< 七十五 > 何の為に
この時期になると風邪が流行って来るよね~.....。
手洗いうがいして今日も元気に小説と勉強頑張ります.....
「でも……勘違いするな。決して仲間にしようってんじゃねぇ。ただ、今暴れられちゃ困るだけだ。封印も効かねぇし、殺すわけにもいかねぇ。だから、使えるもんとして使わせてもらう。」
風が草を揺らし、鳥が遠くで鳴いた。
「オレを、道具として扱うつもりか。」
村正の瞳がわずかに揺らぐ。
その光の奥には、長い年月を背負った影があった。
「……昔も言われたさ。“道具だ”ってな。だから、道具扱いは慣れてしまってんだわオレ。使う者が正義で、斬られる者が悪だとよ。……笑えるだろ?」
乾いた笑いが、喉の奥でこぼれた。
「けどな、実際に斬ってたのはオレだ。血を吸って汚れを背負ったのもオレ。……人間共やお前らのような妖怪共も声を揃えて都合のいいときだけ“妖刀”だの“呪物”だの言いやがる。」
風切は黙っていた。
その言葉の中に、人妖を憎む怨嗟と、自分でもどうしようもない孤独を感じたから。
「……正直、使うとか使われるとか、どっちでもいい。だが相手が“上”に立つ気でいるなら、笑わせるぜ。」
その声には、ほんの少しの寂しさがにじんでいた。
風切はそれを聞き逃さなかった。
「なぁ、村正。」
「なんでぃ。」
「お前、案外人間くせぇよ。」
村正の眉がぴくりと動いた。
「……あぁ? てめぇ、なに言いやがる?」
「腹が減って、怒って、過去に目を逸らす。人間臭ぇにもほどがあるだろ。」
「黙りやがれ。オレぁ妖刀さね。」
「それでも今は“人の姿”だ。ここは妖世だが......人のやり方を少しは覚えとけ。」
そう言いながら風切は縄の端を引き締めると、ぎゅっと音が鳴った。
風切は笑い、村正は渋い顔でため息をついた。
「なぁ村正・」
「今度はなんでぃ。」
「金を稼ぐには“信用”ってのが必要なんだぜ?」
「しんよぅ……?ふん、くだらねぇな。」
「そうだ。裏切られば次はねぇ。だが信じてもらえれば、危ない橋も渡れる。」
「くだらねぇ。力があれば十分だぜ。」
「違ぇな。独りじゃ何もできねぇ。お前の力も、使う奴がいて初めて意味を持つだろ?」
風切は真っすぐに言い切った。
「一緒に盗みに入るぞ。」
村正の目が見開かれる。
「……ぬぁにィ?盗人が妖刀に悪事を持ちかけるたぁ、聞いて呆れるわ。」
「悪事じゃねぇ。生きるための仕事だ。」
しばしの沈黙の後、村正は口角を上げた。
「……へっ、面白ぇじゃねぇか。作戦ぐれぇは聞いてやるよ。ただし、オレをナメたら承知しねぇ。」
「上等だ。」
風切は縄を少し緩めた。
村正は睨みながらも、逃げようとはしない様子でその場に居た。
「大まかな内容としては.....屋敷に潜り込む。金目の物を奪って、それを元手に村を立て直す。……お前の力が必要なんだ。分かるか?」
縄で繋がれた妖刀と盗人が、並んで草原に座っていた。
二人の影は長く伸び、やがて一つに重なろうとしている。
それは、奇妙な“共闘”の始まりを告げる影だった。
◇ ◇ ◇
村へ戻った時。
案の定と言うべきか、四人の視線が一斉に止まった。
「えっ……あれ、村丸だよな……?」
風馬が震える声を上げた。
風馬の目線の目の前に佇む人間のその姿は、確かに村丸のもの。
だが、目の奥に宿る光はまるで別人だった。
寝子が一歩後ずさる。
「……村丸、じゃないね……」
地雲が額を押さえ、低く呟いた。
「これは……どうなってるんですかね……」
れとろは息を詰め、声を失う。
「村丸……なのに……違う……なにこれ……?」
風切は答えず、ただ縄の端を持ったまま立ち尽くす。
その光景を、誰も最後まできっちりと言葉にできなかった。
ただ、彼らの間に漂うのは......“村丸の身体をした何か”が、確かにそこにいるという現実だった。
「落ち着け。説明する。」
風切はしゃがみ込み、村丸の身体を乗っ取った妖刀の村正の顔を真っ直ぐに見据えた。
村正の目は光り、血の匂いと鋼の気配が静かに混ざった。
「こいつ……今、村丸の体をオレから乗っ取ってる。」
「乗っ取ってる……?」
れとろが声を震わせてから、首を傾げる。
風切はゆっくりと、だが端的に状況を語った。
「鞘が壊れて、村正の封印が効かなくなったんだ。だから今、刃の意思が直接、村丸の身体を操ってる。見たまんまだ。体は村丸、中身は村正だ。」
地雲の額に皺が寄る。
「中身が刀、ですか。どういうことでしょうか......」
寝子が指先で縄の繊維を撫でながら、小さく息をつく。
「封印が壊れたって……戻せないのかい?」
「鞘が壊れてる以上、いきなり封じるのは無理だ。」
風切は首を振り、夜風を顔に受けた。
「今は縛って暴れねぇようにしてるだけだ。まずは監視と制御。次に、資金と復興の両輪を動かす。資金があれば、鞘を直す材料や依頼できる職人を探す余裕が生まれる。で、当面の稼ぎで屋敷の金目の物を狙うぞ。」
れとろが震える声で問い返す。
「屋敷に……潜入?あの妖の巣窟に、村正連れて?」
「その通りだ。暴れさせるより、力を利用した方が確実だ。鞘が直るまでの時間稼ぎにもなる。あいつが人を畏怖させる力は有効だろう。」
地雲は腕を組み、冷たい目を村正に向ける。
「でも、暴れたらどうする?縛っていても油断はできないですよ。」
れとろの瞳が僅かに潤む。
「そうだよそうだよ!あのまま村丸が戻らなかったら......」
「それでもやるしかねぇんだよ。いいな?」
風切は声を震わせずに言った。
「村のためだ。村丸のためだ。いいな?」
夜は更に深く、村の屋根に影が落ちる。
四人はそれぞれに息を呑み、覚悟を固めた。
風馬は眉を寄せつつも、渋々同意する。
「面倒だが、兄者の頼みならやるしかねぇスよ。やるなら念入りに、スけどね。」
寝子は小首をかしげてから、決然と頷いた。
「警戒は怠らない。誰かが怪我したら村が困る。だから準備は念入りに、ね.....。」
縛られた村正は、その身じろぎもままならぬまま、時折唇を鳴らす。
村の家々は静まり返り、影だけが彼らの行く手を案内する。
胸の奥で風切は確かな決意を噛み締めた。
村丸を取り戻すこと、村を守ること。
そしてできれば、村正の刃がもう二度と無垢な命を奪わぬようにすることを。
<村正逸話>
この感じだと暫く村丸出てこないので、村丸に関しての情報を一つ。
村丸、剣の腕は悪いんですけど、実は村丸が生まれてから数年経った頃に素質はありそうだと祖父(尚、既に故人の模様。妖世で会えるかも、しれない......?)に言われたことがあります。
ちなみに村丸の祖父は戦死したとか、病死したとか.....の噂がありますが、真実は闇の中。
(そもそも村丸が覚えているかすらも不明。)




