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竜退治に恋は必要ですか?  作者: ウール100%


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22/32

旅は続く1

「よくぞ戻った、竜騎師団第十六班……シオン、アカザ、ユリ、ホタル」

 玉座に坐すはソーヤ国の現国王にしてシオンの父でもあるセネシオ王である。彼は多分に白髪の交ざった豊かな顎髭を撫でつけながら、跪く四人の戦士達を穏やかな目で見下ろした。

 通常の竜討伐であれば、わざわざ王に直接報告することはない。しかし今回の敵は<ダイヤモンド>だ。諸々の後処理を終えて帰国するやいなや、すぐさま竜騎士団本部から王城に直行するよう指示された。

 シオンはともかく他の面々は直接国王の目にかかることなど滅多に無い。さらに玉座の間には、今回の知らせを受けて集まった国内有数の貴族らも大勢待ち構えていた。三人は緊張の面持ちで、膝をついた赤い絨毯をじっと見つめることになった。

「<ダイヤモンド>出現の報告を受けたときはこれから我が国がどうなることかと恐ろしい思いをした。最強と謳われた始祖ソーヤも倒せず、火口に沈めることしかできなかったのだからな。そんな化け物を諸君らが倒した。我が国最大の憂いを晴らしただけでなく、奴が降り立った隣の国まで救ったのだ」

 シオン班の面々の緊張とは裏腹に王は朗らかだった。そこにはかわいい息子が無事に帰った喜びもあっただろう。

 これまで威厳のある国王というだけあって近寄りがたいイメージがあったのだが、にこにこと彼らの功績を賞賛してくれる様子は随分と親しみやすい。シオンの父というのも頷けた。

「ソーヤ王国の王として諸君らには心から感謝の意を表する。そしてこの功績を賞して諸君らには一階級の昇進、そしてカダン勲章を授けよう」

 シオンが代表して「ありがとうございます」と礼を述べる。

「しかしこれも竜騎師団として当然の務め。<ダイヤモンド>を討伐しても他の竜が全て消え去ったわけではありません。この報償を糧として、今後も竜討伐に邁進する所存でございます」

 普段の大ざっぱでくだけた様子はなりを潜め、班長として、そして王子として文句のない態度と存在感だ。

 しかしこれに対し王は、

「……ふむ。頑張ってくれたまえ」

とだけ返した。

 なんとなくそっけない。他の班員は少し不思議に思ったが、勲章の授与など儀式的なあれこれを済ませる内にその違和感も忘れ、王の前を辞去することとなった。

「……ああ、すまないがシオンは残ってくれないか。少し話がある」

 最後に王は背を向けかけた息子にそう言った。

「?……わかりました」

 シオンは怪訝な顔をしながらも応じて、

「先に行ってくれ」

と他の三人を促した。

「部屋の外でお待ちしていましょうか?」

 慣れない人間がたくさんいる中でいつもより一層フードを目深にかぶったホタルが、おずおずと尋ねた。

 この後、竜騎師団本部で次回の大規模討伐での部隊の編成について打ち合わせがある。シオン班は全員参加する予定だった。行く場所が同じなら一緒に行けば良いだろうという、それだけの理由からの提案だった。

「いや、必要ない。俺の用事に付き合う時間があれば、先に本部へ行って次の討伐に向けて他の団員と話し合ったり、修練を積み重ねたりするべきだ」

 シオンは何でもない口調でそう言ったが、ホタルは怯えたように肩を震わせた。

「すみません、わかりました」

 小さな声でそう言うと、早足で玉座の間を後にした。



「私、何か気に障ることをしたでしょうか……?」

 玉座の間から出て、ホタルが開口一番そう言った。一緒に出てきたアカザとユリも浮かない顔だ。

「さっきの言葉は俺達全員に対して言ってると思うから、ホタルだけが気にすることは無いと思うんだが……でも、そうだな。やっぱり不自然だな」

とアカザが言葉を選びつつそう言った。

 ホタルを慰めたいという気持ちはある。だがアカザの目にも、今のシオンはこれまで彼女に対してあった優しさや気遣いといったものをどこかに置き忘れてきたように見えるのだ。

「確かに変よね」

とユリも同意する。

 <ダイヤモンド>討伐の帰路でも薄々感じていたことだった。

 シオン班は王都に戻る道すがら他にも何匹か竜を倒したのだが、シオンとホタルはどうにも息が合わなかった。

 班を編成したばかりの頃はホタルも緊張ゆえのひどい無愛想さで、シオンもそんな彼女の扱いに困っていた。だが一緒に戦う内にそれなりにうまく連携がとれるようになっていたのだ。前に立って敵に切り込むシオンと、それを魔術で後方から支援するホタル。決してよく話す二人ではなかったが、話さずともお互いに戦いやすいよう動くことができていた。

