐った性根は、大人になっても変らなかったか」
俺は肩をすくめた。このバカは、自分が自滅したのも気づいていないようだ。
「死ねや、レイン・スタッドぉおお!」
剣を抜いて斬りかかってきたジャスティンに、俺は軽くステップを踏みながら拳を叩き込む。
ズドンッ!
「ぐはぁああぁ!」
「おっと、場外にはさせねえよ」
俺はとっさに奴の左腕を掴んで引き戻す。
簡単に場外に落ちたら、俺の気が収まらねえ。
「ジャスティン、お前には聞きたいことが多いんだ。喋ってもらうぞ」
「けっ、誰が貴様なんかに」
「そうか、残念だよ」
俺は拳を強く握ると、ジャスティンに向けぶちかます。
ズドンッ! ズドッ! ズドドドドドドドドドドドドドドド!
「グバァ! ボゲェエエエエッ! アババババ!」
胸に、腹に、腕に、顔面に。俺の拳は、容赦なく叩き込まれる。肉を立ち骨を砕くように。
「これはエステルの痛みの分だ!」
ドガンッ!
「これはシャルの痛みの分!」
ズガンッ!
「これはリゼットの心を傷つけた分!」
ドゴッ!
「これはサンドイッチの分!」
ズバッ!
「これはついでに巻き添えになったガオウの分!」
バキッ!
「そしてこれは、俺の! 俺の積年の恨みだぁああ! 暴力は全てを解決するんだ、こんちくしょぉおおおお!」
ズドォオオオオーン!
豪快に吹っ飛んだジャスティンは、ボロ雑巾のように空中を舞いグチャっと墜落した。
顔がパンパンに腫れ、別人のようになっている。イケメンが台無しだな。まあ、いけ好かねえ嫌味顔だけどよ。
「ちょっとやり過ぎたか? ボコボコじゃねえか。まあ、ジャスティンが弱すぎるんだけどよ」
結局のところ、やっぱり奴はザコだった。学生の頃から何も進歩していない。いや、俺のレベルが上がったからか。
あえて言わせてもらおう。クズは何歳になってもクズだと。
「勝者、レイン・スタッドぉおおおおおお!」
会場に俺の名が呼び上げられて、優勝が決まった。
一時はどうなるかと思ったが、無事に終わって良かったぜ。
「れ、レイン……」
担架に乗せられ運ばれていくジャスティンが、俺に何かを言った。
「何だ、まだ俺に用か?」
「ふはは……ゲホッ! い、良い気になるなよ。お、俺のバックには大きな組織が付いているんだ……。お、お前は終わりだ……グボッ! レイン……貴様に待っているのは地獄だけだ……」
負け惜しみなのか何なのか、ジャスティンは意味深なことを言いながら運ばれていった。
「何が大きな組織だ。くだらない。虎の威を借る三下ヤンキーかよ。ってヤベっ、ドラゴンの件を聞き忘れていたぞ」
ドラゴンの件も重要だが、もっと重要なことがあるのを、俺は忘れていた。
何故かリゼットの顔がうっとりしているのだが。




