第10話 パーティープレイ
「うぇええぇ~ん! レインさぁん!」
冒険者ギルドに顔を出してみたら、受付嬢のサーシャさんが突然泣き出した。この世の終わり見たい顔で。
「どうしましたか、サーシャさん?」
「えぐっ、だ、だって、その子供……」
サーシャさん、俺の後ろにいるシャルを指差した。
「ああ、この子ですか。この子も俺の娘です」
「やっぱりぃ!」
何が『やっぱり』なんだ?
最近のサーシャさんは疲れてるのかな。
「ほら、シャルも挨拶して」
「はいなの! シャルなの!」
シャルの笑顔を見たサーシャさんは、一瞬で顔をほころばせる。
「あら、可愛いっ♡ シャルちゃん、歳はいくつ?」
「知らないの」
「そうなんだ。ああっ♡ でも私、レインさんがバツ2でも構いません♡」
サーシャさんは何を言ってるんだ? 泣いたり笑ったり。やっぱり疲れているのかな?
「それでサーシャさん――」
ガチャガチャ!
「「ひいぃいいっ!」」
シャルが重そうなモーニングスターを持ち上げると、近くに立っていたザークとガランが腰を抜かした。
「どうしたんだ、ザーク、ガラン?」
俺が声をかけると、彼らは怯えた表情で後ずさる。
「へへっ、レインさんは娘さんもお強いようで……」
「そうですぜ、さすが天啓の娘さんですよね」
何だか良く分からんが、俺の娘を褒めているのだろうか。なら嬉しいのだが。
「どうだ、可愛いだろ。俺の娘は世界一だぞ」
「へい、羨ましい限りで」
「あっしがもっと若かったら、ぜひお付き合いしたいところですぜ」
「俺の娘は絶対にやらぁーん!」
「「ひぃいいいいっ!」」
しまった。親バカなところを見せてしまった。でも、娘に彼氏とか絶対許せねえよな。
しかし調子が狂うぜ。こいつら、急にペコペコし始めて。
前のようにウザ絡みしてくれた方が、よっぽどやりやすい。
そんなことよりクエストだよ!
「サーシャさん、今日も初級の討伐クエストをお願いします」
「あっ、は、はい」
準備を整えた俺たちは、足早にダンジョンへと向かった。
◆ ◇ ◆
「どっかーん! なの」
ズガガガガガーン!
俺もエステルも茫然と佇んでいた。目の前の光景が信じられないのだ。
ダンジョンに入った途端、シャルが元気にモーニングスターを振り回し始めた。まるで竜巻のように。
シャルが鉄の塊を振るたびに、周囲にいるモンスターが尽く粉砕されてゆく。
「凄い……。一撃で数体のモンスターが肉片に……。とんでもないパワーだぞ」
俺もそこそこ力を上げているはずだが、それとはレベルが全く違う。初期ステータスが桁違いなんだ。
あの重い特注槌を扱うだけでも凄いが、それをいとも簡単に振り回している。あの細い体のどこに、あんなパワーがあるんだよ。
「パパぁ! モンスターやっつけたよ」
敵を全滅させたシャルが、嬉しそうに戻ってきた。
「おう、偉いぞシャル」
「えへへぇ。パパに褒められたのぉ」
シャルの頭を撫でてやると、くすぐったそうな顔で身をよじる。
子供は褒めて育てないとな。
「シャルちゃん……凄いです。それに比べて私は……」
エステルが沈んだ顔をしたので、俺はすぐに動いた。小さな体をギュッと抱きしめ、頭をなでなでする。
「エステルも凄いぞ。いつもクエストで役に立ってるし。自慢の娘だ」
「お、お父さん」
「偉い偉い」
「えへへ、くすぐったいです」
エステルも笑顔が戻ってきた。
姉妹は平等に育てないとな。片方に劣等感を抱かせるのだけはダメだ。
俺は前世の少年時代を思い出した。
そうだ、俺の義母は、実の息子だけを大事にして、義理の息子である俺には冷たく当たっていたからな。
あんな思いを、俺の子供にはさせたくない。
「エステルちゃんも凄いの。シャルもエステルちゃんみたいな必殺技が欲しいの」
シャルが羨ましそうにエステルを見る。
必殺技というのはエステルの雷槍や龍雷撃のことだろう。
派手な魔法でカッコイイからな。
よし!