 そこにあった確かな信頼――そういったものが、突然消えてしまったように見えるのだ。何かきっかけがあったわけではなく、ある日突然に。

「私達の知らない間にどこかで頭ぶつけてきたんじゃない?それで記憶喪失だとか」

「でもホタルのことを忘れたわけじゃないだろ。そもそも記憶喪失ってホタル一人だけを忘れるような器用なものなのか?」

 本気とも冗談ともとれないことを言うユリと、呆れたように否定するアカザ。そして自分がうっかり弱音を吐いたことで他の二人に慰めさせてしまっているこの状況にますます恐縮するホタル。

 そんな三人をカラスの姿をした悪魔ヒッシャが壁に作り付けられた燭台の上から楽しげに眺めていた。

「何よ、にやにやして」

 気がついたユリがきっと睨み付ける。

「ほう、そう見えるか」

 人間からは鳥類がどんな表情をしているかなんてわからないだろうに、長年悪魔と敵対してきた教会の修道女はなかなかに目ざとい。

「あんたのはなんとなくわかるのよ。めちゃくちゃ楽しそうなオーラ出してるじゃない。主人が悲しんでいるのを見て喜ぶなんて、この悪魔!」

「そりゃ悪魔だからな」

 ヒッシャが鼻で笑う。ホタルが「ヒッシャ!」と非難の声を上げるが、おかまいなしだ。

「お前達、まだいたのか」

 そんなところに玉座の間からシオンが出てきた。

「良いだろ。そんなに長い時間でもなかったんだから。それはそうと……どうした?変な顔して」

 アカザが尋ねた。というのもシオンが無表情ながらもどことなく不安なような焦ったような困ったような、そもそもそういう感情を示すべきなのか迷っているような微妙な顔をしていたからだ。

「うん……実はヒガン国から使いがあったらしくてな。あの国の王には娘が一人いたのを覚えているか」

「ああ。キラクサ王女」

「彼女との婚姻の話が出ている」

 一瞬の間の後、

「はあ?キラクサ王女と……お前が!?」

アカザが思わず大声を上げた。

 「しっ、声が大きい」とシオンが小さく窘める。

 事の次第はこうだ。

 ヒガン王国は先日、<ダイヤモンド>の襲来があった国だった。そのフーシンという都市に<ダイヤモンド>が居座り、市民や建物に被害を与えていた。そこにたまたま運悪くキラクサ王女が訪問していたのだ。

 彼女は危うく<ダイヤモンド>に喰われるところだったのだが、そこに駆けつけたシオン班が間一髪で助け出した。これにヒガン国王は大喜び。愛娘を助け出してくれたことにひどく感謝して、シオンを彼女の結婚相手として迎え入れたいと申し出たのだ。

「……まあシオンはソーヤの第三王子だから、確かに妥当ではあるな」

 アカザが唸る。シオンと隣国の姫君との婚姻話は衝撃的ではあったが、納得もする。何と言ってもシオンは王子なわけだし、世間で恐れられていた竜を倒し娘を助け出した英雄だ。そりゃ父親としては娘を嫁がせたくもなるだろう。

 予想できてしかるべき流れだったが、不思議と考えもしなかった。それだけに祝福するより前に戸惑いが大きい。

 ユリも珍しく神妙な顔だった。

「隣国だし、国同士の結びつきを深めるためには良いでしょうね。また<ダイヤモンド>みたいな強力な竜が現れても、協力し合って撃退できるわけだし」

などと淡々と状況を分析しており、感情面については可能な限り考えないようにしている様子だった。

「しかし……ヒガン国王の子供はキラクサ王女一人だろう?彼女が第一王位継承者なわけだ。つまりシオンが将来のヒガン王国の王配になるって……とんでもないことだな」

「ああ。王位継承には無縁の第三王子にはもったいない話だ」

 そう話すシオンは特に嬉しそうでも何でもない。まだ感情の整理もできていないようだった。

「受けるの?」

 ユリが尋ねる。彼女の声はどこか心配げだった。

「受けざるを得ないだろう。我が国にとっては良いことばかりで、悪いことなど一つも無いんだ」

 そう答えるシオンは随分と「大人」みたいだった。

「いつまでも前線で竜を追い続けているわけにはいかないとはわかっていた……それが思ったより早く来た。それだけの話だ」

 小さく溜め息を着く。

 ホタルは何も言わなかった。ただケープの裾をぎゅっと握った。


  * * *


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