7話 シンシア先生の家
最後にシンシア先生に会った時に渡された、古地図だけを目当てに、私は先生の家へと馬車を走らせている。
まさか貴族の令嬢が一人で外出するわけにもいかないので、いちばん信頼できるメイドひとりをつれて。
彼女には先生に挨拶に行くだけだと告げてある。
森の入り口近くに、その家はあった。
木々に囲まれた、花の咲き乱れる小さな庭園。
扉を開き、メイドに訪問の約束を伝えると、シンシア先生が出てきた。
「久しぶりね、ジュリアさん」
「先生のほうこそ、おひさしぶりです」
「――ここに来たということは、何か伝えたいことがあるんじゃないかしら?例えば、エラのことについて」
「――私は義妹を助けたいんです。けれど母に妨害されて、どうにもならなくて」
私がそう言うと、「お茶でも飲みながら話し合いましょう」と言って、客間に通してもらった。
それにしても、不思議な家だった。
ハーブの香りが漂う室内の壁は、本で満たされており、数多くの植物が置いてあった。
「お待たせしてしまったわ。これを貴女に渡したくて」
「――これは⁉」
シンシア先生が持ってきたのは、古びた本と使い込まれた革袋。
「これで勉強を続けるように、エラに伝えておいてもらえるかしら?」
そう言って、シンシア先生は古びた本を私に渡した。
「こちらも、あの娘ならすぐ使い方がわかるはずよ」
そう言って、革袋を私に渡す。
「渡してあげてね」
そう言ってシンシア先生は微笑みながら、立ち去る私たちを見送った。