第18話 まさか……
「ふふっ♡ やっと勝負ね、レイン・スタッド!」
俺の前に銀髪の剣姫が立ちはだかっている。
風に揺れる銀髪が美しい。
背が高く均整の取れた体は、しなやかな美しさでありながらも逞しさまで感じさせる。
正直に、凄く良い女だ!
以前の俺だったら、ぜひとも付き合いたいと思っていたはず。
しかし今は違う。大切な娘がいるのだ。俺が結婚して、娘たちに寂しい思いはさせたくない。
前世の俺が、義母から邪魔者扱いされたのを重し出しちまうんだよ。
俺の娘には、絶対にあんな悲しい目には遭わせないからな。
もし結婚するとしても、相手は俺の娘を愛してくれる人でないと。それが絶対条件だ。
対するヴィクトリアは、余裕なのかニヤニヤしている。
「ふふっ♡ 私って、モテるのよね。先日も貴族の御曹司から求婚されたわ」
試合前だというのに、ヴィクトリアが惚気話をしているぞ。アホかな?
「でもね、私は自分より弱い男と結婚する気は無いの。御曹司の求婚は断ったわ。あなたも私が欲しかったら、実力で奪ってみなさい」
まだ喋ってるぞ。凄い余裕だな。
「って、聞きなさいよ!」
ヴィクトリアが真っ赤な顔で怒り出した。
「俺に話してたのか?」
「あんたしか居ないでしょ!」
「独り言かと思ったぜ」
「闘技場でブツブツ独り言してたら、私が危ない女みたいじゃない!」
「実際、危ない女だろ」
「違うわよ! キィイイーッ!」
面倒くさい女だな。
「それでは試合開始!」
ゴォオオオオォーン!
銅鑼が打ち鳴らされた。
試合開始と同時に、俺はヴィクトリアをステータスオープンする。
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ヴィクトリア Lv53
種族:人族
職業:剣士
スキル
剣の加護
腕力強化
剣筋加速
幸運Ⅰ
ドMプレイ
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ほう、レベル53か。凄いじゃないか!
聞いた話だと、レベル30を超えられるのは、S級冒険者など一部の者だけらしいからな。
俺のような元ゲームプレイヤーでもなく、己の才能と鍛錬だけでレベル53まで上げるのは、さすがS級冒険者の剣姫といったところか。
「って、ちょっと待て! ドMプレイって何だよ!?」
彼女のステータスの下部に、とんでもないスキルが表示されている。
見てはいけないものを見てしまった。
ガタガタガタガタ――
「な、なな、何のことかしら?」
俺の話を聞いたヴィクトリアが、急に動揺し始めたのだが!?
えっ、ガチでドMなのか?
あんな女王様みたいな容姿と雰囲気で!?
「ちょ、ちょっとレイン! 変な言いがかりはやめてもらえるかしら! 誰がドMですって?」
必死に否定するヴィクトリアだが、明らかに様子がおかしい。脚がガタガタ震えているし、目も泳ぎまくっている。
「いや、べつにお前がドMでかまわないけどよ」
「どどどど、ドMじゃないわよ!」
「だから趣味は人それぞれだろ」
「ちちち、違うって言ってるでしょ! レインのばかぁ!」
まあ、見なかったことにしておこう。武士の情けだ。
「ほら、試合はしないのか?」
「するわよ! もうボッコボコのギッタンギタンにしてあげるんだから!」
勇ましいことだな。
「レイン! 私が勝ったら、あなたは私の婿になりなさい! あなたが勝ったら、私はあなたの嫁になってあげるわ!」
「それ同じじゃねえか!」
こいつヤベぇぞ!
ストーカーっぽい気がする。
「てやぁああああ!」
ヴィクトリアが踏み込んできた。
鋭い踏み込みだが、この程度ならかわせそうだ。
シュパァーン!
「なっ!」
「くらいなさい、レイン!」
シュパッ!
「おっと、剣先が加速しやがった。これが剣筋加速か」
斜め上から振り下ろしたヴィクトリアの剣が、途中で加速しやがった。
軽く体を捻ろうと思っていた俺は、とっさに後方へと飛んで避けた。
「あ、あなた……一目見ただけで私の剣を見切るなんて……。て、天才?」
ヤバい。またヴィクトリアが誤解している。ステータスを見ただけなのだが。
「そう、分かったわ。あなたは全てお見通しってわけね」
「は?」
「そうよ! そうですよぉ! 私はドMだわ。悪い?」
「いや、悪くねえけど……」
この女……自分で暴露しやがったぞ。
「もうバレちゃったからしょうがないわね。私は毎晩、ドMな妄想をしているのよ」
「おい、やめとけ……」
「レイン、あなたの手で縛られて……動けない私は、アンナコトやコンナコトを……という妄想で一人エッ○をしているのよ! これで満足かしら!?」
シィィィィーン!
