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村正 ~剣豪Mの英雄義賊剣譚~  作者: I嬢
復興ノ章 < 中 >
93/93

< 七十六 > 作戦会議

一話一話投稿している度に大台の100話が近づいていると思うとニヤニヤが止まりません(((

epは90なんですけどね。

.......あと、十二月いっぱいでちょっとしんどくなってきたので連載本気で三カ月休止するかもしれません.....ご了承ください........!!

その次の夜は深くて、重かった。


月は薄い皐を引いたように村を照らし、屋根瓦と土壁が冷たく光る。


焚き火の火は小さく、ぱちり、ぱちりと断続的に弾けては、身体を温めるだけの光を差していた。


六人は、粗末な木机を円形に囲んで座っていた。


机の上には、風馬が鉛筆で慌ただしく走らせた手書きの屋敷図。


裏手の溝道、倉庫の位置、門番の巡回経路が走り書きになっている。


地雲が指でルートを辿り、焚き火の揺らめきがその影を地図の上に落とした。


「倉庫の金は、年貢と収穫の換金分が混ざっています。大した額ではありませんが、村の復興には十分かと、」


地雲の声は低く、切実だった。


彼の手は地図の屋敷を指で押さえ、いちいちの危険箇所を説明する。


風馬が身体を前に乗り出す。


「門番は二人で、交代は夜半過ぎっス。巡回がいちばん薄くなるのは、深更の二時間ほど。ただし、倉庫の裏手は小道の影が多いから一寸先は闇......」


寝子は力を緩めて尻尾を出すと、小さく震わせながら、目を伏せて心配そうに言う。


「思ったよりも大きいですね......」


地雲は地図を折り畳みながら、策略を噛み砕いて語る。


「侵入は二段構え。まず裏の溝道を通って倉庫脇に回り込み、門番の交代時間を狙って、こちらが屋敷の奥まで入れる一瞬の間を作る。風切は"囮"もしくは"脅し"役、村正は圧力として前面に出す。静かに行くつもりだが、いざとなれば斬り込みも辞さないつもりで行った方がいいですよ。」


風馬が腕を組み、眉を寄せる。


「静かにって言っても、潜入ってだけで目立つだろ。どうやって警備にバレずに倉庫まで辿り着くんだよ?」


風切は地図上の溝道を指でなぞりながら答える。


「溝道は細い。草と石壁で見通しが悪い。そこを伝って屋敷の外壁に沿うように進めば、軒先の光を避けられる。夜風の向きと門番の音の出す方向を利用して足音を殺せばいい。障子や畳の音で誤魔化す"自然音"を逆手にとるんだ。」


