第11話 アースドラゴン
「うおぉおおおおおおおおおお!」
ガキンッ!
俺の放った一撃が、ドラゴンの前足に命中した。
本来なら俺の攻撃は、大抵のモンスターを行動不能に至らしめるはずだ。
しかし攻撃は弾かれてしまった。分厚いドラゴンの鱗は、生半可な攻撃など防いでしまうのだろう。
「クソッ! とんでもない物理耐性だぞ!」
キンッ! ガンッ! ガキンッ!
何度斬りつけても攻撃が通らない。
胴体はノーダメージか。だが!
「これならどうだ!」
奴が頭を下げた時に、俺は素早く動いた。
剣を水平に構え、一直線に奴の目に向かって。
グサッ!
「グギャアアアアアアアアアアアアア!」
命中だ。ドラゴンの片目に剣を突き立ててやったぞ!
ドカンッ! バキッ! ガラガラガラ!
「クソッ! 手負いになって余計に激しくなりやがった! 滅茶苦茶に攻撃してきやがる!」
圧倒的強者である竜族だ。それが、ちっぽけな人族に反撃されたのだから、プライドも傷つくってもんだろ。
「だが俺は負けない! 何も無かった俺に、愛する者、守るべき者ができたんだ! 絶対に生き残って、娘たちを幸せにする!」
俺が踏み込んだ瞬間だった。背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「お父さぁーん!」
「パパァー!」
振り返ると、娘たちが泣きながら近寄ってくるのが見えた。
「な、何で戻ってきたんだ!」
「お父さんが死んじゃう!」
「パパを守るの!」
ゴォオオオオオオ!
その時、ドラゴンから空気を吸い込むような音が聞こえた。
「マズい、あれはドラゴンブレスを吐く前兆!」
ドラゴンの顔の正面には、エステルとシャルが居る。このままでは俺の娘が。
「間に合えぇえええええええええええええ!」
ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアア!
俺が娘たちを庇うように突っ込むのと、ドラゴンがブレスを噴いたのが同時だった。
「ぐああああっ! 間に合った!」
俺は娘二人を抱えて横に飛んだ。
背中に少し炎を食らったが、致命傷ではない。服が焼け焦げ、背中が焼けたけどな。
ギリギリだった。あと一瞬遅かったら全滅していただろう。
「ぐあっ! ふ、二人とも無事か?」
「お、お父さんが……」
「パパが怪我しちゃったのぉ!」
「俺は大丈夫だ」
もう一度、娘を逃がそうとするが、ドラゴンが退路を断つように動いてしまった。
「出口が塞がれただと!」
どうする!? このままじゃ全滅だ!
何とかして娘だけでも逃がさないと!
「わぁああ~ん! ごめんなさぁい! 私のせいでお父さんがぁ!」
エステルが泣き出してしまった。
それを見たシャルも大粒の涙を流す。
「ふええぇ~ん! パパを守ろうとしたのぉ!」
お前たちは悪くない。俺を心配してくれたんだよな。
子供はそういうものだ。
大人になると、人は打算や損得で動くようになる。でも、子供は素直なんだ。純粋に俺を想っているだけなんだ。
しかしどうする!?
剣はドラゴンの目に刺さったまま、背中のダメージにより体力は低下している。このままでは……。
もう、あのドラゴンを倒すにはパーティーでないと不可能だろう。
「パーティー……? そうだ、パーティーか!?」
娘を危険な目に遭わせたくない。俺はずっとそう思っていた。
だが、本当にそうだろうか?
このピンチを切り抜けるには、娘たちとのパーティープレイをするしかない!
俺はエステルとシャルの顔を交互に見る。
「いいか、今から大切なことを伝えるぞ」
「はい」
「うん」
「生き延びるためには、皆で協力して戦わないとならないんだ。できるか?」
二人は大きく頷く。
「最初に俺が攻撃してドラゴンの動きを封じる。合図をしたら、シャルが奴の腹に超重力打撃を叩き込むんだ」
「はいなの!」
「そうしたら次はエステルだ。シャルが開けた奴の腹の穴に向け、龍雷撃で攻撃だ」
「分かりました!」
よし、もうやるしかない!
ゴォオオオオオオ!
再びドラゴンから吸気音が聞こえてきた。ブレスを噴く前兆だろう。
「二度も同じ手が通じると思うなよ!」
俺はドラゴンに向かって突撃し、地を蹴って飛び上がった。そのままの勢いで、奴の顎に渾身の蹴りを叩き込む。
「どりゃあぁああああ!」
ズガァアアアアァン!
