< 七十二 > 望まぬ再会
最近、私は三大欲求の内の食事と睡眠に偏りすぎだと感じました。_(:3」∠)_
朝の光がまだ柔らかく村を包み込む時間帯。
六人は昨夜のざわめきを引きずったまま、村長が用意してくれた古びた家に集まっていた。
木の床はきしみ、雨漏りの跡も残るその家で、誰もが簡単には眠れなかったことが顔に表れている。
村丸は筆談用の手帳を手に取り、静かに皆の目を見渡す。
風切は腕を組み、翼をほんの少し羽ばたかせながら、寝ぼけ眼のままのような表情で「まず、何から手をつける?」と問いかけた。
風馬は寝起き特有のくしゃくしゃの髪をかき上げながら、にやりと笑い、「まあ、家と畑だろ。ここが整わなきゃ、何も始まらねぇぜ」と元気いっぱいに口を開く。
寝子は頭の中で村全体の状況を冷静に整理し、れとろや地雲に小さく頷いた。
れとろは「作物と家の修理、両方を優先するべき」と提案し、村丸は短く『同意』と書く。
地雲は腕を組んで天井を見上げ、「まあ、まずは壊れている家屋の補強が先ですね。瓦を直し、柱を強化しないと、次の嵐でまた倒れる可能性が......」と、低い声で指摘した。
だが、次の瞬間、誰もが顔を曇らせた。資金の問題である。
「金がなきゃ、材料も手に入らねぇよな......」
風馬がぽつりと漏らす。
「それはそうだ......」
風切もにやりと笑ったが、その笑顔は少しも軽くなかった。
「だが、ここで諦めるわけにはいかねぇ。工夫するしかねぇな。」
村丸は筆を取り、紙にぎゅっと『資金どうする?』と書いた。
れとろはその文字を読み、少し考えてから、慎重に答えるように『寄付や援助、前金で手に入る材料もあるけど......限度がある』と書き込む。
寝子は眉をひそめながら「この村の近隣には、資源を持っている者もいる。だが彼らの中には、村のことを理解していない者も多い」と静かに言った。
その声に、六人の中に小さなざわめきが生まれる。
風馬は肩をすくめ、「力ずくで奪う方法もあるっスけど......それはまだ早そうっすね。あくまでも最終手段っスよ。」と、やんわりと警告した。
風切はそれを聞くと、ふと村丸の腰に差してある妖刀・村正を思い出す。
「......あ、そうだ。村丸、あの刀があるじゃねぇか。使えば、一気に戦力になるかもな。」
村丸は目を細め、無言で首を振る。
(だが......)
妖刀・村正は確かに最強の力を持つが、使えば村丸の体を乗っ取る狂暴な"存在"が出現する。
その危険性を六人全員が理解しており、簡単には手を出せなかった。
「......なら、まずは資金をどうするかですね。」
地雲が言葉をまとめる。
れとろは少し俯き、「現実問題、村の資金は限られている。援助を頼むにも時間がかかるよねー」と他人事様に呟いて見せる。
風馬は肩を落としつつも、なおも元気を振り絞って「ま、やるしかねぇだろ。何かしら方法はあるはずだ」と笑う。
その場の空気は静まり返り、六人はそれぞれ考え込む。
(材料の調達、工夫、力づくも......?)
