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竜退治に恋は必要ですか?  作者: ウール100%


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ダイヤモンド4

 市長の命令によって、フーシン城壁内にいる牛や豚など全ての家畜が接収された。それらは市庁舎前の広場に何百と集められた。めいめいに興奮して鳴き声を上げ、一時は恐ろしいほどの騒がしさだった。

 だが<ダイヤモンド>が二、三匹を片足の鉤爪で一気に掴み上げ口に放り入れ、ばりばりむしゃむしゃとやること複数回。広場にいた家禽は全て姿を消し、あっという間に静かになった。

 市民は家の中に隠れて震えながら、竜の鋭い牙で肉や骨が噛み砕かれる音を聞いていた。

 「肉」を求められた時、人間を喰らうのではないかと恐れていたが、その状況を避けられたことだけはほっとしていた。だが家畜が全て奪われ、明日から自分達が食べる肉は、ミルクは、と考えると暗澹たる思いだった。

『金だ。宝石だ。この街にある全ての光り物を集めろ。一粒残らずだ』

 次に<ダイヤモンド>が求めたのは金品の類いだった。

 元来、竜は金銀財宝に目がない。あちこちから集めた宝を巣に隠し、そこから金貨一枚でも盗まれようものならすぐに気がついて、盗人を地の果てまで追いかけ殺しに掛かるのだ。

 市内の富裕層の家全てから金品が運び出された。婦人らは泣く泣く宝石箱を差し出し、街のシンボルであった初代市長の像からも金箔が全て引っぺがされた。

 市庁舎の前には宝の山が積み上がり、<ダイヤモンド>はその上に満足そうに寝そべった。

 そしてついに、最も恐れていた命令が下された。

『女だ。若い女の肉を寄越せ。百人だ』

 自身の透明な鱗に反射する金貨の煌めきを愛でながら、何でもないことのように言う。

「それはいくら何でも……女も皆、全て陛下に仕える臣民でございます。どうかどうか、彼女らの命はお許しください」

 市長は真っ青になって断ろうとする。だが竜はそんな彼の様子を冷たい目でちらりと見ただけだった。

『逆らえると思っているのか。差し出さないならば、女どころかこの街にいる人間を皆殺しにしてやるまでよ。

――三日待ってやる。それまでに百人用意しろ』


 

「私が参りましょう」

 頭を抱えて自身の邸宅に戻った市長を迎えたのは、ヒガン王国の王女キラクサだった。

 彼女は<ダイヤモンド>襲来の際たまたまフーシンを訪問しており、今は市長の家に身を寄せていた。

 豊かな金髪に海のような青い目をした十六歳の少女。彼女はその愛らしい容貌と清らかな心で、両親のみならず国民の全てから愛されていた。

 王はフーシン近辺に軍を集め、どうにかこのかわいい末娘を城壁の外に連れ出すことはできまいかと悶々としている。二週間にわたる竜の支配下での不便な生活で顔色こそ悪かったが、変わらず美しかった。

「何をおっしゃいます!?王様があなたのお帰りを心待ちにしているのですよ」

「この危機の時にフーシンに居合わせたのは神の思し召しでしょう。私はヒガン王国の王女です。この命、民のために使わずして何が王女ですか」

「しかし竜が求めているのは女百人の命。わざわざキラクサ様が出ずとも……」

 言いすがる市長に対し、キラクサはきっぱりと言った。

「私の素性を明かしなさい。それならば竜の王も納得するでしょう」


 

「申し訳ございません。百人の若い女は用意できませんでした」

 三日後、やつれた顔の市長が<ダイヤモンド>の前に立った。斜め後ろには白いドレスの少女を伴っている。その顔はヴェールで隠されていた。

『ほう、それでよく我の前に顔を出せたものだな。まずはお前から喰ろうてやろうか』

 竜は冷めた目で市長を見下ろす。

 人間達がそう簡単に女百人の命を差し出さないだろうことはわかっていた。だからこの男をどう殺すかということばかり考えていた。生きたまま丸呑みにするか、手足を一本ずつ千切っていくか。どういう殺し方が残った市民に一番恐怖を与えて言うことを聞かせやすくなるだろう。

 だが市長は思わぬ言葉を続けた。

「その代わり、一人の貴い女を差し出しましょう」

『どういうことだ』

市長は緊張の面持ちで、後ろの少女が自分から前に進み出るのを見ていた。

「ヒガン王国の王女、キラクサ様がいらっしゃいます。彼女ならば女百人を優に超える価値がありましょう」

 少女が繊細なレースのヴェールを上げると、その下から美しく、そして高貴なかんばせがあらわになった。

『……なるほど。それならば我の舌にも合おう』

 <ダイヤモンド>が宝の山から身を起こし、片腕を伸ばした。

「あ……っ」

 押し殺した少女の声。鋭い鉤爪を備えた前脚がキラクサの細い腰を掴み上げ、金貨のベッドに転がす。

「ほう、なかなかに美しい」

 広がる金髪と、白いドレス。恐怖に震えながらもまっすぐに己の運命を見据える少女の顔はどんな宝石よりも光り輝いている。

 竜が舌なめずりをする。

 女は好きだ。傷つけられる時にあげる高く細い声。それを聞くと高揚する。なるべく長く楽しみたい。少しずつ真っ白な肌に傷を付けていこう。

 そう考えた<ダイヤモンド>は爪の先を彼女の胸元に立てる。触れた先から激しく乱れる心音が伝わってきて、いよいよ興奮した。

 爪を横一線に滑らせようとしたその時――――


「待て…………っ」


 一筋の閃光が、竜の鉤爪に衝突した。

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