第15話 誰よこの女!
「皆様、お待たせいたしました! 王覧試合本戦、第一試合を始めます!」
ついに本線が始まった。司会進行役の声にも熱が入る。
「選ばれし16の戦士から一人目は、誰もが恐れる最強のS級冒険者、剣術試合経験99戦99勝! 剛腕、サイラス・カウリング!」
「「「うぉおおおおおおおお!」」」
優勝の最有力候補とされる屈強な戦士の登場に、場内から割れんばかりの歓声が上がった。
「対するは、天啓スキルの冒険者、竜殺し、デンジャラス種馬ぁああ! 天帝の種、レイン・スタッド!」
「「「うぉおおおおおおおお!」」」
「誰がデンジャラス種馬やねん!」
俺は酷いリングコールにツッコミを入れるも、歓声に消され誰の耳にも届かなかった。
くっそ、あれから種馬スキルを知っている人も少なくなったのに、また広める結果になっちまった。俺は静かに暮らしたいんだ。
まあしょうがない。やるしかねえ!
「よし、行ってくるぞ!」
「お父さん、頑張ってください!」
「パパ、やっちゃえなの!」
二人の娘の頭に手を置き、俺は選手入場口へと向かう。
その時、通路を駆けてくる女性の姿が見えた。
「レインさぁーん! はぁ、はぁ、はぁ……」
「あれは、サーシャさん! どうしたんですか?」
その女性はギルド受付嬢のサーシャさんだった。
息を弾ませながら、俺たちのところまで来て笑顔を見せる。
「レインさん、応援に来ましたよ」
「サーシャさん、受付は良いのですか?」
「有給とっちゃいました」
ギルドにも有給あったんだ。
「レインさんの晴れ姿を、この目に焼き付けないとね」
「そんな期待しないでください」
「何を言っているんですか! レインさんは凄いですから! もっと自信を持ってください!」
「はあ」
「お子さんは私が見守ってますから、レインさんは思い切り戦ってきてくださいね」
「じゃあ頼みます」
俺は二人の娘をサーシャさんに預け、闘技場へと歩を進めた。
「「「ウオォオオオオオオオオオオオオ!」」」
ゲートを出た瞬間、俺は眩しい日差しと大歓声に包まれた。
手をかざしながら客席を見上げると、熱狂した観客が総立ちになっている映像と、貴賓席のような区画が目に入った。
「また戻ってきちまったな。人々から忘れ去られ、静かに暮らそうと思ってたのによ」
貴賓席に目をやる。
「あれは国王が観覧しているのか? もしかして、試合で勝てば立身出世の道が開けるとか? まあ、俺には関係ねえけどよ」
ズシッ! ズシッ!
重々しい足音に目を向けると、剛腕サイラスが馬鹿デカい大剣を肩に担ぎ歩いていた。
腕が俺の胴回りより太い。盛り上がった筋肉がコブみたいだ。バケモンかよ。
「よう、レイン! お前が初戦だなんて嬉しいぜ!」
「そうか、俺は楽に勝ち上がりたいから、あんたとは当たりたくなかったがな」
「がはは! 謙遜するんじゃねえよ。お前も優勝候補に入ってるんだぜ」
は? いつの間に俺が……。
「まあ、俺の方が賭けのオッズは低いがよ。レインは大穴だぜ」
「俺は万馬券ってか」
「まあ、そういうことだ。せいぜい俺を楽しませろよ」
剣を抜こうとしたその時、歓声に混じり俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
美しく良く響く声が。
「レイン! 負けたら承知しないわよ! 私と当たるまで負けるんじゃないわよ!」
選手入場口に目をやると、そこには綺麗な銀髪を振り乱して叫ぶ女の姿があった。
ヴィクトリアじゃねえか。何で俺を応援してるんだよ。勝手にライバル視しやがって。
「試合開始!」
ゴォオオオオォーン!
「いくぞ、レイン! どりゃああああああ!」
ガキンッ!