風切は翼を軽く羽ばたかせ、少し不敵に笑う。
「ふふ、方法はあるっスよ。俺たちならなー!」
寝子は小さく息をつき、「だが、無茶は禁物。焦るよりも計画的に動くべき」と忠告する。
れとろも頷き、地雲は小さく「まずは調査と交渉から始めるのが得策だろう」と付け加える。
結局、六人は朝の話し合いを通して、まずは家の修理と作物の管理に取り掛かることに決めた。
しかし、資金の問題は依然として大きな壁として立ちはだかっている。
どうやって必要な金を工面するか、それぞれの心に小さくも大きなような疑問符が浮かんだまま、朝の光が村の屋根を照らし、静かなざわめきを呼んでいた。
話し合いの終わり際に、村丸は筆で小さく『皆で考えよう』と書く。
れとろも、寝子も、地雲も、風切も風馬も、それぞれ小さく頷いた。
六人の視線は揃い、決意のようなものがそこに生まれる。
資金の壁は高い。。
◇ ◇ ◇
朝の光がまだ柔らかく、空気に湿り気を含んでいる畦道を、風切と村丸は二人で歩いていた。
村丸は静かに足元の田んぼの様子を確認しながら、風切は羽をほんのわずかに広げつつも、足取りは軽快であり、村の外れで荒れ果てた畑の間を縫うように続く小道は、まだ昨日の雨のせいで湿った泥に足を取られそうになる。
「......しかし、やっぱり静かだな。この辺も前は賑わっていたりしていたんだろうか。......もしも......八岐大蛇が関係しているとならば.......」
風切はあのいつもの陽気な笑顔はなく、少しだけ緊張を帯びた目つきで周囲を見回す。
二人の間に、しばしの沈黙が訪れた。
「でも、気を抜くなよ。何が飛び出してくるかわからねぇからな。」
その沈黙を裂く風切の言葉は、少年のように軽やかでありながら、経験に裏打ちされた重みも持っていた。
村丸はそれに応えることなく、黙って歩き続ける。
何故かって?油断していたからだ。
その時、突然。
「ッ!」
風切の目が鋭く見開かれる。畦道の端、田んぼの水面近くから、黒い影が音もなく飛び出してきたのだ。
「な......!」
村丸も思わず息を呑む。
影は異様な速度で、まるで風切の視界をすり抜けるかのように二人の間をかすめて通り過ぎた。
次の瞬間には、影は消えた。
だが、それだけでは終わらなかった。
村丸の腰にある妖刀・村正の鞘が、何の前触れもなく「バキッ」と鋭い音を立てて割れたのだ。
まるで鞘自体が何かに押し潰されたかのように、表面の木材は裂け、漆塗りの表面は粉々になって飛び散る。
手で触れると、ひび割れた部分がざらつき、鋭利な破片が指先を刺すような感覚すらあった。
(......え?)
村丸は思わず立ち止まり、目の前の惨状を目視で確認する。
風切も片足を止め、黒い瞳を大きく見開いて鞘を見つめる。
鞘が壊れたということは、村正をいつでも抜ける状態になったということだ。
だが、抜けば村正が乗っ取り、最強の剣術を使う反面、狂暴で制御不能になる。
「くそ......何なんだ、今の影は......」
風切は周囲を見回す。
田んぼの水面には、さっきの影が飛び出した跡だけが残っている。
波紋がゆっくり広がり、やがて何事もなかったかのように静まり返る。
(ああ.....時間か。)
村丸は全身から力が抜け落ちるのを感じた。
足元がふらつき、膝が折れる。
鞘を抱くようにしていた手が震え、村丸はがっくりと項垂れた。
ただただ空気が重い。
「村丸!大丈夫か?」
風切が距離を詰める。
しかし、村丸は何も答えない。
口は唇は動かない。
ただ、彼の体の奥で、何かが熱く、低くうねり始める。
誰かが、ではなく、何かが、今まさに主導権を奪っていく。
その後、立ち上がった。
しかし......村丸の口調は何かおかしい。
江戸っ子特有の口調。
荒い、喧嘩っ早い、そんな訛りが混じった声だった。
「おらァ、出てきたぜ。」
<村正逸話>
妖刀・村正は室町時代辺り(諸説あり)に作られた刀です。
(今回の世界線も室町時代辺りに作られたと仮定して進める予定ですし、基本的に妖刀・村正に関しては史実に基づいた追加設定(特に過去について)を考えたいなと思っています。)
もしかしたら、誰かが妖刀・村正を抜かなくても村正が物事を覚えてられるとしたら過去編あるかもしれません。




