10 視える悪役令嬢は、自分自身がわからない
わたくしには、人の未来が視える。けれど、自分の未来だけは、どれほど凝視しても視えない。
──これは祝福ではなく、呪いではないのかしら。
少女たちは語り合う。夢を、恋を、将来を。
そのすべてが、彼女たちには自由で、まだ決まっていない可能性。けれど、わたくしにとってそれらは、すでに視たものであり、決まりきった分岐の末にすぎない。
その代わりに、わたくしの未来は、どこにも存在しない。
まるで神が、「お前は、世界の観測者にすぎない」と言っているよう。
だからこそ、わたくしは“悪役令嬢”を選んだのだ。
──振る舞いを定めれば、自分を見失わずに済む。
誰もがわたくしを恐れ、侮り、遠巻きにする。それでいい。誰の未来にも干渉せず、自らの未来にも怯えずに済むのなら。
「オリビア様、そんな言い方をなさらなくても……」
「そう思うなら、貴女の言葉に見合う行動をなさい。自ら選んだ未来を、最後まで背負う覚悟もなく、語るべきではなくてよ」
わたくしは冷たく言い放つ。
けれど、それは演技。
仮面。
自分の顔が、曖昧な霧のなかに溶けてしまいそうになるのを恐れて、固く固く塗り固めた、嘘の役割。
“自分がどうなるか分からない”ことは、“自分がどうあればいいのか分からない”という恐怖に繋がる。
その実、だからこそ、わたくしは他人の未来を利用する。臆病の裏返しに、自分の代わりに、他者を明確に規定し、裁き、退ける。そうすれば、自分の輪郭が、少しだけ明確になる気がするのだ。
──わたくしは、悪役である。
それが、わたくしがわたくしであるために、選び取った唯一の未来。




