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02 視える悪役令嬢は、優しさを知らない

昼下がりのティールーム。

上級貴族の娘たちが集うその場に、今日もわたくしはいた。わたくし、オリビア・ミル・ヴァルトライン。西の辺境伯家の令嬢にして、王都の学院に籍を置く者。噂ではこう呼ばれている。


《冷血の令嬢》。


「あなた、その髪飾り……今年の流行色ではないのではなくて?」


わたくしの視線が向いただけで、少女の肩が跳ねる。紅茶を口に含みながら、わたくしはさらに微笑んだ。


「まあ、田舎のサロンでは時が止まっているのでしょうけれど。可愛らしくてよ」


周囲の取り巻きたちは、わたくしの言葉に笑い声を漏らす。そのどれもが、わたくしに取り入るための“道化”に過ぎない。


──それでいい。この学院で生きるには、そうするしかない。


わたくしは“未来”が視える。この少女も、あの少年も、数年後には誰かを陥れ、あるいは裏切られ、落ちていく。全てを踏み外してゆく。誰もが恐れている。誰もが牙を剥く準備をしている。だからこそ、先に“悪”である必要があるのだ。


傷つけられる前に、傷つける。

笑われる前に、冷笑する。

優しくする余地など、ない。


「オリビア様って、本当にお綺麗で……でも、少し怖くて……」


「……ええ。怖い女で結構。そうでなければ、生きていけないのではなくて?」


わたくしは静かに微笑みながら、──この場にいる誰一人として、本心で話したい相手などいないことに気づいている。誰かと心を通わせたいと願えば、()()()()()()のだ。その願いが、どれほど愚かで儚いかを。だから今日も、わたくしは“悪役令嬢”という名の仮面を被る。それは誇りでも、意地でもない。ほんの少しの“防衛本能”。


そして──視えなかった、たった一人、あの少年だけが、唯一、わたくしの“心”を視なかった存在だった。その幻のような記憶だけを、わたくしは今日も、胸の奥にそっとしまっている。

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