ブレスを噴こうとしていたところに蹴りを入れられ、ドラゴンは口内で爆発を起こして倒れ込んだ。
「こんなもんじゃ終わらねえぞ! 俺の愛娘を殺そうとした罪を、その身で贖え!」
ズガンッ!
俺は、ドラゴンの目に突き刺さっていた剣を蹴りつけた。剣は更に深く、柄の部分まで刺し込まれた。
「グギャアァアアアアアアアアアア!」
更に俺は奴の首根っこを掴むと、仰向けになるようひっくり返す。
「くらえ! 暴力は全てを解決するんだ、この野郎!」
バタンッ! ズシィイイイイーン!
「今だ、シャル!」
「はいなの!」
ズダダダッ!
シャルが時間加速Ⅰで加速し、一気にドラゴンまで近づくと、自分の背丈よりも長いモーニングスターを振り上げる。
「超重力打撃なのぉおおおお!」
ズガンッ! ドガァアアアアアアーン!
シャルの一撃は凄まじかった。空気を切り裂くように振りぬいた鉄槌の衝撃は、硬いドラゴンの鱗を破壊し肉を削いだ。
俺はすぐに合図を出す。
「今だ、エステル!」
「はい! ど、どど、あぅ」
慌てたエステルが杖を落としそうになる。
「ゆっくりで大丈夫だ。エステルならできるぞ」
「は、はい! 龍雷撃!」
ピカッ! ズババババッ! バリバリバリバリバリ!
「グギャアアアアアアアア!」
青白い閃光がダンジョン内を走り、凄まじい音と共にドラゴンの腹の穴に命中した。
強烈な電撃が体内を突き抜け、ドラゴンはのたうち回る。
固い鱗により絶対防御を誇っていたドラゴンだが、内部は同じようにいかなかったようだ。
「よし、ダメージで絶対防御が崩れた! 今なら奴の防御力も大したことはねえ! 食らえぇええええ!」
俺はドラゴンの目に突き刺さっている剣を抜くと、それを奴の脳天に突き刺した。
グサッ! ズブブブブッ!
「うおぉおおおおおお!」
「グギャアァアアアアァガアアアア!」
ドガンッ! ガラガラッ! ズシィイイイイーン!
断末魔の雄叫びを上げたドラゴンは、周囲の壁を破壊しながらのた打ち回る。しかし俺は力を緩めない。
「死ねやこらぁああああああああああ!」
「ギェエェエエエエエエエエエエエエエ!」
何度か痙攣したドラゴンは、大きく体を跳ねさせてから動かなくなった。
「やった……のか。俺たちがドラゴンを……」
ゲームの時は何度も戦っていたが、こうして実際に相手してみると強さが桁違いだな。
それだけに経験値も凄い。俺のレベルが一気に78まで上がったぞ。
そこらの冒険者がレベル20くらいだから、意外と良い方じゃねえのか?
「お父さぁ~ん! わあぁああぁん!」
「パパぁあああぁ!」
娘たちが泣きながら駆け寄ってきた。
「二人とも無事か?」
「はい」
「うん」
良かった。怪我がなくて。
しかしおかしい。ドラゴンが初級ダンジョンに出現するなんて。
誰かが仕組んだのか? 何のために?
いずれにせよ、俺の娘を害しようとするなんて、絶対に許せねえ!
◆ ◇ ◆
「これを買い取って欲しいのだが」
ダンジョンから戻った俺たちは、冒険者ギルドの受付に巨大な魔石と、怪しく輝く緑色の鱗を置いた。
「えっ、レインさん? ボロボロじゃないですか! って、これ……えええっ! これ、ドラゴンの鱗ですよね!?」
サーシャさんは、傷だらけの俺と鱗を交互に見ながら目を白黒させている。
「ダンジョンにアースドラゴンがいたから討伐してきました」
「ええっ! ええええっ!」
「だから換金を」
「ええええええっ!」
サーシャさん、大丈夫かな? 顎か外れそうなくらい口を開けて驚いてるけど。
「レインさん……前から凄い人だと思ってましたけど……ついにドラゴンスレイヤーになっちゃったんですか!?」
サーシャさんの声で、周囲の冒険者まで集まってきてしまう。
「おいおい、誰がドラゴンスレイヤーだって?」
「レインじゃねえか!」
「ドラゴンを倒すって、もう伝説の勇者級だろ!」
「違いねえ! ドラゴンスレイヤーは伝説の勇者だぜ!」
やめてくれ。俺は静かに暮らしたいのに。
これ以上目立ったら、また厄介事が舞い込んできそうなんだよ!




