第17話 予兆
「ベスト8第二試合は、美しき剣姫のS級冒険者! その剣は華麗で苛烈にして閃光! ヴィクトリア・パイル!」
「「「うぉおおおおおおおお!」」」
ヴィクトリアの名前が読み上げられると、会場から割れんばかりの歓声が沸き起こった。
相変わらず凄い人気だ。
「対するは、王都を守る要! 聖騎士アーサー・エリオット!」
ヴィクトリアの対戦相手は聖騎士か。
その男は、全身フルプレートアーマーに、両手持ちのロングソードを装備している。見たところ、かなりの腕前だろう。
「それでは、試合開始!」
ゴォオオオオォーン!
試合開始の銅鑼と同時に、ヴィクトリアが動いた。
凄まじい踏み込みからの、華麗な舞のような動きだ。
「はっ! とう! やあっ!」
キンッ! ガキンッ! ズバッ!
華麗な剣さばきを見せながら、ヴィクトリアは俺の方を向く。チラッ、チラッと、俺を見て、『どう、私って凄いでしょ』みたいな感じに。
「あの女は何をやってるんだ?」
まるで親に良いところを見せようとする子供みたいだ。子供は俺の娘がいるので、大きなオコチャマは遠慮したいところだが。
結局、試合はヴィクトリアの圧勝で終わった。
選ばれし聖騎士を圧倒するとか、さすがS級冒険者の剣姫だ。
「どう? 私って凄いでしょ!? 聖騎士にも簡単に勝てちゃうのよ!」
試合から戻ったヴィクトリアが、真っ先に俺のところに駆け寄ってきた。
「お、おう、凄いな」
「でしょでしょ! 私と結婚すれば、この最強の剣姫を自由にできるのよ♡」
「エステル、シャル、そろそろ帰ろうか」
「って、聞きなさいよぉ!」
しまった。俺が娘たちの方を向いていたら、ヴィクトリアが激おこになってしまった。
「もうっ! もうっ! 何でよぉ! 男たちは皆、私を敬って平伏するのよ! あんただけよ、私を雑な扱いするのはぁ!」
「それはすまん……」
「すまんで済んだら法律は要らないのよ! もっと私を甘やかしなさいよ」
「へいへい」
俺は軽く頭を下げると、娘を連れて歩き出す。
「行こうか。明日は本番だから、早めに休もう」
「はい」
「はいなの」
まだヴィクトリアが何か言っている気がするが、俺には関係ないだろう。
面倒事はスルーだぜ。
会場を出ると、柱の陰に黒髪美少女が立っていた。
「お父様」
その美少女、リゼットが俺に気づくと、トコトコと駆け寄ってきた。
「リゼット、どうしたんだ?」
「お父様が心配……し、心配などしておりませんわ!」
「だよな」
「だよなじゃありませんわよ!」
「どっちなんだ?」
「どっちもですわ!」
今日もリゼットの言葉はキツめだ。娘心は難しい。
でも、リゼットは俺の娘なんだ。聖騎士と結婚なんかさせない。ましてや、あのジャスティンのようなクズなんかと。
「リゼット、お前は俺が守る! 絶対にジャスティンなんかの嫁にはしないからな! だから安心しろ」
「お、お父様……」
俺がリゼットを抱きしめると、彼女はくすぐったそうな顔になった。
「お、お父様、暑苦しいですわ」
「すまん、リゼットが心配で」
俺が離れると、リゼットは指で髪をクルクルする。
「ふ、ふーん、お父様はわたくしが心配なのですね」
「当たり前じゃないか! リゼットは大切な俺の娘だ」
「た、大切……ううっ♡ ふっ、ふへっ♡ だったら、期待しないで待ってますわ」
そう言ったリゼットは背中を向けてしまう。ちょっとフヘってた気がするけど、気のせいかな。
でも、今なら分かる気がする。リゼットの言葉がキツいのは、決して拒絶しているのではないと。
「ああ、待ってろリゼット。必ず俺が迎えに行くからな」
俺が声を掛けると、リゼットは小さく頷いてから戻っていった。
その光景を見ていたエステルとシャルも、二人で手を取り合って彼女を見つめている。
「リゼットちゃんも一緒に暮らせたら良いですね」
「あの子も一緒にご飯食べたいの」
「だよな。一緒に暮らせたら良いな」
娘たちと一緒に暮らす。郊外に一軒家を建てて、のんびりと平和な暮らしも良いかもしれない。
そのためには、飛んでくる火の粉を払わなければ。
娘の手を引きながら歩く俺は、ラプラスとかいう男のことを思い出していた。
七魔大公ラプラス、ゲームでは魔王軍幹部のレイドボスとして、プレイヤーの前に立ちはだかった魔族だ。
何度も状態異常を仕掛けてくる厄介な敵だった。
あんな強敵が、何で俺の前に?
