2話「この嘘つきめ!なんで嘘つくんですか?お前が始めた物語だろ?」
冒険者ギルドという場所は
人口1000人を超える規模の市町村には
必ず設置しなければならない義務がある。
城壁付近の奇妙な光景がまるで嘘のように
賑やかな大通りをチセは歩く。
様々な露店が立ち並び、
時に串焼きの美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。
「…ふむ、ここか」
誘惑を断ち切り、たどり着いた先は、
どの街にもある見た目を統一化された建物。
看板にはリュックサックと剣と杖が描かれた紋章、
そう、ここが冒険者ギルドである。
開け放たれた門を潜り、中へ入る。
瞬間、様々な視線がチセに集中する。
(おや…よそ者には厳しい街なのかな)
気にせずに酒場となっている空間を抜けて
カウンターに立っている事務員の前に出る。
「ようこそエンダント支部へ。移籍の方ですか?」
「あぁ。これを頼む」
懐から取り出した木札のような物を
事務員に渡すと、事務員は受け取り微弱な魔力を流す。
途端に宙にチセの経歴と実績などが表示され、
それに素早く目を通していく。
「確認できました」
事務員は木札を返し、数枚の紙を渡す。
「こちらに改めて名前と出身、ご紹介先と、大体で構いませんので滞在期間をお書き下さい。テーブルはあちらに」
「あぁ、ありがと…」
「バァン!!!」
ギルドの入り口から突風が吹く。
立っていたのはあどけない姿をした少女だった。
あのぐらいならチセと同じ16ぐらいだろうか?
キラキラしたアクアマリンの瞳で
白い羽を飾りに付けたコットンキャスケットを被り
銀の髪を風にたなびかせる姿は、
まるで本の中でしか見たことのない妖精のよう。
両手は大きく広げ、どことなくドヤ顔なのは
扉を開ける真似をしたのだろうか?
…この建物の入り口はそもそも開けっぱなしなのだが。
「な、何だ…?」
チセが困惑している間に少女は何かを引きずりながら
ギルドに足を踏み入れていく。
動物か何かか…?
と思ったのだが、コレはどうやら人のようだ。
うわーこれ酷いな。
なんというか…あー、うん、酷いな。
全身火傷したみたいな状態で、
紐でぐるぐる巻きにされて引きずられているみたいだ。
「あ!今日はエリスが受付なんだね!」
少女は無垢な声で事務員を見る。
「…こんにちは、イリーゼットさん。ええと…?」
事務員も困惑しながら引きずられてる男を見る。
すると…男が口を開いた。
「わ、わらひは…とうぞくだん『蝶の夢』の…頭領でふ」
「あらまぁ」事務員は困ったように笑う。
「あらまぁ!?」
チセは事務員と男を交互に見る。
いやいやいや待ってくれ、
私の価値観がおかしいのか?
このニッコニコの少女はなんだ?
盗賊団の頭領ですって言ったこの男は…?
「イリーゼットさん、盗賊団の頭領はギルドではなく、衛兵団にお引き渡しをお願いしている筈ですが…?」
「…ん!?そうじゃん!?」
少女は縄から手を離し、
頭領に向き直ると足を振り上げ…
蹴り抜いた。
「マ"ァァァァァァァ…!!!!」
ドゴォォォンとギルドの入り口脇の壁に
細長い穴が空く。
(あぁ、こいつかぁ〜)
「あらまぁ」
「あらまぁって…えぇ?」
「エリス!ありがと!じゃ、行ってくるね!」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
少女はその穴を通って外へと消えていった。
そしてギルド内は変わらない喧騒を取り戻す。
チセはジト目でその光景から視線を戻し、
書類を書き始めるのだった。
(絶対何か様子がおかしいぞこの街…)
だが配属換えを希望したのは自分だ。
あの少女、どう考えても只者ではない。
あんなのが冒険者ギルドの顔見知り、
て言うかドレスアーマーのような物を着ていたし
冒険者なんだろうか。
(強者を求め、自分の信ずる刃の導きでここに来た)
でもその選択を後悔し始めている。
なんか、あのニッコニコの衛兵、
施設破壊をあらまぁ、で片付ける事務員、
余波で吹き飛んだはずだが席を直して談笑する人々、
…なんだろう、この疎外感。
関わり合いになりたくないなぁ…。
Q「あの銀髪の女の子は誰?」
A「主人公だよ!やったね!」
Q「チセちゃんは?」
A「彼女は村人枠ですね」