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13 視える悪役令嬢は、今日も仮面をかぶる

「──あなたには未来がないのよ」


その声は、夢の中で私にそう言った。暗闇に浮かぶ鏡の中、こちらをじっと見つめる、もう一人の私。その瞳には、何の光もなかった。ただ、真実だけが宿っていた。


「あなたは、誰の物語にも必要とされていない。ただの装飾、あるいは噛ませ犬。いつか排除され、記憶からも消えていく。だから──あなたには未来がないの」


私は、言葉を返せなかった。喉が凍りついたように動かず、心のどこかで「それが真実だ」と認めてしまっていた。


誰かの“未来”は視える。

けれど、自分の“未来”だけは、どこにも存在しない。

私は、選ばれた未来の中に登場しない。誰の傍らにも、笑顔の中にも、涙の中にも、私はいなかった。


それでも、アッシュだけは──あの人だけは、私をその瞳に映してくれた。未来でなく、ただ目の前のわたくしだけを真っ直ぐに見つめていた。


私が今も、こうして歩いているのは、あの眼差しのおかげだ。けれど、その“道”がどこに続いているのか、私自身にはわからない。終着点を視ることができない道は、やがて途絶える。私は──それがどうしようもなく怖い。


気づけば、私は夢の中の鏡を見つめながら、叫んでいた。


「それでも……私は、必要とされたいのよ!」


その瞬間、鏡が砕け散った。破片が宙を舞う。そこに映っていたのは、微笑む少女たち。未来の中で幸せそうに生きる者たち。私は、そのどれにも映っていない。


目が覚めた。ベッドの上。夜明け前の静寂が、耳を締めつけるようだった。私は黙って起き上がり、鏡台の前に座る。その鏡に映るのは、冷ややかな瞳をした悪役令嬢。


私には未来がない。けれど、だからこそ──この仮面は、絶対に外せない。


悪役という役柄だけが、私に存在を許してくれるのだ。それを手放せば、私は誰の記憶にも残らない無意味な骸になってしまう。


「……せめて、醜く、美しく在れ」


自嘲の微笑を浮かべ、私は紅を引いた。仮面をかぶりなおし、その続きを、今日も演じるために。

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