『レインよ、そなたは狙われている。相手は大きな組織だ。そなた一人で抗うのは難しかろう』
奴の言葉が、頭の中で反響し続けている。
大きな組織って何だよ?
ジャスティンじゃないのか?
あのドラゴンは誰が?
ダメだ、考えれば考えるほど分からなくなる。
「お父さん?」
「パパ?」
気がつけば、娘たちが心配そうな顔で俺を見つめていた。
そうだ、俺は娘を守らないと。
たとえ相手が魔族だろうがデカい組織だろうが、娘に手を出す奴は許さねえ。降りかかる火の粉は、たとえ誰だろうが叩き潰してやる。
「何でもないぞ。今日は美味しいものを食べに行こうか?」
「わーい!」
「やったーなの!」
俺は娘たちと美味しいものを食べに行くことに決めた。
娘たちにはお腹いっぱい食べさせてあげたい。
前世の俺のように、惨めな思いはさせたくないからな。
◆ ◇ ◆
翌日、遂に王覧試合は準決勝を迎えた。
闘技場には、ベスト4の選手が勢揃いだ。
「皆様、お待たせいたしました! 本日は王覧試合決勝戦の日です!」
場内アナウンスにも力が入る。前世の格闘技でよく見たリングコールみたいに。
「選ばれし四人の戦士を紹介します。先ず一人目は、天啓スキルの冒険者! 竜殺し、レイン・スタッドぉおお!」
呼ばれて登場した俺に、観客も大盛り上がりだ。大穴の俺が勝ち進んだことで、賭けも面白くなっているのだろう。
「続いて二人目は、美しき剣姫、妖艶な美女冒険者、その強さは誰も寄せ付けず! 閃光、ヴィクトリア・パイルぅうう!」
ヴィクトリアの登場で、会場がドッと沸いた。きっと男性人気ナンバーワンだろう。
「三人目の戦士は、誇り高き聖騎士、王国の守護者、優勝候補筆頭! 近衛軍聖騎士団長、ジャスティン・ベックフォード!」
ジャスティンの登場だ。
奴は俺に不敵な笑みを見せてから、観客に向け手を振った。
クソッ! お前だけは絶対に優勝させる訳にはいかない! 絶対に阻止してやる!
「そして四人目は、知る人ぞ知る、剣の達人! 煌覇絶神流免許皆伝、剣聖ガオウ!」
最後は剣聖ガオウだ。煌覇絶神流というのは、東方の島国に伝わる剣の奥義らしい。
ゲームでも、東方にオオヤシマというマップがあったからな。たぶんそこの出身だろう。
「最強の四人が出揃い、これより準決勝を始めます!」
準決勝第一試合は、俺とヴィクトリアだ。
俺たち二人が闘技場に残り、他の二人は戻ってゆく。
帰り際にジャスティンが、俺に耳打ちをしてきた。
「レイン、俺が優勝と筋書きは決まっているのに、ご苦労なことだな」
「なっ! どういうことだ!?」
「どうもこうも、この大会の結末は最初から決まっているのさ。俺が優勝し、最強の称号を得て聖女見習いと結婚させると」
どういうことだ!? まさか、八百長じゃねえだろうな!
「レイン、せいぜい無駄骨を折ることだな。くくっ」
「おい、ジャスティン! 待てよ!」
奴は不気味な笑みを浮かべながら戻って行った。
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