「そうだな、シャルにも必殺技を伝授しよう」
「やったぁー! シャルも必殺技なの!」
シャルが喜んでくれて良かった。
よし、シャルのステータスにある超重力打撃を試してみるか。
あと時間加速Ⅰというのも役に立ちそうだな。
俺はエステルの時と同じように、シャルにもスキルの使い方を教える。
この世界の住民は、ステータスやスキルの概念を知らない。だが俺は違う。ゲームのシステムをマスターしているからな。
「シャル、攻撃の時に、踏み込みを強くして地面を蹴るようにするんだ。時間加速Ⅰと叫びながらな」
「はいなの」
ズンッ!
「時間加速Ⅰなの!」
シュパーン!
シャルが凄い加速をした。
踏み込んだ地面は一部陥没し、シャルの足跡がクッキリと付いている。そこから一瞬で10メートルくらい移動した。
「よし、凄いぞ。次は槌技だ。力を溜めてから、振り下ろす時に一気に開放するんだ。超重力打撃と叫びながらな」
「はいなの!」
シュパーン!
「超重力打撃なの!」
ズドドドドドドドドーン!
「「ええええええええっ!」」
俺とエステルは、再び呆然としてしまった。
シャルの放った一撃が凄まじかったからだ。
モーニングスターを叩きつけた瞬間、対象に重力場のような物が発生し、周囲の空間を根こそぎ破壊してしまった。ダンジョンの壁や床を巻き込みながら。
「やったぁーなの! パパのおかげで必殺技が使えるようになったの!」
シャルは無邪気に大喜びしている。
もしかして、今まで剣技が使えず無能扱いされていたのって、完全に適性を間違えていたからでは?
子供は適正や教育で、こうも変わるのか。
「パパ凄いの! 戦士のスキルも一流なの!」
「そうなんです。お父さんは凄いのです。魔法も熟知していますからね」
シャルが俺を褒めると、エステルも自慢げに胸を張る。ちょっとくすぐったい。
「俺は子供の適性を伸ばしただけだよ。凄いのは二人の方だ」
「パパぁ、シャルもっとやるの」
「お父さん、私にも色々教えてください」
二人は俺の体にじゃれつく。
話を聞いてないけど、喜んでくれたから良しとするか。
ドンッ! ズガガーン!
バリバリバリバリ!
それからも二人の活躍で討伐クエストは捗った。
一時は破産したけど、これならすぐに金貨も貯まりそうだ。
「よし、今日のクエストはこれくらいにしておこうか。もう十分、魔石を回収したしな」
「はいなの!」
「はい」
クエストを終えて戻ろうとした、その時だった。
ダンジョンの奥から、地響きと空気が震えるような音が響いてきた。
「何だ、この音は……」
ズシーン! ズシーン!
確かに聞こえる。何か重々しい物体が近づいて来るような音が。
「お父さん」
「パパぁ」
二人が不安な顔になる。
「エステル、シャル、俺の側を離れるなよ」
「はい!」
「はいなの!」
二人を庇いながら、俺はダンジョンの奥に目を凝らす。
そこには、圧倒的な存在感を持つ巨体がうごめいていた。
暗闇の奥から、巨大な体と翼を備えたモンスターが、堂々とこちらに迫ってくる。
「なっ! 何だあれは!? は? はあぁああ! ドラゴンだと!」
現れたのはアースドラゴンだ。ネームドではなさそうだが、ドラゴンは低レベルでも圧倒的力を持っているはず。
「きゃああっ! ど、ドラゴンです!」
「食べられちゃうの!」
エステルとシャルが恐怖で俺にしがみ付く。
「何かがおかしい。こんな場所に……」
この世界での最強種であるドラゴンが、こんな初級ダンジョンに存在するはずがない。
誰かが意図的に、下層の上級ダンジョンから誘き寄せたとしか……。
くっ、今は考えている場合じゃない! 娘だけでも逃がさないと!
「エステル、シャル、俺がドラゴンを引き付けておくから、お前たちは逃げるんだ!」
「お父さん」
「パパぁ」
「良い子だから俺の言うことを聞くんだぞ。合図したら、一斉に出口に向かって走るんだ」
「は、はい……」
「うん……」
二人は不安な顔をする。
だが俺は父親だ。娘を守らなくては。
「今だ、走れ!」
俺の声で二人は走り出した。
娘たちの足音を確認した俺は、剣を抜き構える。
「やるしかねえ!」
ゲームでは、ドラゴンを倒すのには熟練したパーティーでないと無理だった。ソロで倒せる奴なんて、レベルカンストさせたゲーム廃人くらいだな。
だが俺は、この世界で子供の頃からレベル上げをしてきた。エリアボスモンスターくらいなら倒せるはずだ。
しかし、ドラゴンに勝てるのか?
「ぐだぐだ迷ってる場合じゃねえ! 俺は娘を守るんだ!」
ダークグリーンの分厚い鱗を持つ巨体に向け、俺は一直線に走り出した。