計画は具体的になればなるほど軽やかに見えたが、その輪郭は冷酷さを帯びていた。


誰かが失敗すれば、村の冬が消える。


誰かが失敗すれば、命が吹き飛ぶ。


命の重さが軽すぎるのだ。


風切は鞘を押さえる手に力を込めた。


月光が彼の手袋の縫い目を淡く浮かび上がらせる。彼の目は仲間たちを一人ひとり辿っていった。


どの顔も決して平静ではない。


恐怖があって、しかしそれ以上に覚悟がある。


会議は夜半に及び、六人は役割と時間を何度も反芻した。


地雲は注意深く脱出口を二つ確保し、風馬は屋敷の周回路の音がどの方角から聞こえるかを身体で覚えた。


出発は子の刻、夜が最も深く、犬の遠吠えも途切れる頃合い。


焚き火の残り火が赤い血潮のように消えかかると、寝子がそっと立ち上がり、風切に近づいた。彼女の瞳は潤いを帯びている。


「........絶対帰って来いよ、兄者。」


風馬はぎこちなく笑って、風切の手を軽く握った。


「任せとけって!」


その言葉は軽口のつもりだったが、胸には重い重力を残した。


誰かの未来を懸けた約束は、笑いに溶けるほど軽くはない。


夜露に濡れた道を、二人は静かに出発した。


畦道を伝う足跡は小さく、月光が二つの影を伸ばして地面に引きずった。


風が稲を撫でる音が、遠くから二人の足音をかき消す。


村の灯はやがて小さな宝石のように一つ、また一つと消えていき、屋敷の方角だけが黒く、重く沈んでいた。








風切の胸は固く、鞘の中の何かが微かに唸る。


村正の声は聞こえない。


だが彼には、鞘を通して伝わるひんやりした感触がある。


それは眠っている訳ではなく、狩りの前に息を潜める獣の息遣いのようだった。


「行くぞ」


「......おう。」


二人の影は溝道へと消え、月だけがその背を見送った。


 ◇ ◇ ◇


夜の山奥、某所。


人の足が途絶えて久しい、苔むした参道の奥に、その古びた城はあった。


灯籠には火など入っていないのに、ぼんやりと淡い青の光が灯り、風もないのに注連縄がかすかに揺れる。


"人間"の気配はなくとも、そこで行われているのは紛れもなく「会議」だった。


社の内部。


本来なら神が祀られるはずの拝殿は、今やとある妖怪組織の集会所となっている。


障子の影には、形の定まらない影法師が揺れている。


彼らは人間の政治や法とは無縁だが、領域の問題や獲物の配分、そして最近の怪異の動きについて、話して居た。


その瞬間、場の空気が締まった。


奥の部屋へと繋がる襖が、音もなく横に滑る。


姿を見せたのは、人とも妖ともつかぬ......黒い羽織を纏い、長い髪を後ろで束ねた男。


肌は人間のそれよりも白く、瞳は硝子のように澄んで、しかし底には底知れぬ深さがあった。


でも、その身長はぼんやりとしていて分からない。


その姿を見つけた妖怪たちは自然と道を開ける。


彼こそ、このこの集団を束ねる存在......"御前ごぜん様" と呼ばれる妖怪である。


御前は、一度だけまわりを見渡すと、静かに席へ腰を下ろした。


と、その背後から、すっと一人の影が現れる。


御前の秘書......船幽霊だ。


髪の毛が長く、女性かと思ってしまうような佇まいをしていた。


背筋は真っ直ぐ、冷えた空気をまとったような佇まい。


「御前様。ひとつ、急ぎの報告がございます。」


「言え」


船幽霊は手に持った巻物をほどき、低く告げた。


「"村正"が、濃州村に現れました。この前にある死魔から情報を得た.....村丸がその村正を持っているとの情報が。」


御前様の指が、ゆっくりと動き、肘掛けを軽く叩く。


「ふむ.....あの伝説の村正か......その情報は、確かか?」


「はい。刀だけでなく........持ち主の村丸も、濃州村で目撃されたとのこと。封印は完全ではなかったと思われます。」


御前様はわずかに目を伏せ、次に開いた時、その瞳の奥には冷たく研ぎ澄まされた光が宿っていた。


「........村正か。あれほどの呪具は、二度と人の手に渡してはならぬはずだったが。......村丸と言うと......やはり、最近よく指名手配されているあの人間か......」


秘書は一歩前へ進み、膝を折る。


「御前様。どうなさいますか?」


間を置いて、御前様はゆっくりと立ち上がった。


その声音は低く、しかし絶対の命令として響く。


「手に入れろ。今すぐ。」


拝殿の空気が震えた。


「村正が動き出すならば、いずれ災厄となる。ならば、我らの"力"へと組み込むまで。その持ち主の村丸が気まぐれでも、狂っていようとも........力あるものは握り潰すか、支配するかのどちらかだ。」


御前様の背に影法師の輪郭が伸び、天井裏の化け鼠が小さく鳴いた。


全ての妖が息を呑む。


「"村正"を探し出せ。そして......持ち主ごと連れて来い。生死は問わぬ。」


その瞬間、拝殿の灯籠の青い火がふっと揺れ、ひときわ強く光った。


妖たちは頭を垂れる。


古き社に、静かな殺気と妖気が満ちていった。

<村正逸話>

=×××××××レポート=


私はこの前に、ある妖怪と人間が共存するという死後の世界、妖世に仕事で訪れることになった。


内容は、ある妖怪組織の調査だ。


この妖の組織は、表向きは名もなく正体も定かでない影の集団として振る舞っているが、裏では古より「火盗かとう」と呼ばれてきた存在であることがほのめかされている。


火盗は現世(この世とも。)・妖世・冥界のいずれにも属さず、秩序や善悪よりも力の回収を主眼とする独立勢力であり、必要とあらば神獣すら平然と従える。


組織の長である御前(本名は未だに不明)が八岐大蛇を己が意のままに従えたのも、その象徴的な事例とされる。


火盗が本気で動いた際、周囲の集落が、あたかも「天災が通った後」のように荒れ果てていたという記録も残されている。


また、かつて令嬢の稲羽と令息の白間が執り行った婚礼が、突如として八岐大蛇の襲撃を受けて中断した事件(指名手配されているはずの村丸達が解決したという噂あり。真偽不明。)。


人妖の目にはただの怪異騒ぎと映ったそれも、実際には火盗の闇仕事の一つであると噂される。


直接的な証拠は何一つ残っていなかった。


そして、火盗の集会で語られたという、"村正を手に入れる"という言葉。


それはすなわち火盗の再始動を暗示しているのだろうか。


だが、それは私にはきっと関係のない事だろう。

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