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竜退治に恋は必要ですか?  作者: ウール100%


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ダイヤモンド2

 半日ひたすら馬車を走らせて、ジルシオの街に着いた。

 ここは隣国ヒガンとの国境付近で最も大きな都市だ。竜騎士団東部方面隊の司令部も置かれている。そのためシオン班はここで旅の物資を調達する予定だった。

「前来たときと雰囲気が違う……なんだか空気がぴりぴりしている」

 街の入口で馬車を降りた途端、シオンが眉をひそめた。

「それはきっとあれのせいだろう」

と、アカザが指を指した先には二つの国を分ける山岳の一つ、シー火山がある。他の山々よりずば抜けて高いその山は、山頂からもくもくと煙を吹き出していた。

「そういえば数日前から煙が上がってたわね」

「噴火したんですよね。一週間前に立ち寄った町でそう聞きました。麓の村がいくつも被害に遭ったと」

 ユリとホタルが心配そうに話す。

 この火山が最後に噴火したのは彼女らが生まれるずっと前のことだ。この災害がどれだけの人間にどれだけの影響を与えるのか想像もできない。

「ああ。それであちこちからこの街に避難民が集まってきている。市民は噴火の被害に対する不安はもちろん、よそ者が街を荒らすんじゃないかという警戒心も抱いている。かなり市内の緊張感が高まっているみたいだ」

 そんなことを話していると、向こうから二人の兵士が四人に向かって走ってきた。

「シオン班長!よくぞおいでくださいました」

「隊長がお待ちです」

 二人は人波をかきわけシオンに駆け寄る。彼らの表情に浮かぶ喜色にシオンは怪訝な顔をした。

「すまない、僕らは遠征の帰途でここに立ち寄っただけなのだが」

「本部の指令を受けていらっしゃったのではないのですか?」

「ああ。だから全く話が見えなくて」

「それは失礼しました」

 二人の兵士の内、年かさの方が居住まいを正す。

「おそらく行き違いになっているのでしょう。ですが重要な案件なのです。長旅でお疲れのところ申し訳ございませんが、すぐに隊長と会っていただけませんか?」

 どうやら東部方面隊から本部へ救援要請を出していたらしい。たまたまこの街を訪れたシオン班を、要請に応じて派遣されたものだと早合点したのだ。

「その案件はシー火山噴火に関係しているのか?」

 今、ジルシオに配置された王国軍の兵士らは噴火によって故郷から逃れてきた人々の対応に追われているはずだ。対竜専門組織である竜騎士団も例外ではないだろう。

 だが兵士は声を潜めて、

「厳密に言えばシー火山にも関係します……ですが、問題はあくまでも竜です」

とシオンに囁いた。

 新たな竜の出現を匂わされ、一同に緊張が走る。

「わかった、応じよう」

 すぐさま頷いたシオンは他の三人に目配せして、竜騎士団東部方面隊司令部へと向かうことにした。



「端的に言おう。<ダイヤモンド>が現れた」

 東部方面隊隊長の執務室。完全に扉を閉ざされた中で放たれたのは、その一言だった。

「<ダイヤモンド>!?」

「伝説の竜じゃないですか!本当に存在するなんて……」

 シオン班の面々は一様にぎょっとした。普段から表情に乏しいホタルですら、口に手を当て驚きを隠せないでいる。

 それもそのはず。<ダイヤモンド>といえば、1から10まである等級で唯一、等級10を冠する竜。最古にして最強の存在だ。

 この竜は王国史の一番初めに登場する。

 遙か昔。現在ソーヤ王国がある一帯には森や草原が広がるばかりで、ほとんど人が住んでいなかった。だが人々はこの地域を避けていたわけではない。季候が良く、資源が豊富で土壌も豊かな土地だったのだ。本来ならば多くの人間が集まるはずであった。

 彼らが寄りつかなかった理由はただ一つ。

 凶暴な竜<ダイヤモンド>の縄張りであったことだ。

 <ダイヤモンド>は自分の見える範囲に人間が一歩でも入ろうものなら、逃げても逃げても追いかけ食いちぎって殺した。彼らが家や畑を持っていれば火を吐いて燃やし尽くし、隠していた食料や宝物は根こそぎ奪った。

