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竜退治に恋は必要ですか?  作者: ウール100%


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旅は続く2

 気がつけば木々が鮮やかに色づき、葉を散らし、短い冬が過ぎて再び春がやって来た。

 シオンとキラクサの結婚の準備は着実に進んでいた。両国の諸々の実務的な取り決めが交わされ、結婚式の日取りが決まり、衣装の制作や披露宴の会場の用意が始まっていた。

 そんな中シオン班は相変わらず竜退治にいそしんでいた。今月も討伐数は騎士団の全班における上位五位内であった。

 だが今のシオン班の空気は決して良いものではなかった。

 竜騎師団本部は明らかにシオン班に割り振る討伐対象の等級を下げていた。隣国の姫君との婚姻を控えた王子に今、怪我をさせるわけにはいかないという配慮だろう。これまで強力な竜ばかりを相手にしてきた四人としては士気が下がるのも仕方がなかった。

 加えてホタルのことだ。もともと大人しい質の彼女は再び自分の殻にこもりがちになっていった。竜討伐には今まで通りきちんと参加するが、終わるとすぐに一人で帰ってしまう。ユリの心配にも「大丈夫です」と力なく笑うばかりだった。

 もともとシオンの役に立ちたいからと言って竜騎士団に入団したホタルだ。彼が他の女性と結婚し、竜騎師団を退団するとなればホタルも辞めてしまうかもしれない。ユリは言葉を尽くして慰めたり気分転換に遊びに誘ったりもした。

 だが、 

「確かに竜騎士団に入ったのはシオン様がきっかけです。でも皆さんと一緒に竜と戦ってきて、私なりにやりがいも感じている……だから辞めたりしません。今の私が竜を退治するのに恋なんて必要ないんです」

と、あくまで彼女は気丈だった。こうなるとユリとしてはもう何も言えない。

 そうして今日もまたさっさと本部を後にしたホタルの後ろ姿を、シオンは「きっと疲れているんだろう」と判断した。そして、

「魔術師は魔術の探求をするばかりで鍛錬に関心を持たない者が多いからな。体力がないから疲れやすいんだ。彼女は魔術師というだけでなく兵士でもあるんだから、もっと身体を鍛えるべきだ。まずは走り込みだな」

と訓練の重要性とその効果的な方法について長広舌をぶった。

 ユリはとりあえず殴っておいた。



「また等級5か」

 竜騎士団本部の、シオン班に割り当てられた一室だった。シオンがテーブルに肘をつき、指令書を斜めに見ながらぼやくように言った。

 等級5。1から10まである等級のど真ん中。まさに「普通」レベルの竜ということだ。

「文句を言うな、シオン。竜の被害が出ているんだ。等級は問題じゃない」

 向かいに座るアカザが硬い口調で言う。だがシオンはやめようとしなかった。

「それだけじゃない。また首都近郊だ。本部には他の班もたくさんいるのに……別に俺達じゃなくても良いじゃないか」

「……シオン」

 ついに溜め息と共に名前を呼ばれて、シオンは眉をくもらせた。

「……すまない。困らせたいわけじゃないんだ。ただこうもあからさまだと」

 最近のシオン班には等級の低い討伐対象が割り当てられるだけではない。その場所も必ず首都のすぐ近くだった。朝出発すれば、その日中に本部に戻ってこられる範囲だ。

「仕方ないだろう。お前は今やヒガン王国の姫君の婚約者なんだ」

「わかってる。でもせっかく聖剣を持っているのにこんな相手ばかりだと、つい」

 これでもシオンは公の場では決して不満や愚痴を漏らすことはない。父王や国民の期待に応え、婚約の祝いに対して笑顔で礼を述べている。アカザにこんなことを話すのは、幼馴染みとしての気安さからだ。

 他に口に出せる場所も無いのだから、アカザも黙って話を聞いてやっている。それでも親友であり、忠実な部下であるアカザとしては、多少の手厳しいことも言わざるを得なかった。

「お前の気持ちも理解できる。だがその聖剣だって結婚して国を出るときには手放さなければならないんだぞ」

 この言葉にシオンは大きく目を見開いた。考えもしなかったという顔だ。

「え……」

「当然だろう。聖剣はソーヤ王国の秘宝だ。いくら今使えるのがお前しかいないからといって、他国に持ち出して良い代物じゃない」

「それはそうだが……」

 シオンは俯く。まさか子供の頃から手元に置いて話さなかった聖剣を手放さなければならないなんて。それは彼にとっては世界がひっくり返るようなことだった。

 その時小さなノックの音がして、召使いが顔を出した。

「あの、シオン殿下。王城から仕立屋がもう到着しているとの知らせが来ていますが……」

 そういえば今日は結婚式用の衣装の採寸をするため仕立屋が来るという約束だった。シオンは随分と長い時間アカザを引き留めて困らせてしまっていたと気がついた。

 キラクサとの婚約の話が出てから、ずっとそんな感じだった。

 かつてこの部屋では討伐を終えてシオン班全員で反省会であったり祝勝会をやるのがお決まりだった。だが最近ではホタルは滅多にこの部屋に寄りつかず、ユリもまた「ここにいてもなんか辛気くさいから」と言ってすぐに酒屋に繰り出してしまう。

 結果として男二人で、この場所でだらだらと過ごしてしまう。どういうわけかシオンは城に帰りたくないのだ。そしてアカザはそれに付き合ってくれている。

「わかった。すぐ行くと伝えておいてくれ」

 言って、腰を上げる。

「今日はすまなかったな」

「いや。気にしてないよ。鍵は俺が閉めておくから、さっさと行ってやれ。だけどお前は結婚までにちゃんと考えておくんだぞ。これから……お前がどう生きていくのかを」

 アカザは「ホタルのこともちゃんと考えてやれ」と言いそうになるのを危うく飲み込んだ。そこはアカザでも踏み込んで良い領域ではないと判断した。

「ああ」

 片手をひらひら振って、部屋を出る。初夏に差し掛かろうかというところなのに、外は少し肌寒い。

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