第14話 王覧試合
あっという間に王覧試合の日を迎え、俺たちは闘技場へ足を運んでいた。
闘技場入り口にはトーナメント表が張り出されている。
「どれどれ、って、何だよ! 騎士様はシードで、俺みたいな平民は予選があるのかよ!」
本戦に出場できるのは16人。そのトーナメント表には、選ばれし聖騎士8名の名前が書き込んである。いずれも武芸に優れた屈強の戦士だろう。
残り8枠を、書類選考を経た一般参加の100名から争うようだ。
「一般参加枠の中にはS級冒険者もいるじゃねえか。こりゃ厳しい戦いになりそうだな」
ざっと出場者一覧を眺めただけでも、有名なS級冒険者の名前が見つかった。
閃光と呼ばれる剣姫、ヴィクトリア・パイル。
剛腕と恐れられる大男、サイラス・カウリング。
他にも名を馳せた強豪が……。
俺のレベルも78まで上がったから、簡単に負けはしねえだろうけどな。この二人は要注意だぜ。
「お父さんなら優勝間違いなしです」
やけに視線を感じると思ったら、横でエステルが俺を見つめていた。キラキラした目で。
「そうなの! パパは最強なの!」
反対側に立つシャルも目を輝かせている。
そんな羨望の眼差しで見つめないでくれ。俺のスキルは戦闘向きじゃないんだ。種だけ最強だけど。
「お、おう、ジャスティンを倒すまで負けられねえからな」
娘の期待を裏切る訳にはいかない。アレも溜めてきたし、賢者モードにでもならない限り大丈夫だよな。
「あなたがレイン・スタッドかしら!?」
ゾクッ!
後から声をかけられ、思わず背中に鳥肌が立った。
驚いたからではない。強者のみが発する、殺気のようなものを感じたからだ。
「誰だ!」
振り返った俺が見たのは、背が高くスタイル抜群の銀髪美女だった。
この女は知っている。冒険者なら誰もが知る剣姫だからだ。
「ヴィクトリア・パイル……」
「あら、私の名前を知っているなんて光栄だわ」
剣姫ヴィクトリアは、優雅な仕草で髪を払う。美しい銀髪が、ハラリと星をばら撒くように舞った。
「最近巷で噂の竜殺しレインに、名前を憶えられているだなんてね」
ドラゴンスレイヤー……あの噂が広がってるのか。面倒だな。マークされちまうじゃないか。
それに、この女……本物だ。
全身から強者のオーラを出してやがる。
「こちらこそ、有名な剣姫様に認められるなんて光栄ですよ。俺は名も無きB級冒険者なんでね」
「あなた、強さを隠しているでしょ」
「えっ?」
「私には分かるわ。あなたの秘めた力が」
何だよこの女! 勝手に俺を深読みするんじゃねえ!
「そうです! お父さんは凄いのです!」
「パパは最強なの! ドラゴンも一刺しなの!」
こらぁああ! 娘たちよ、火に油を注ぐんじゃない!
「ど、ドラゴンを一刺しですって! そ、そんな……」
剣姫ヴィクトリアが愕然としている。
「ドラゴンを倒せるのは伝説の勇者レベルだというのに……それを一刺しですって。レインは勇者以上……まさか神話に語られる原初なる勇者王レベル……」
待て待て待て! ヴィクトリアが誤解してるじゃないか! 勝手に俺を神話レベルにするんじゃねえ!
「おい、誤解だって」
「でも負けないわ!」
「はあ?」
「私は極限まで剣の腕を磨いてきたの! レイン・スタッド、あ、あなたには絶対に負けないわ!」
剣姫ヴィクトリアが剣を抜き、それを俺に突き付けた。
そりゃ何の意味だよ。
「竜殺しレイン、あなたに勝負を申し込むわ! 必ず本戦に上って来い! もし私が負けたら、私の肉体を好きにすればいい!」
「はあ!?」
「わ、私は、あなたの妻となり、生涯この身と心を捧げるだろう!」
「待てよ!」
「でも絶対に負けないから! 私だってドラゴンくらい倒せるんだからね! ベェエエーッ!」
最後にあっかんべーをしてから、剣姫ヴィクトリアは去って行った。
何だよそりゃ、見た目は妖艶な美女なのに、意外と子供っぽいのか?
