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竜退治に恋は必要ですか?  作者: ウール100%


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王子、剣士、修道女、黒魔術師そして悪魔4

「いたいた。随分と遠くまで逃げたわねぇ」

 ホタルは四人がいた場所から十分ほど歩いた場所にいた。倒木の上にぽつんと一人、膝を抱えていた。

「すみません……」

「あら、話せるのね」

 予想外に返事が返ってきてユリは驚いた。

「……緊張、してしまって。態度が良くなかったですよね。本当に反省しています」

 ホタルが一文より多く話しているのを初めて聞いた。ユリは彼女の隣に腰を下ろした。

「そんなに人と話してこなかったの?ひょっとして箱入り娘だったりする?」

「いえ、違います。竜騎士団選抜試験までは<果ての森>の中で修行していたので、かなり長く人間とは話していませんでしたが。でも話すこと自体は問題ないです」

「じゃあ今までの態度は何なのよ」

「その……シオン様がいると緊張してしまって」

 言いながらローブの裾を握る。ユリは首をかしげた。

「シオン?あいつ王族とはいえ第三王子よ?よっぽどのことがない限り国王になることはないし、同じ竜騎士団にいる以上ただの一兵卒よ。どこに緊張する要素が……」

 言いながら、そういえばシオンは班長なので兵卒ではないのでは、とユリは気がついたが「まあ良いか」と思い直した。首都から遠く離れた大地でたった四人、階級などたいした問題ではない。

「いえ、そこではなく。その、シオン様は私にとって恩人なんです」

 ホタルの白い肌が再びほんのりと色づく。彼女は小さな声でシオンとの出会いについて次のように話した。

 ホタルは首都の貧民街で育った。周囲から群を抜いて貧しく体つきも貧弱だったため、近所の子供達から毎日虐められていたのだという。

 そこに十年前、たまたま現れていじめっ子達を追い払ってくれたのがシオンだった。

 その時見たシオンの強さに憧れた。自分も強くなって彼の役に立ちたいと考えた。そこで彼が入るという竜騎士団を目指すことにした。

 <果ての森>の魔女に弟子入りし、黒魔術の腕を磨いた。多くの悪魔を従えるようになり、無事選抜試験に合格した。

 そしてシオン班に所属することになった。

「――――それなのに、こんな形で迷惑をかけて申し訳ない……」

 そうホタルが話を締めて、ふと隣を見やると。

 ユリが満面の笑みで、ぐびぐびと酒を飲んでいた。

「いやー、良い話ね。すっごい良い話」

「え」

「つまりホタルはシオンのことが大っ好きなわけね」

「い、いや、そういう話では」

「照れなくて良いのよ。おねーさん、そういう話すっごく好き。あー、お酒が進むわー」

「ほ、本当に違います!憧れなんですっ。それ以上の感情は……」

 ユリは一人で納得して、どこからともなく新しい酒瓶を取り出し蓋を開けている。

 酔っ払いは人の話を聞かない。「そんな恐れ多い気持ち、持ってないですからっ」というホタルの声もどこ吹く風だ。

「何だ、全部話したのか」

 頭上からばさばさと羽音を立ててヒッシャが降りてきた。彼は先程逃走したホタルにその場に置いていかれてしまっていたのだ。

「げ、来た悪魔」

 途端にユリの機嫌は急降下した。

「げ、とは何だ」

 鼻を鳴らしてホタルのユリの間に留まる。そして「つまらんな」と言った。

「こいつはあの男のために悪魔と契約してまで力を得て竜騎士団に入ったくせに、肝心のあいつとはちっとも話すことができない、というのが面白かったのに」

 それを聞いたユリが、

「あんた、さっすが悪魔よね。主人の不幸がそんなに嬉しいわけ?」

と、苦虫をかみつぶしたような顔をした。

「当然だろう。俺は人間が不幸になる姿が見たくて、人間と契約しているんだ。自分の願いを叶えるために悪魔と契約して、後になって「こんなつもりじゃなかった」と嘆く顔を見るのが最高の悦楽なのだ。

 それなのにこいつは実につまらん女でな。俺が『力を貸してやるから、死んだら魂を寄越せ』と言ったときも、少しもびびらない。迷わず「はい」と契約書にサインして、後悔した様子もないときた」

 ユリは今度はホタルに対して頭が痛くなった。

「ホタル、あんたそのへんもうちょっと考えて行動しなさい……?」

「死んだ後のことなので、魂がどうなっても別に良いかなって。必要なときに力が手に入れば、後のことはわりとどうでも」

 淡々と顔色も変えず応えるホタル。

 駄目だ、悪魔も黒魔術師も理解できない。修道女であるところのユリは両手を挙げた。 結局、

「……いろいろ言いたいことはあるけど、今は良いわ。とにかく!このいけすかない悪魔の娯楽にならないために、あんたはちゃんとシオンと話せるようにしなさい」

と、シオン班全員にとって一番重要なことだけを言い聞かせることにした。

「うう」

 ホタルが涙目になる。

「話せた方がシオンの役に立てるでしょ!初心を忘れちゃ駄目。わかった?」

「う、はい……」

 畳みかけると、ホタルは小さく頷いた。彼女もこのままではいけないとわかっているのだ。

 二人の間でカラスが「けっ」と鳴いた。

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