剣姫ヴィクトリアの性癖暴露で会場が静まり返った。完全にやらかしてるぞ。
この異常事態に、観客からはブーイングが飛ぶ。主に俺への。
「おい、剣姫はレインの女だったのか?」
「それもドMに調教を……」
「くそぉ! 許せねえ、レイン・スタッド!」
「鬼畜レインめ、このNTR男め!」
待て待て待て待て! また俺のイメージがぁ!
悪役断罪エンドを回避しようとしてるのに、何で俺のイメージがNTR男になるんだよ!
クソッ、何とかしないと。
「ヴィクトリア、早く試合を決めてやる! これ以上、お互いに黒歴史を増やさないようにな!」
「ふふっ♡ やっとやる気になったわね! もう手遅れよ! もう私には怖いものは無いわ! 必ずあなたと結婚して、妄想を現実にしてみせるわ!」
俺たちは同時に踏み込んだ。
ヴィクトリアの攻撃が鋭いが、俺も負けてはいない。ここまで積み上げてきたレベル上げがあるからな。それに種も溜めてある。
「くらいなさい! 未来の旦那様ぁ♡」
「うるせぇ、暴力は全てを解決するんだ!」
バコッ!
俺は途中で剣を収め、拳でヴィクトリアを殴った。もちろん相手は女子なので手加減はしたが。
「うぎゃあぁああああぁん!」
派手にぶっ飛んだヴィクトリアは、場外まで転がっていき、逆さでガニ股になった格好で止まった。
因みにパンツ丸見えだ。
これには会場もドッと沸く。
「ああああぁ! あの気品ある剣姫がぁ!」
「下品な格好で伸びちまった……だと!」
「パンツ丸見え……ごくり」
「くそぉ、レインめ! 憎たらしいのにオカズを提供しやがって」
もうブーイングが、俺への怒りなのか嫉妬なのか、それともラッキースケベなのか分からなくなっている。
「こ、こんなつもりじゃなかったのだが……」
そのヴィクトリアだが、やっと正気に戻ったのか、慌ててスカートを戻している。
「きゃ! いやぁああぁ! み、見ないでぇ!」
「すまん……不可抗力だ……」
「この鬼畜レイン!」
ふくれっ面のヴィクトリアが俺を睨む。
「もう許さないわよ! こんな男は初めてだわ! 無慈悲な男女平等パンチ! わざと下着を露出させるエゲツなさ! 平然と酷いことをするドS男! もうこんなの結婚するしかないじゃない!」
「はあ?」
「レイン・スタッド! 責任取ってもらうわよ!」
「待て」
「この私、ヴィクトリア・パイルは、レインの妻になりまぁす!」
ヴィクトリアは、ビシッと俺に指を突き付けて、結婚宣言をした。
どうしてこうなった。
俺が足掻けば足掻くほど面倒事が増えるのだが。
◆ ◇ ◆
控室に戻った俺だが、とりあえずヴィクトリアの件は忘れて、次の試合が気になって仕方がない。
ジャスティン……学生時代はザコだったが。聖騎士になって強くなったのだろうか?
準決勝を見ておいた方が良いよな。
俺が立ち上がったところで、大会の係員がケーキとジュースを持って現れた。
「こちらは大会関係者に配られるサービスです。お召し上がりください」
これには娘たちも目を輝かす。
「わーい!」
「お菓子なの!」
これなら大人しくしていられそうだよな。
「エステル、シャル、俺は次の試合を観てくるから、大人しく待ってるんだぞ」
「はい」
「はいなの」
娘を選手控室に待たせ、俺は闘技場へと向かった。
「「「うおぉおおおおおおおおおお!」」」
会場は凄い盛り上がりだ。
近衛軍騎士団長と剣聖の試合とあって、事実上の決勝戦のように思われているのだろう。
しかし、闘技場を見た俺は驚愕した。
「剣聖ガオウ選手、動きに精彩がない! あっ、倒れてしまいました! 何があったのでしょうか!」
ガオウは最初から精彩を欠いていた。まるで体調不良のように。
そしてジャスティンの攻撃を受け続け、ついには倒れてしまったのだ。
「あれは……まさか……」
俺は魔法学院時代を思い出していた。あの決闘での毒物混入を。
「ジャスティン、また……」
そこで気づいた。控室に運ばれたケーキとジュースのことを。
「大会関係者からの差し入れ? おかしくねえか? 誰からの差し入れだよ? まさか、ま、マズい! 俺の娘が!」
俺は踵を返し、無我夢中で走った。




