< プロローグ >
人気が上がれば投稿頻度が速くなったり、用語集、全キャラ裏話とか投稿したいなと思っております!ログインしてなくても感想書けるので感想沢山お待ちしております!
どうもI嬢です。純粋なる人間です。
5話ごとにちょっとした幕間があり、後書きには様々なこぼれ話を載せていきます。
(重要な情報があるかも......)
気分によって文体は変わりやすいので悪しからず。
このep.1はプロローグを載せてあります。
ep.1を飛ばしても可能ですが、より物語や幕間を楽しみたい方は読むのを推奨します。
大体1話4000~5000文字くらいを目指して書いてます。
22:30に毎日更新目指してます。
◇ ◇ ◇ は大抵視点変更に使われています。
(現在追加中。追加できていない所あり。)
下記にこの小説を読む上での注意を記載します。
(アンチコメントは可能ですが、あまりにも作品の方針を無視した攻撃的な書き込みは、場合によっては私から削除とブロックをさせてもらいます。あくまで「この作品を読む」と決めて進んでいる以上、こちらのスタイルや描写傾向にはご理解いただいているものとして対応いたしますので、その点だけご注意くださいね。)
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この作品は、和風ファンタジー(妖世)を主軸にした物語です。
以下のような描写・展開が含まれます。
無理のない範囲でお楽しみください。
◆含まれる表現
・暴力・流血・グロテスクな描写
・精神的に不安定なキャラクターの登場および狂気的表現
・善悪の価値観が明確に定まらない道徳的グレーゾーン
・主要登場人物の死、または理不尽・非業の結末
・暗い雰囲気・悲劇的展開・心理描写を楽しめる方向け
・とにかくグロテスクな描写
・パロディ、オマージュ、リスペクト要素
◆宗教・団体・思想との関係について
・本作に登場する宗教名・信仰体系・思想等はすべてフィクションであり、パロディ、オマージュ、リスペクトの部分は一部ありますが、現実の宗教・団体・歴史とは一切関係ありません。
本作の時代背景は、泰平の世が訪れたばかりの江戸。
血を啜り、魂を裂くと恐れられたその妖刀を手にしたのは、一人の青年・■■。
妖刀によって犯した罪を機転に、彼は人妖が交錯する「妖世」へと足を踏み入れてゆきます。
追われる者として、抗う者として、彼が選ぶ道とは何か___
では......ここから先は、■■の行く末をお楽しみください。
〆
20XX年。
山深き、道なき道を、ひとりの少年が歩いていた。
地図にも載らぬ獣道。
誰の声も届かぬ原生林。
文明の気配がまるで最初から存在していなかったかのように、あらゆる音や匂いさえも彼の記憶から剥がれ落ちていった。
日の光は既に、木々の枝葉のさらに向こう側。
まばらに差し込む薄明かりが、少年の影をまだらに刻んでいる。
空を見上げても、どちらが東でどちらが西なのかはもう分からなかった。
時刻の見当さえつかぬほど、濃密な樹海の闇が全てを包み込んでいる。
空気は冷たく、どこか湿っていた。
霧が足元を這い、重くのしかかるような沈黙があたりを支配している。
足元には、ぬかるんだ土と濡れた落ち葉といくつかの獣の爪痕。
歩けば靴が沈み、立ち止まれば背後から気配を感じる。
それでも彼は歩くことをやめなかった。
やめるという選択肢がもはや頭になかった。
靴底は泥に沈み、ズボンの裾には草の汁やひっつき虫がびっしりと絡みついていた。
背負ったリュックは枝で破れ、泥にまみれ、ファスナーの一部は既に破損していた。
頼みの綱だったスマートフォンも、既にバッテリーを失い、今ではただの黒い板に過ぎなかった。
少年の身なりは、ごく普通の男子高校生と変わらないはずだった。
けれど、今の彼に"日常"という言葉は、あまりにも似合わなかった。
「........おかしいな。どこで........間違えた?」
吐き出した言葉は、ただの独り言として空気中に溶けた。
誰にも届かない。
誰にも、聞こえない。
通ってきた林道は土砂崩れで塞がれ、帰り道は獣の唸り声に阻まれた。
進めば進むほど、霧が深くなり、蔦や茨がその先を覆う。
引き返すこともできず、立ち止まることさえ許されない。
けれど、少年の歩みは止まらなかった。
止める理由がなかった。
そして、進む理由もはっきりとはなかった。
それでも、不思議と恐怖はなかった。
あったのは、ただひとつ..........