その場に残された俺たちは、茫然と彼女の背中を見送っていた。
シャルが俺の服の袖を引っ張る。
「パパ、あの人が新しいママになるの?」
「な、ならないよ」
俺は娘の幸せが一番なんだ。あの女が、いくら美人で妖艶でエッロくても、惑わされたりしないぞ。
◆ ◇ ◆
「皆様、大変お待たせしました! これより王覧試合予選を行います!」
威勢のいい司会進行役の男が、開会を宣言して大会が始まった。
闘技場のステージには、いずれも屈強な戦士が集結している。
「レイン・スタッド! むぅうううっ!」
剣姫ヴィクトリアが、俺を睨んでいるのだが。
勝手にライバル視されて迷惑だ。
「おい、お前がレインかよ」
今度は何だよ。馬鹿デカい男が話しかけてきたのだが。
「俺はサイラス・カウリングってんだ」
「あのS級冒険者のサイラスか?」
デカいとは聞いていたけど、さすがにデカすぎだろ。2.5メートルくらいあるぞ。
筋肉なんてオーガみたいじゃねえか。
「がはは! 俺は強者と戦うのが生きる喜びなんだ」
「はあ、そうですか」
「今までに99人の猛者を倒してきた。レイン、お前を記念すべき100人目にしてやるぜ」
「そりゃどうも」
だから俺をライバル視するんじゃねえよ! 何だよ100人切りって、弁慶じゃあるまいし。
こうして、次々と面倒事が舞い込みながら、王覧試合は始まった。
司会進行の男の声にも熱が入る。
「それでは予選のルールを説明します! 闘技場に立つ100名の戦士たちが一斉に斬り合い、最後まで立っていた8名が本戦の出場者になります!」
えらい雑だな!
「それでは試合開始!」
ゴォオオオオォーン!
銅鑼の音で試合が開始された。
皆が一斉に動き出し、闘技場に土煙が上がる。
「うぉおおおお!」
ズバババババッ!
サイラスの一振りで、一度に3、4人が場外へ弾き飛ばされている。
とんでもないパワーだ。
「たあっ! はっ! やあっ!」
ヴィクトリアも負けてない。恐るべきスピードで、的確に敵を倒していく。しかも手加減しているのか、致命傷を避けるように。
「さすが剣姫ヴィクトリア、閃光と呼ばれるだけあって凄いスピードだな。しかも美しい」
元のゲームを熟知している俺が見ても、彼女の剣技はずば抜けている。
宙を舞う銀髪も、揺れる胸も、躍動する太ももまで美しい。
「おっと、いかんいかん。俺は3人の娘の父親なんだ。女に見惚れていたらマズいよな」
「死ねやぁああ!」
ドゴッ!
「くらえぇええ!」
ドガッ!
俺はヴィクトリアの剣技に感心しながら、襲い掛かる敵をぶん殴る。
どいつもこいつも弱くて手応えがない。レベル25くらいかな?
あっという間に予選は終わり、闘技場に立っている8名が決まった。
剣姫ヴィクトリア
剛腕サイラス
剣聖ガオウ
剣術師範モーガン
賞金首狩りゴードン
薬師ランドルフ
無名ラプラス
そして俺、レイン
司会進行の男が名前を呼びあげる度に、大きな歓声が上がる。
残るべくして残った強者揃いだろう。
「レイン・スタッド!」
ヴィクトリアと目が合うと、彼女はまた俺に突っかかってきた。
「予想通り勝ち残ったわね! でも、勘違いしないでよね! そう簡単に私の体を自由にできると思わないことよ!」
「はあ」
「私の体は安くないの! ま、まだ誰にも触らせていない清らかな体なのよ!」
「しょ、処女……ごくり」
「いいこと! 私が欲しかったら、本戦リーグを勝ち上がってくることね! そこで勝負よ!」
言いたいことだけ言って、ヴィクトリアは戻っていった。あの妖艶な美貌で処女だったのが、一番の驚きなのだが。
ほどなくして本戦リーグのトーナメント表が貼り出された。
「俺の対戦相手は……げっ、ヴィクトリアと同じブロックかよ。順調にいけば、彼女と準決勝で当たると……」
そして俺の視線がジャスティンの名前で止まる。
「奴は別のブロックか。決勝まで当たらない。これは何としても決勝に勝ちあがらないとな」
リゼットを取り戻すためにも、絶対に負けられない。




