旅は続く5
「あー。やっぱりこういう宴では良い酒が出るわねぇ」
庭園の四阿には竜騎士団の兵士達が陣取っていた。皆が思い思いにパーティーを楽しんでいるが、中でもユリは早々に酒盛りに突入していた。上官も何人かその場にいたのだが、言うことを聞かないのはわかりきっているので苦い顔をするばかりだ。こういうときは真面目なアカザだけが一生懸命に説教をすることになる。
「おい、他国の人間もいるのにみっともない姿見せるなよ。というか仮にも聖職者がこんな公の場で飲酒して良いのか」
「つまんないことばっかり言う男ねぇ。私が他人の目を気にすると思ってるのぉ。私が気にするのは神様の目だけ。その神様も全ての人間の罪を大体許してくれるおーらかな男だからオールオッケー!」
「おい、既に出来上がってるじゃないか。俺だけじゃ手に負えない。ホタルもなんか言ってやってくれ」
ユリの隣に座っているホタルに助けを求める。彼女は酒があまり得意ではないらしく、ジュースをちびちびと飲んでいた。代わりにヒッシャがワイングラスにくちばしを突っ込んでいる。
「私は……お酒飲んでるユリも好きですよ。かわいくて」
そう言って首を傾げるホタルに、
「ホタル……!」
ユリは目を輝かせた。
「この裏切り者!お前の目は節穴か!?」
「んもー、かわいいのはあんたでしょ。このこのっ」
吠えるアカザとはしゃいでホタルに抱きつくユリ。そこに、
「あのー、ちょっとよろしいでしょうか……」
と遠慮がちな声がかかった。
声を掛けてきたのは王城の憲兵だった。
「お楽しみのところすみません。城下町の方から報告がありまして……どうやらサンスソ地区に竜が出没したらしいんです」
にわかに騎士団が騒ぎ出す。
「城下町に!?」
「被害状況は?」
「等級は?」
矢継ぎ早な質問にたじたじとしながら、その兵士は説明を始めた。
「サンスソ地区の中心部で目撃されたようです。住民はそう多くはない地区なのですが……現状、被害状況は不明です。竜の等級は私どもでは何とも……ただ大きさは家屋三軒分くらいあったと……すみません」
まだ第一報で、情報は不十分だ。話している兵士もそのことを自覚しているらしく、ひたすら申し訳なさそうだ。
被害状況はともかく、竜そのものの情報については仕方ない部分はある。一目見てその竜の種類や等級を判断できるのは竜騎士団くらいなのだ。
「わからないことが多いな。だがその大きさからすると等級の高い竜である可能性は高い」
大尉が腕を組む。彼が今いる団員の中で一番階級が高いため、この場を取り仕切っている。一人の団員が「こんな時に……」とぼやいたが、これはそこにいる全員の一致した気持ちだった。
何もわざわざ王子の結婚相手である隣国の姫君とその家族がソーヤ王国を訪れているときに現れなくても。
そしてもう一つ、誰もが考え、だが口に出そうとしてやはりやめようとしたことを言う者がいた。
「シオンを呼び出しますか?」
竜騎士団の中で、聖剣を持ったシオンは間違いなく最強だ。たとえ彼に頼らずとも倒せる竜であったとしても、被害現場が市街地である以上可能な限り速やかに討伐したい。そうなるとやはりシオンの手を借りたいところである。
だが大尉は、
「いや、我々だけで解決しよう」
と決断した。他の者もまあ、そうなるだろうと頷いた。
「今、シオンを呼び出せば客人らにも不安を与えることになる。パーティーの参加者が何も気づかないうちに全て終わらせよう……この中で今晩、まだ飲酒していない者は?」
ホタルを含む数人がぱらぱらと集まった。全部で六人だ。やはり少ない。まさかこんな時に竜が出現するとは思っておらず、皆が気を緩めていたのだ。
「まずは先遣隊としてお前達が行け。お前達だけで倒せるならそれに超したことはないが、難しいようならすぐに救援を求めろ。指揮はホタル、お前がとれ」
「はいっ」
ホタルが力強く頷く。シオンを含め強者揃いのシオン班からリーダーを出すのは自然な流れだった。
「気をつけろよ、ホタル」
アカザは飲酒したと正直に言ったことを後悔していた。ホタル一人で他の団員を連れて討伐に向かわせるのはさすがに心配だった。
「ホタル!ヒッシャを置いていきなさい」
出発しようとするホタルに、ユリが声を掛けた。
「え?」
「そいつ、あんたと精神通話ができるんでしょ?使いを走らせるより速いだろうから、何かあればそいつを通じて助けを求めなさい。すぐ行くから」
ヒッシャはホタルと契約している悪魔だ。両者の間には常に魔術的なつながりがあるため、離れていてもそれを通じて意志を交換することができるのだ。
「わかった」
言って、ホタルは肩からヒッシャの足をぐいっと掴んでユリの肩に乗せた。
「ええ~」
カラスが憎たらしい態度でぶうたれた。
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