「うるさいなぁ。ちょっと待てよ、俺はヴィクトリアと……」
やかましい奴を剣の鞘で止めた俺は、ヴィクトリアを見つめる。
「ちょ、ちょっと、レイン! 真面目にやりなさいよ! 私の結婚がかかってるのよ!」
「いや俺は結婚しないけど。勝手に結婚を決めるんじゃねえ」
「前! 前っ! 前を見なさいよ!」
「だから見てるだろ」
「私じゃなくて! 前よぉおお! ばかぁああああ!」
ヴィクトリアは何を騒いでいるんだ? 変な女だな。
ガキンッ! ガンッ! ガシッ! ズガッ!
「くそっ! くそぉおお! くらえ! 何故だ! 何故だぁああああ!」
何かやたらうるさい男が、さっきから俺に絡んでくる。
ヴィクトリアもうるさいが、こいつもうるさいな。
ズガァーン!
俺は鞘に入ったままの剣で、うるさい奴を横に薙いだ。
「うわぁあああああああ!」
「サイラス選手が場外! 勝者、レイン・スタッド!」
「は?」
ふと気づくと、サイラスが場外に転がっていて、審判が俺を『勝者』と呼んでいた。
「あれっ、いつの間に試合が始まってたんだ?」
「くそぉおおっ! 俺程度では剣を抜くまでもないと言いたいのか!」
サイラスが地面を叩きながら嘆いている。
どうしたんだよ?
「まあ、俺が勝ったのなら良いか。ツイてたぜ」
「ツキのせいにするんじゃねえ! 真面目にやりやがれ!」
「お、おう、すまんな」
何だかよく分からないが、勝ったのなら良しとしよう。
入場口に戻った俺を、娘たちが迎えてくれる。
「お父さん!」
「パパぁ!」
「良い子にしてたか。偉いな」
抱きついてくる娘の頭を撫でていると、何故かサーシャさんまで俺に抱きついてきた。
「レインさぁん♡ 素敵ぃ! S級冒険者のサイラスさんを片手であしらっちゃうなんて! 本当に凄いです♡」
「ちょっとサーシャさん、何やってるんですか!」
何でサーシャさんまで抱きついてるんだ。そんなに武術大会が好きなのかよ。
やめてくれ、娘の前でそういうのは。
「ちょっと待ちなさい、レイン・スタッド!」
そういえば、もう一人面倒な女がいた。さっきから、わなわなと怒りで肩を震わせているヴィクトリアが。
「レイン! この女は誰よ! 聞いてないわよ、他に女がいるなんて! 将来の妻である私を差し置いて! 何よ何よ!」
「何って言われても……ギルド受付嬢の方だけど」
そこにサーシャさんまで絡んできた。
「ちょっとぉ、レインさん! 婚約者がいたんですか! 聞いてませんよぉ!」
「婚約してませんけど……」
これにヴィクトリアの怒気も上がる。
「もうっ! この鬼畜レイン! バカぁ! 私の心を弄ぶだなんて良い度胸ね! 屈辱だわ!」
そんなこと言われましても。
「もうヤダぁ! 25年間ずっと大事にしてきた私の初めてを、やっと捧げられる男が見つかったと思ったのにぃ!」
「おいヴィクトリア、人聞きの悪いことを言うんじゃねえ!」
「レインさん! その人とエッチ子づくりするって本当ですか!? 私とはしてくれないのにぃ!」
「ちょっと、サーシャさんまで、何を言っているんですか?」
もう収拾がつかない。俺は娘たちを連れて退散することに決めた。
面倒な女からは逃げるが勝ちだぜ。
「じゃあ、そういうことで」
「待てレイン、私は絶対に諦めないわよ!」
「ちょっとレインさん、どっちと付き合うんですか!」
どっちとも付き合わねえよ!
俺は喉元まで出かかった言葉を飲み込むと、娘を連れて選手控室に走った。
「パパぁ、あの人たちのどっちが新しいママなの?」
シャルが俺を見つめる。
「わ、私は、お父さんが望むなら……」
エステルまで不安な表情になった。
「安心しろ。新しいママにはならないから」
俺は二人の頭を撫でる。
娘たちに心配させてしまったかな。
まったく困ったもんだぜ。俺の家庭に色恋沙汰を持ち込むんじゃねえ。
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