 困った人間達は当時、竜殺しで名を馳せていた剣士ソーヤに竜退治を依頼した。

 彼は見事<ダイヤモンド>を打ち倒した。

 そして自ら王を名乗り、移り住んできた人々と共にこの土地に何百年と続くソーヤ王国を築き上げたのだ。

「本当にそれは<ダイヤモンド>なんですか?生きている人間は誰も見たことがないんですよ?」

 ユリが疑問を呈する。いくら竜騎士団の人間とはいえ、<ダイヤモンド>は物語の中の存在だ。実在すると言われてもいまいちぴんとこない。

「見ればわかる。実際、東部方面隊の人間は皆、あれを見て<ダイヤモンド>だと思った。伝説に描かれた姿そのままなんだ」

 四十代半ばの隊長は眉間に深々と刻まれた皺をもみながら、苦々しく言う。

 炎のような赤い眼をした強大な竜。全身が透明な鱗でみっしりと覆われ、その一つ一つが光を反射して神々しいまでに輝く。あまりにも凶悪かつ、あまりにも美しい。

 その姿が強烈な説得力でもって伝えてくるのだ。「最強」である、と。

「一週間前、<ダイヤモンド>はシー火山の噴火と共に姿を現した」

 隊長の言葉にホタルはなるほど、と頷く。

「伝説では、英雄ソーヤはシー火山の火口に<ダイヤモンド>を突き落としていましたよね」

 巨大な竜に対し、小さく弱い人間であるソーヤは自然の力を利用することにした。つまりシー火山の頂上へ<ダイヤモンド>をおびき寄せ、まんまと火口へと飛び込ませたのだ。深い、深い溶岩の海の底へ。

 灼熱のマグマの中で溺れ死んだものだと思われていたが、どうやら火山の中で生きていたらしい。

「ということは……今回のシー火山の噴火は、<ダイヤモンド>がマグマの中から火口を這い上がる刺激を受けて起こったものということでしょうか」

「その通りだ」

 ホタルの分析を隊長が肯定する。一同は互いに不安そうな顔を見合わせた。

 英雄ソーヤに火口に落とされて以来、何百年と溶岩の中で足掻いていた<ダイヤモンド>。その人間に対する憎しみはいかほどのものだろう?

「このことは市民には公表していない。目撃した者もいるだろうが、あくまでも事実として認識しているのは竜騎士団の人間のみだ」

「それで、<ダイヤモンド>は今どこに?」

 シオンが肝心の質問をする。彼らはまだ一度も彼の竜の姿を見ていない。

「シー火山を挟んだ隣のヒガン王国だ。国境に近い都市フーシンに現れたと情報が入っている。当時はたまたま王女が訪問していて、街を挙げてのお祭り騒ぎだったんだそうだ。あんまり賑やかだったんで、そちらに興味を持ったんだろう。

 現在、フーシンはほぼ壊滅状態だ。まだ脱出できていない市民も大勢いるらしい……王女もな」

「!」

 ヒガン王国のフーシンはソーヤ王国との貿易の拠点ともなっている、かなりの大都市だ。そんな所が壊滅状態になっている。さらに王族が取り残されているとなると、状況は非常に悪い。

「近隣で最も強力な対竜専門組織を持っているのはソーヤ王国だ。本来、国内の問題は自分達で解決するのが基本だが、ヒガン国王も眼に入れても痛くない娘が危険にさらされているとあってはなりふり構っていられなかったのだろう。真っ先にこちらに支援要請を出してきた」

 隊長がまっすぐにシオンを見る。

「相手が<ダイヤモンド>とあっては、聖剣とその使い手であるお前が出るほかないだろう。行ってくれるな?」

 シオンは腰に佩いた聖剣を胸の前に持ち上げる。強いまなざしで隊長を見返し、

「当然です。今度こそ<ダイヤモンド>の息の根を止めましょう」

と宣言した。

 ホタル、アカザ、ユリがシオンの後ろに並び立ち、彼の言葉にうなずく。彼らもまたシオンと同じまなざしをしていた。



 かくしてシオン班の<ダイヤモンド>征伐が始まった。

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