旅は続く4
ソーヤ王国王家とヒガン王国王家の良家顔合わせは盛大に行われた。
ヒガン王国は王、王妃、姫の家族全員でソーヤ王国の王宮を訪れ、ソーヤ王国はこれを国を挙げて歓迎した。
昼に両家は互いの国の高官を交えて会食し、結婚に関するいくつかの実務的な会議を挟んで、夜にはガーデンパーティーを開催した。昼の会食が王族を中心とする少数で密やかに行われたのに対し、パーティーの方は両国の貴族から一兵卒までもが参加する大規模なものだった。
もちろんホタル、アカザ、ユリも参加した。ホタルは正直なところ気が進まなかったのだが、<ダイヤモンド>討伐の功労者である以上、シオン班は全員参加が言い渡されていたのだ。
国内の庭園の中で最も美しいと謳われる王宮の庭園は、今は薔薇が盛りだった。蔓薔薇のアーチをくぐり抜けた先には、噴水を中心にテーブルがいくつも並べられ、豪華な食事が用意されていた。立食式で、文官も武官もソーヤ王国の者もヒガン王国の者も交ざり合い、グラスを片手に談笑している。
王族はパーティーの初めに挨拶をして、今は城内の庭園に面した広間でくつろいでいた。テラスの扉を開けてすぐに外に出られるので、時折庭園に出たり、逆に庭園から入ってくる者に応対したりしている。
夕食を終えて、シオンとキラクサはテラスで二人並んでパーティーの様子を眺めていた。
「良い夜ですね」
キラクサが話しかける。彼女は白いドレスをまとい、発光しているかのように美しい金髪をサファイアの髪飾りでまとめていた。その清純な美しさに、ソーヤ王国の者は誰しもうっとりし、こんな姫君と結婚するシオン殿下は本当に運が良いとささやき合った。
「え?」
シオンは何か話さないといけないとわかっていたが、こういう場で何を話すべきかわからず考え込んでいたため、キラクサの方から話を振ってくれたことにありがたく思いつつも反応が遅れた。
「え、ええ、そうですね……穏やかな夜だ。こういう夜は竜も気が緩んで無防備なことが多い。夜襲を掛けるのにもってこいだ」
キラクサがふふっと小さく笑う。しまった、この返答はどうやら間違いだったらしい。
「そうではなく。ヒガンの者もソーヤの者もああやって親しくお酒を飲み交わしています。両国が協力し合えば、より良い未来を実現することができる……そのことを見せてくれているようですわ」
「なるほど」
何か難しいことを言っていたらしい、とシオンは判断した。自分は決して頭の良い方ではないので困る。高度な比喩とか皮肉の効いた冗談とか、そういうのとは無縁の戦場で生きてきたのだ。
しかしさすがにあまり間抜けなところを見せては、ソーヤ王国の権威に関わる。誰か、もっと簡単な話を振ってくれる人がこの会話に加わってくれたら良いのに。
そう考えてシオンは助け船を求めて広間の他の人々にちらちらと視線を投げかける。しかし皆、若い二人に気を遣い、寄ってこようとはしない。彼らは婚姻の話が出て以来初めて、二人きりで話をしているのだ。
シオンは内心、頭を抱えてしまった。
キラクサは確かに美しく賢い女性だ。国を想い、国民をよりよい方向へ導こうという意志もある。実に尊敬できる人物だ。
シオンは決して卑屈になるわけではないが、この立派な女性に自分は不釣り合いではないかという思いを強めていた。
シオンだって髪をきちんと整え、複数の徽章で飾られた真新しい軍服を着ている姿は、ソーヤ王国、ヒガン王国の双方から感嘆が漏れるほど立派なものだ。だが本人にしてみれば、どうも「着せられている」感じがして落ち着かない。なんとなく相手をだましているような気分になるのだ。
本当の自分はこうではない。戦場に出て竜を倒すことくらいしかできないし、それしかしたくもないのに。
皆がキラクサとの結婚は良いことだという。だがシオンはどうにも自分が袋小路に追い詰められたように感じていた。
ただ、
「シオン様、私達の肩には両国の未来がかかっています。私達の結婚が成功することが、ヒガン王国とソーヤ王国両方の平和につながるのです」
とキラクサが言ったとき、それは良いなと思った。
どうして二人の結婚が両国の平和につながるのかよくわからなかったが(多分結婚と平和の間に二つ三つの通過点があるんだろう。どうして頭の良い人はその辺を端折ってしまうのか)、それならば自分も頑張れると考えたのだ。
「平和は大事ですね。それなら頑張りましょう」
思ったまま伝えると、彼女はまたふふっと笑った。