"この先に何かがある"という、確信に近い直感だけだった。
それは理屈ではなかった。
心の奥底、言葉にならぬ感情のようなものが、彼をこの山の深奥へと導いていた。
そして。
彼は、たどり着いた。
見知らぬ山の奥。谷あいの底。
霧が薄くなるその隙間に、静かに、それは建っていた。
神社だった。
けれど、それは明らかに「生きた社」ではなかった。
誰にも語られず、誰にも思い出されず、ただ時の底に沈んだ、忘却の祠。
木造の鳥居は片方の柱が傾き、縄はほつれ、注連縄の紙垂は裂けていた。
風が吹くたび、吊るされた木札がカラカラと、不気味な音を立てた。
石段は崩れ、狛犬は片方の顔が砕けており、もう片方は苔に埋もれていた。
「........なんで、こんな場所に........」
少年が思わずこぼした声も、また谷風にさらわれていく。
鳥のさえずりも、虫の羽音もない。
木々のざわめきすら止んでいた。
その空間だけが、まるでこの世と"ずれて"いるようだった。
それでも少年は、一歩、また一歩と、石段を上がっていった。
導かれるように。
呼ばれるように。
むしろ、彼はずっと前からここを目指していたのではないか..........
そんな錯覚すら抱いていた。
やがて、本殿の前にたどり着いた。
木製の扉は閉ざされていた。
それは、まるで封じられた記憶のように、古く、重く、沈黙していた。
........そして。
その扉の前に、誰かが立っていた。
朱と白の装束。
ゆるやかな線を描く袖。
長く流れる黒髪と、白い頬に淡く差した紅。
年の頃は、十七か十八。
けれど、その立ち姿には、年齢を超えた静けさがあった。
巫女だった。
間違いなく、巫女だった。
ただし........生きた人間なのかどうか、少年には判断できなかった。
その存在は、この世のものではない気配を孕んでいた。
彼女は少年の姿に気づくと、ゆっくりと唇を開いた。
「........迷いましたか?」
その声はまるで耳元で囁くように柔らかく、"内側"にまで直接響いてくるような不思議な音色だった。
音ではなく、波。
それは、言語の形を借りた、問いだった。
少年は戸惑った。
問いかけられたのに、返事ができない。
「........ここ、神社........ですよね?」
かろうじて絞り出した言葉に、巫女は微笑んだ。
その微笑は、喜びでも安堵でもなかった。
ただ、そこに"在るべきもの"として存在している、穏やかな肯定。
「ええ。ここは遥か昔より祀られてきた社。けれど、もう........とても長い間、誰も訪れませんでした。貴方が........ひさしぶりの、客人です」
「でも........僕、偶然、通りかかって........」
「それは.......偶然、でしょうか?」
巫女は、そっと首を傾げた。
その動きさえ、どこか舞のように美しく、そして不気味だった。
「........それでは少し、昔話を語って差し上げましょう。村正がどれほどの血を啜り、いかなる運命を喰らってきたのかを。」
巫女の白い袖が風に揺れ、彼女は本殿の扉へと歩いていった。
少年は迷った。
だが、足は自然と彼女の後を追っていた。
"行くしかない"と身体の奥深くが告げていた。理屈ではなく、感情でもない。
もっと古くて、もっと根源的な何かが。
本殿の扉は朽ちかけていたが、重かった。
木が湿気を吸い込み、時を止めたかのように軋みを上げる。
ようやく開いたその中は、まるで過去その物を保存したかのようだった。
埃にまみれた木の床に色あせた御幣。
かつて御神体が祀られていたであろう場所には、いまや何も残っていない。
しかし、中央にだけ..........
