大丈夫の波紋
掲載日:2025/10/06
病室の窓から差し込む光は、秋の柔らかさに満ちていた。白いカーテンが微かに揺れ、静寂が漂う部屋で、彼女はベッドに横たわり、かすれた声で言った。
「あなたが来ると不思議とこんな気持ちにさせられるの。全部大丈夫、大丈夫になるって。あなたの顔を見るだけで安心するのよ」
私は、看護師として慣れた手つきで点滴を調整しながら、彼女の言葉を胸の奥にそっと置いた。彼女の目は、長い病と向き合った疲れを湛えながらも、どこか遠くの光を追いかけるように輝いていた。その一瞬、私はただの看護師ではなく、彼女の心に寄り添う誰かだったのかもしれない。
彼女の言葉は、まるで小さな石が水面に落ちるように、私の内側に波紋を広げた。毎日繰り返される処置や記録の合間に、こんなにも温かなものが、言葉として、確かに存在するのだ。彼女の微笑みが、私の白衣のポケットにしまわれたままの小さな希望を、そっと呼び覚ました。
病室を出ると、廊下の冷たい空気が頬を撫でた。私は次の患者のカルテを開きながら、彼女の言葉を反芻する。大丈夫。全部、大丈夫になる。その響きは、私の足音と一緒に、病院の長い廊下に静かに溶けていった。




