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4話「全身タイツの変態が美女を襲う展開ってよくあるけど実際小説でやってる人は少ないと思うの」

ピチュン、ピチュン。


鳥が鳴いてチセの瞼を開けていく。

宿のバスローブ姿で寝ていたチセは

ゆっくりと重い身体を起こしていく。


「…今日はどうしようか…」


着替えやその他の荷物を前にいた街から

転送してもらう魔法陣転送サービス、

通称『くぅる便』の申請をしに

もう一度冒険者ギルドに向かう必要がある。


後は食事は朝と夜は決まった時間に部屋に

届けてくれる宿ではある、が、

昼のご飯の用意が必要だ。


この街も来たばかりだし、

今日は街のあちこちを見て回るとしよう。


「よし!」

意気込んで立ち上がるチセ。

ドキドキと高鳴る胸を弾ませて

着替えようと荷物に手を伸ばした、その時。


パリィィィン!!


窓ガラスが粉々に砕け散り、

上から下まで真っ黒なタイツスーツに身を包んだ

変質者が部屋に入ってくる。


…そうだ、ここ頭のおかしい街だった。


とりあえず枕元にある刀を抜き払う。

バスローブがはだけて色々見えているが

冒険者たる者、有事の時は羞恥心など感じない。


「へへ…女ぁ!めちゃくちゃにしてやるぜ!!」


変質者は黒光りするダガーを抜いた。


「ここ3階なんだが。どうやって飛んできたのかは疲れるから訊かないでおいてやる…」


チセは半歩足を引き、霞の構えを取る。


「行くぜ!ヒャッハー!!」


変質者が駆け出す。

構えも何もあったものではない。

完全に素人のナイフ捌きだ。

(随分と派手に登場した割には、あっけない)


勝ちを確信したチセは、

男のナイフをかちあげる。


「うぐえ!?」

「御免!!」


続く二の太刀で男の身体を袈裟に斬りつけた。


だが…ちょっと変な音がした。

金属の響きが反響するような…?


「にゃ?」

チセは手元の刀を見る。

半ば程からバッキリ折れていた。


「にゃんでぇぇぇぇええええ!!!??」


なにあの黒いタイツ!?

鎖帷子か何か!?


瞬間、チセの腹にナイフの柄が突き刺さる。

「ぐうっ!!」


そのままベッドに倒れ込む二人。


「や…やめろ…!!」

チセは抵抗するが、

息が上手くできない状態で男の手を払えなかった。


「へへへ…!綺麗な侍ちゃんよぉ!今から…あれ」


変質者は下半身を弄る。


「…?」

「あっれ…これどうやって脱げるんだ…」


ずっと下半身をゴソゴソしている変質者。


(なんだか分からないが今だ!)


その隙に呼吸を整えたチセは

一点集中、強烈な膝蹴りを変質者の股間に放つ。


ゴォォン


「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!??」


明らかに金属を蹴り抜いた感触と共に

右膝を襲う痛みに声にならない声をあげるチセ。


「す、すげえ!俺の◯◯◯強すぎだろ…!」

「…ふ」


膝の皿と心をやられたチセは抵抗をやめた。

身体から力が抜けていく。

(もう…訳が分からない)


何が世界一安全な街だよ。

そもそものレベルが違いすぎたんだ。

こんなわけのわからない変質者が、

何の修練も、苦労も、してない男が。


何の攻撃も通さないおかしなスーツを着ているだけで

私の、私の10年の努力も、

母上から託された業物も、

全部、ぜんぶ台無しにしていくんだ。


「もう、いいよ…」


チセは諦めて男に話しかける。

両目から涙がつつ、と流れて枕を濡らした。


男は再び下半身をゴソゴソして…

何故かゆっくりとチセから離れる。


「あ。じゃあ良いです」

「…はい?」


「いやあの、可哀想なのは抜けないんで」


言っている意味が理解できなくて、

ゆっくりと身を起こす。


「え、かわい…そう?」

「はい」


男は頭の後ろを掻いた。

ツルッツルの真っ黒なので表情とかわかんないが、

多分笑っているようだった。


「冒険者だって聞いたからすっごい抵抗を予想してて、ツテから防刃スーツ買ったんですけどね。なんか脱げないし。チャックの金具が確か頭の後ろにあったはずなんですけど、見えます?」


「あ、いや…ない…ですね」


「そうですか…はは…騙されたんだなぁ…俺…」


なんか悲壮感漂う雰囲気になっている。


「…何でこんな事を?」


「ハハ…笑わないでくださいよ」

男はチセに向き直る。

「この街に来たばかりの女性冒険者襲うの趣味なんです!」


…あー、そうー。


「うん、どーでもいいや」

チセはジト目でバスローブを直してから男に言う。

「…拙者…襲う?」


「あ、いや、もう帰りますよ。お母さんが朝食作って待ってくれてるんで!」


「そうですか、じゃあ気をつけて」


『じゃーーーー…』


「はい!本日はご迷惑をお掛けしました!」


『まぁーーーーー…』


「…何か聞こえません?」


「あ、俺の人生が終わった音ですね」


「きぃぃぃぃぃぃっく!!!!」

   ドゴォ!

「どもほるりんくるうゥ!!!」


割れた窓から人影が飛び出してきた。

さっきまで話をしていた男の身体がくの字になる。

その腹部には銀の鉄靴が刺さっていた。

否。蹴られていた。


余波で部屋の着替えや荷物がチセの方に飛んでくる。

降り立ったのは、いつぞやの銀髪少女。


「…いたいけな女の子をいつものように襲ったんだね!酷いね!ゴミだね!外道だね!」

「ヒュー…ヒュー…」


「もうダメだね!許されないね!死ぬしかないね!」

「ヒュー…ヒュー…」


漆黒の暖かそうなファーのついたドレスに銀色の甲冑が組み合わさったような鎧だった。

スカート部分は大きく切られ、動きやすくなっている。

思えば昨日の赤い少女の鎧はそっくりのデザインだが、あっちは下半身を露出しないようなつくりだった。


そんな現実を逃避した思考をしているチセは、

頭にパンティを乗せたまま銀髪の少女を見つめる。


「…その人、どうするの」

「ころす!」

「そうですか」


でも何か初犯じゃ無いっぽいし、

何だかんだ殺さないのではないかな…?


「お邪魔します」


ガチャ、と扉が開いて赤い少女が現れる。


「いや鍵…かけて…たんだけど…」

「お姉ちゃんそいつ早く殺して」

「エステル!」


姉妹だった。

まぁ何かそっくりだったしね?

でもお姉さんの方が赤い少女だと思ってた。


「すみません、お騒がせして」


赤い少女が目配せすると、

動かなくなった変質者を連れて

お姉さんの方の少女が窓から出ていく。


「うん…あぁ、そうだ」

「はい?」

「あなた達は…?」


「私はエスタロッテ・リャノア。この街で暮らすフリーターです。つまり何でも屋です」


エスタロッテ…そう言えばお姉さんに

エステルと呼ばれていたな。


「えと、お姉さんの方は?」


「姉はイリーゼット・リャノア。この街で暮らすフリーターです。つまり何でも屋です」


「そっかぁ…」


チセは理解を諦めた。


その後、エステルが繰る人形達によって

宿屋の一室は新居同様の状態になるのだった。

チセはね、弱いわけじゃないんです。

lackの数値がマイナスに振り切れてる

可哀想なやつなだけなんです。

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