一振りの刀があった。
黒い台座の上に、白布を被せられたそれは、空間そのものを静止させるような"気"を放っていた。
その周囲にだけ、なぜか埃も落ち葉も積もっていない。
風も届かず、音も揺らがず、まるでその場所だけが時間の外側にあるかのようだった。
「........それは?」
少年が思わず問いかけると、巫女はゆっくりと跪いた。
彼女は、何も言わずに扇子を取り出した。
仄かに香る桧の匂いが、舞うように空間を満たしていく。
巫女の所作は優雅で、しかしどこか不安を覚えるほどに厳かだった。
それは、儀式というより"契り"のようだった。
そして、語りが始まった。
「.......むかし、むかし........この国に、ひと振りの異端の刀がありました。人の手によって鍛えられながらも、人の心から逸れた刃。その名を、"村正"と申します」
その瞬間、少年の背をひやりと風が撫でた。
耳鳴りがして、鼓動が跳ねる。
「村正は、ただの刀ではありません。鉄でありながら、血を喰らい、血を知り、血を望む..........そういうものになってしまったのです。つまり、"妖刀"という物です。」
巫女の声は穏やかだった。
けれど、その語りはどこか、人の世界の出来事とは思えなかった。
「握った者は己を見失います。理性を喰われ、心を飲まれ、憎しみや怒りの記憶だけが心に残る。やがて自我を失い、ただ"斬る"ことだけを望むようになります」
まるで、それは刀というより呪いその物だった。
「その刀に選ばれた、ある男がいました。.....本来の名は恐らく伝わっていないので断言はできないのですが......ね。」
その言葉に、少年の鼓動がまた跳ねた。
呼吸が浅くなる。
視界がわずかに揺れる。
心のどこかが、疼いている。
初めて見た刀のはずなのに。
「彼は、村正に選ばれたのではありません。村正が、彼を喰らったのです。」
巫女の声が、すっと低くなった。
「彼はその刃を握った瞬間、意識を喰われました。そして........この国の大御所.....つまり、江戸川幕府初代将軍、徳川家康を襲い、血を流させたのです。それがすべての始まりでした。」
少年の脳裏に、見たことのない映像が流れる。
血に染まる白い廊下。
手に握られた刀が、自分の意志と関係なく動いている。
誰かが叫んでいる。
何かが崩れる。
そして、逃走。
井戸の中へ。
「村正は追われました。罪人として、逆賊として、呪われた刀の使い手として。やがて彼は井戸へと身を投げ........その先で辿り着いたのは、人ならざる者の住まう世界でした」
少年の目の奥が、ひりついた。
見えないはず、知らないはずの記憶が、断片として流れ込んでくる。
「異界でも彼はお尋ね者として追われました。その魂に焼きついた"村正の殺意"は、世界を侵し、再び血を求め始めたのです。当時、誰も彼を理解できなかった。誰も彼を止められなかった。だからこそ......人も妖も、村正を持つ彼をこう呼んだのです..........」
巫女が、扇子を閉じる。
「........村丸、と」
その名前が、ゆっくりと、深く、神社の空間に沈み込んだ。
それは、まるで封印された何かの鍵が回った音のようだった。
少年は気づけば、膝をついていた。
その手は震え、額には汗が滲んでいた。
けれど、寒くはなかった。
逆に、胸の奥が、熱かった。
情熱。
何かが、目覚めそうだった。
いや、すでに..........
巫女は少年の方へと顔を向け、言った。
「貴方の中に、"彼"の名が響いたのですね?」
少年は返事をしなかった。
否、できなかった。
村丸。
その名はいったい何なのか。
その男は誰だったのか。
そして自分と何の関係があるのか..........。
それはまだ分からない。
今はこの巫女の話を聞く以外にすることは無さそうだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
連載開始記念として、主人公君のイラスト書きました。
お時間があれば、みてみんから見てくださいな。
(ただし、不快に思われても保証はしません。)
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